13 敗走
「流……?」
アンドロイドの無骨な手が、そっと流の腕に寄り添う。
流は、間髪入れずに振り払っていた。
「離しやがれ。てめえは機械だ、美月じゃない!」
大口を開いて強がってみせるが、内心かなり荒れていた。
目の前のアンドロイドが発する命乞いが、どこまでも流の心を揺さぶり、動揺を誘う。
「流。ねえ、流、お願いだから!」
必死になって縋りついてくるアンドロイドが、いい加減目障りだった。
「離せって言ってんだよ!」
「きゃっ」
苛立たしげに思い切り突き飛ばす。アンドロイドは大きくバランスを崩して、『ゆりかご』に激しくぶつかった。
途端に、ビーッという警報が流の耳を劈いた。流は堪らず両手で耳を塞ぐ。
「な、何だいきなり……?」
「嘘でしょ? 装置が壊れ……? 駄目!」
鳴り響く警報の向こうからアンドロイドの悲鳴が聞こえてくる。彼女は装置のパネルに飛びつき、喚きながら認証を行い、キーボードを操作し始めた。
その間にも緊急事態は進行し、『ゆりかご』内部の電気ランプが真っ赤な警告色を発する。
「やっ、ダメダメ! 何とか、なんとかして……っ。誰か、お願い! 流? 流っ!」
助けを呼ぶ声が何度も耳にこだまして、しかし流は全く動けずにいた。
「……え、何とかって……? 何を……」
事態は把握できている。『ゆりかご』が壊れた。中にいる美月の生命維持に明らかな支障をきたしている。このままでは死んでしまうだろう。
誰のせいで?
「俺のせいで、美月が死ぬ?」
ようやく頭の理解が追い付いた。同時にひゅっ、と掠れた音が喉を通り抜け、心臓の鼓動が跳ね上がる。
まずいと思った。何とかしなければと。
「お、おい……っ!」
一歩前に出るが、しかし何をどうすればいいのか分からず、思考は簡単に止まる。
流は『ゆりかご』に関する専門知識など持ち合わせていない。恐怖は舌の根を凍りつかせて、アンドロイドにかけてやる言葉すら出て来ない。
流にできることなど、何もない。
「このままじゃ、私が……。嘘でしょ? いやっ、いやああああ! 死にたくない! 死にたくないぃ! 何とかして! 助けて、流! 流ぇっ!」
「あ―――、う、わ……っ!」
響く甲高い悲鳴と警告音に、罪の意識が極限まで揺り動かされる。ぶわっと総毛立ち、開いた汗腺からおびただしい量の冷や汗が溢れ出した。
震える手足が勝手に動き始める。流は、転げ回る形でその場から逃げ出した。
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