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コネクター  作者: ユエ
4章 自由への渇望
34/57

1 袋小路

ここから4章開幕です。


続きが気になるようでしたら、ブクマ評価などしてもらえると、嬉しいです。

それでは、お楽しみください。

 

 

 


 流は、がむしゃらに歩道を走っていた。



「はっ、はっ、はあっ」



 走法も何もなく、ただただ足を素早く動かし続けるだけだ。すぐに呼吸は乱れ、身体は重くなり、足元はおぼつかなくなる。

 それでも止まることはできない。止まってはいけないのだと気力を振り絞って、前へ。ひたすらに前へと進む。



「うぅ……、が……っ」



 とうとう足を縺れさせて、流は無様に地面を滑った。強かにぶつけた拳や膝の痛みをどこか遠くに感じながら、ゆっくりと意識が遠のいていく。限界だった。


 気絶―――……。






 次に目を覚ますと、見慣れた白い天井。いつもの病室だった。



「またここかよ……」



 開口一番悪態をつく。狙い済ませたように右手の携帯端末からコネクターの声がした。



「目が覚めたか、流。気分はどうだ?」


「言わなくても分かるだろ、最悪だ……」



 適当な返事を返しながら、流はベッドから起き上がって運動靴を履く。ここ数日ですっかり履き潰されたおかげか、紐を緩めずともすんなり踵が入る。

流はもはや警戒心すらなく、さっさと病室を後にした。



「……美月の様子は?」



 ぶっきらぼうに訊ねる。二週間前のとある出来事から、彼女の容態を気にかけるのが日課になっていた。

 コネクターからの回答はいつも同じで、「何も変わりなく正常」だった。


 冬眠装置の破損は軽度なものだった。心配された美月の肉体へのダメージも、数値的に表面化するほどのものではなかった。破損した美月の『ゆりかご』は新しい物と取り替えられ、美月の身体はその中で安らかに眠り続けている。


 ただしそれは現在の、生命活動の一切を止めた状態での診断だ。彼女が本来の意味で健康状態を保てているのかは、詰まるところ起こしてみなければ分からない。



「あまり気に病むな。きっと大丈夫だ」


「……分かってるさ! 悪いのは全部お前だ! お前が、俺を、起こしたせいだ!」



 無責任な励ましに、流は人目も憚らずに叫び返していた。今や心の琴線は張り詰めた弦同然だ。コネクターの無造作なひと言でさえ聞き流すことができずに、度々癇癪を爆発させる。



「今に見てろよ、ぶっ壊してやる……。俺の邪魔をするもの全部な!」



 箍が外れたように息巻いて、周り全てに威嚇して、脅しかける。もはや真っ当な会話が成立しない状態だ。


 これでも数日は大人しくしていた。八方を塞がれ、為す術はなく、状況は一向に好転しない。何より取り返しのつかない事態を引き起こしかけたのだ、塞ぎ込みたくもなる。

 三日間は病室で過ごした。


 四日目に少し外出をしてみたが、都立高校へ向かおうか少し迷った。美月のコネクターがどうなったのか、気になっていた。すべての事情を知った模倣人格は、果たして今後どう動くのか。


 だが、そんな心配はそもそも必要がなかった。模倣された美月の人格は、あらかじめバックアップしておいた記憶を自らに上書きし、すべての事情を知った状況を()()()()()()()()()のだ。もはや、気遣う気が失せた。


 これを契機にわずかだが気力が回復の兆しを見せ、流は『都市』を歩き回ることにした。


 図書館、博物館、歴史資料館、地下の植物プラント。


 一週間かけて『都市』をあちこち歩き回り、あらゆる施設を見て回って……。結果として、何一つ有益なものを得ることができなかった。


 ついに堪え切れなくなり、自らの限界に挑むような危険な方法で走り始めた。直接的な自傷行為は『都市』のシステムに見咎められ、すぐさま邪魔が入ってしまう。だから気が済むまで走る。

 それしかできることがなかった。


 そんな心境でストレスの矛先をコネクターに向けたとして、誰が流を責められよう。湧き上がる怒りのすべては、コネクターにぶつけるべきなのだ。



「冬眠するにも、自殺するにも、邪魔するのはいつだってお前らコネクターだ。どうしたってお前らが邪魔をする。だから壊す。全部壊してやる……っ」


「なるほど、合理的だな」


「達観してんじゃねえ! 一番はお前だ、鉄屑が!」 



 蹴飛ばす勢いで扉を開き、病院から出て歩道を歩く。


 大きな失敗を経たところで、結局流がやることは何も変わらない。人工知能が短絡的な結論を導き出せるように、危機感を煽ってやるしかない。ただし、その攻撃対象はあくまでアンドロイドでなくてはならない。



「武器だ。そのための武器が必要なんだ」



 一体一体は大した話ではなくとも、何千を超える規模になれば途方もない。それが次から次へ生み出されていく。

 流一人きりでは太刀打ちできない。故に、武力を求めた。



「偉い奴から順番に壊していけば、後に残った無能どもにはどうにもできないだろ」


「我々は全機の集合意識に従い行動している。皆で考え、皆で結論を出す。上を潰せば下は無能ばかりというのは、だから通用しないぞ?」


「俺が事細かに目的を話してやる理由は、だからそれだよ、コネクター。ちゃんとお仲間に伝えたか? なら考えろ。何が最適解なのかってな」


「では教えてくれ、流。これからどうするつもりだ?」



 流の挑発には乗らず、コネクターは淡々と問いを返した。

 武器を手に入れると言っても、簡単なことではないはずだ。



「『都市』に存在する武器と呼べそうなものはテーザーガンくらいだが、あれはお前には扱えない。各家庭に設置された調度品や家具類は鈍器にできそうだが、望むほどの武力を発揮することはないだろう。大型の機械なら確かにあるが、安全設定(セーフティー)がある以上、破壊活動には使えない」


「ああ、だろうな。そういう場所だここは」



『都市』は人間が永い眠りに就くことを目的に建設された。間違っても個人が力を振り回せそうな作りにはなっていない。

 だからこそ、選択できる無茶がある。



「俺はこの『都市』を出る」


「……何?」


「『都市』の外で対抗手段を探すんだよ。ここにないのなら、外から調達するしかない」



 悩み、考え抜いた末に打ち出した計画。その全容を聞き、コネクターは言葉を失った。しばし通信が途切れる。



「それは……とても危険だ。何か当てがあるわけではないだろう?」



 コネクターの意見に対し、流はすぐに反論をぶつけた。



「あるさ。この『都市』だけが世界のすべてじゃない。世界はもっと広いんだ。なら、何かいるだろ。んで、話をして、協力してもらって、強力な武器を手に入れる。そんでお前らを倒す」


「……流、それはあまりに荒唐無稽というんじゃないか?」



 少なくとも、冗談ではないことは伝わったらしい。コネクターは笑い飛ばすでもなく、言葉の端を濁しながらも説得を試みる。



「雲をつかむような話だ、それは。成功失敗以前に計画として破綻している」


「いいんだよ、そんくらいで。綿密な計画立てたってお前らに筒抜けなんだ。考えるだけ無駄さ」



 流は飄々と言ってのける。どこかふざけているようでありながら、しかし考えそのものは本気だった。

 他に方法がない、ならば実行する。強固な姿勢を示して見せる。



「どうだ、焦って来ただろ? 勝手なことされたくなければ、今すぐ決断を出してみろ、コネクター」



 最後に煽り文句を付け加えた。これが想像力の乏しい彼らに対する正しいアプローチの仕方に違いない。



「分かった、検討しよう」


「一生やってろよ、機械頭」



 まるで進歩のない返答を鼻で笑い、道路を流れる移動ボックスに飛び乗った。

 

 


 

☆   ☆   ☆


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