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コネクター  作者: ユエ
3章 生殺与奪
22/57

5 生産工場

 

 

『都市』に点在するアンドロイド生産工場の一つへ、流はやって来た。

 真四角の白い建物だ。壁面に赤いペンキで[P9]と大きく書かれている。


 流の持つ学生階級では、工場の入口ゲートを開けることはできない。

 素直にゲートバーの下をくぐり、通り抜けることにする。



「ん? 何だ、君は。ちょ、ちょっと待ちなさい!」



 詰所で暇を持て余していた警備員に気付かれ、当然の如く呼び止められた。

 慌てた様子で窓口から身を乗り出したのは、警備服を模した淡い水色の外装パーツを身に着けたアンドロイド。

 警告のつもりか、左手の手首から先を警棒に変え、流に詰め寄った。



「君は学生かな? 学校はどうした? ここに何の用があって来たんだ?」

「うるせえ」



 聞かれるなり、流は大層面倒くさそうに嘆息した。毎度このやり取りをやるのはごめんこうむる。



「うる―――、なんだって?」

「機械の人格と代われって言ってんだよ、話が進まねえだろ」



 流が最後まで言い終わるより早く、警備員は自ら機能停止に陥り、がっくんと頭部が落ちる。

 

 数秒のタイムラグ。そして、ゆっくりと上げられる面。ガラス玉のように無機質な色を湛えた瞳が流を映し出す。

 これにもだいぶ慣れてきた。



「鈴白流。その言動は模倣人格に多大な困惑を与えるため、控えてもらいたい」


「どこで何しようが自由だとか抜かしていたくせに。勝手言いやがるぜ、ったく」



 流はぶつくさ文句を言いつつ、すぐに「まあいい」と切り替えた。



「工場に入れろ」


「入れることはできない」


「何で?」


「身分が学生である鈴白流では、この工場への立ち入りを容認できない」



 テーザーガンを扱えなかったのと同じ理由だ。

 学生は都立図書館や資料館、スポーツ施設などを優先的に利用できるが、勉学に関わりのない場所への立ち入りは制限される。

 生産工場へ入るためには、それに準じた職歴を持つか、それ相応の技術者でなければならない。



「だったら、俺の身分証のグレードを引き上げてくれ。俺はもう何回も学校を卒業して働いているそうじゃないか。学生として扱う必要ないだろ?」


「鈴白流が生産工場の職員であったという記録は存在しない」


「けどお前ら、俺の行動を極力制限しないそうじゃないか。俺が工場の中に入るのは、どうしても許可できないってレベルの話になるのか?」


「……少し待って欲しい」



 三十秒の空白を挟み、コネクターは結論を出した。



「鈴白流の身分証の等級を最大限引き上げた。どこにでも自由に出入りが可能となる」


「どこにでも? ……っていうのは、つまり、どの程度のことを言うんだ?」


「どこにでも、だ」



 淡々と繰り返される短い返答。


 流は、顔をしかめるしかない。



「……そのレベルだと、他はどうなるんだ? 例えば、テーザーガンは撃てるのか?」


「不可能だ。テーザーガンを持つ権限は、警察関係者として仕事に従事する者にのみ許可される」


「そこまでグレードを引き上げてくれって言ったら?」


「それは容認できない。鈴白流がテーザーガンを手に入れた結果、我々を含め、多くの者に危害が及ぶ可能性が非常に高い」


「……そうか。分かった。じゃあ遠慮なく入らせてもらうぞ」



 去り際、警備員の中で人格が再度入れ替わる。



「どうぞお気をつけて」



 彼はまるで何事もなく仕事を全うしたかのように、朗らかな声で流を見送った。

 

 

 

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