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コネクター  作者: ユエ
3章 生殺与奪
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9 破壊衝動

 


「何を……?」



 場違いにも不敵に笑う流のことが、理解できない。コネクターは困惑の声を漏らす。

 だが、流は笑みを崩さなかった。


 もはや流にとって重要なのは、『都市』を包む計画の全容でも裏で暗躍していた首謀者の末路でもない、コネクターとの力関係だ。

 目下、流にとっての無視できない脅威が彼らであり、その正体は明るみに出た。得体の知れない恐怖に屈する必要がないのだとすれば、いくらでもやりようはある。



「人間基準にしてくれたおかげで、明るい未来ってやつが見えてきたぜ」


「流、危険な考えは持たない方がいい。人間であるお前に危害を加えることはできないからああいう結果になっただけで、」


「本当の力を隠していたとでも言いたいのか? それで腕一本取られてたんじゃあ、話にならないだろ。もう何にも怖くねえ。……何だったら、ちょっと試してみるか?」


「待て、流!」



 コネクターが制止を叫ぶ。しかし、そんなものは何の拘束力も持たない。


 勢いよく飛び出した流は、そこを通りかかったアンドロイドを蹴り倒し、その頭部を踏みつけた。大きくひしゃげた頭部からパーツが飛び散り、床に当たって小さな音を連続させる。



「はっ、ざまあみろ!」



 流は思うままに勝鬨を上げた。歓喜の哄笑は嫌に大きく響いて広がっていく。

 興奮を隠し切れず、心臓は飛び跳ね、全身が火照る。火のついた嗜虐心は恐れることを放棄して、倒れ伏したアンドロイドに再三攻撃を加えた。


 と、突然別のアンドロイドに背後から羽交い絞めにされる。



「うおっ! この、離せ、この野郎!」



 流は構うことなく全身を捩って抵抗し、難なく拘束を振り切った。振り返り、そこにいた一体を思い切り突き飛ばす。アンドロイドはあっけなく吹き飛び、床で三回転がって動かなくなった。



「よし……―――っと」



 さらなる攻勢に出ようとした流は、いつの間にか囲まれていることに気付いて身体を引き止めた。工場内にいたアンドロイドが全機集結し、流を中心として円陣を組んでいる。

 それでも流は、余裕を保っていられた。強がりでも誤魔化しでもなく、確かな勝算が胸の内にあった。



「……どうした、やり返せんならやり返してみろよ!」



 流の挑発に、しかしアンドロイドは動かない。 



「思った通りだ、できねえ」



 流は嗤う。


 コネクターには想像力がない。次はこうなるかも知れない、次はああなるかも知れない。だから先んじてこれを禁止しよう。そのすべては危険を想像することから生まれる行動だ。

 それらが欠如している彼らには、人間を止めることができない。


 だから、一方的に破壊することができる。



「それは違う。我々は我々の価値観に従って選択をしているだけだ」



 携帯端末からの声に、流はこめかみをピクリと痙攣させた。



「まだ本気になれないのか? それじゃあ、」



 流はあえてゆっくりと歩み始め、狙い定めると突貫を仕掛ける。

 近くにいた一体に飛びつき、その頭部を無理やり捻じり折って、もぎ取った。



「腕が壊せんなら、首だって折ることくらいできる!」



 崩れ落ちたアンドロイドを前に、満足気に笑い、壊れた頭部を掲げて見せる。

 あれほど不気味だった瞳はもはや、何も映すことはできない。それを自分がやったのだと思うと、笑わずにはいられなかった。


 何とかなる。

 何とでもできる。

 たとえアンドロイドが業を煮やしたとしても、恐るるに足らず。



「……動かねえのか、何でだよ……」



 一縷の希望を抱いた矢先、期待は裏切られた。

 周囲に集ったアンドロイドたちは、同胞が無残に破壊されるのを目の当たりにしてなお動かなかった。



「どうして俺を襲いに来ない! 目の前でこいつが壊されて、それで何で突っ立ってやがる!」



 堪らず張り上げた大声だけが虚しく響く。


 その理由を、コネクターが事もなげに告げる。



「流。お前が破壊した彼の代替機体は、保管庫にいくらでも用意されている。そのすべてを破壊してようやく、彼を殺したということになる」


「……」


「仮にそれを成し遂げたとして。もう一度作ればそれで事足りるだろう? いくらでも作り出せるんだ、機械だから」


「……っ」



 ギリッ、と歯噛みする流に、コネクターは淡々と言葉を突き立てていく。

 お前の行為は何一つ意味を為さないのだ、と。



「我々に予測能力がないと言うが流、それは違う。価値観の相違だ。我々の身体はいくらでも替えが利く。だから、そもそも機体の損傷に関して危機感を抱く必要がないんだ」



 流だって、その可能性を考えなかったわけではない。認めたくなかっただけだ。

 ようやく優位に立てると思ったから。突破口が開けると思ったから。悩んで苦しみ、何とか手繰り寄せた小さな希望に縋りたかっただけだ。



「……だったら、取り返しのつかないことをするまでだ。無視できなくさせてやるっ」



 長い沈黙の末、流はアンドロイドの包囲網から抜け、歩き出した。その瞳に激しい怒りを孕ませて。 



「流、落ち着け。癇癪のままに行動しても、」


「黙ってろ! ……くそ、馬鹿にしやがって!」



 今に見てろよ! とその場のアンドロイドすべてを睨みつけ、流は足早に工場を出た。


 

 

  

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