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初めての決闘

続きました。お楽しみは次回に持ち越し。ある意味で次で区切ります。

 角川桜子さくらこ、角川いつきという両親から生まれた私、角川萌々子ももこは、

両親とついでにお兄ちゃんからの愛情を受けて育った、

ごくごく一般の普通の女の子。……だと思う。


 普通に幼稚園に通って小学校に通って、中学、高校に通って迎えた18の春。

まだ背が大きくなるという希望を込めて入学前に買った制服のスカートのすそは、未だに膝に下側にすら届きそうにないのが悲しい。

いやいや、私の体の成長具合は一般的なはず。たぶん、絶対……


 そんな私が何の因果かこちらの世界に(そもそもどういった場所なのかもわからないし)なぜ来てしまったのかもわからないけれど、自分の目の前で起ころうとしていたイケメンたちの決闘を止めないといけない事だけはハッキリとしていた。


 そう思った私が彼らに言った決闘に代わる提案というのは――


「「相撲?」」

 二人とも、今まで聞いたことがない言葉に首を傾げていた。

「そう、相撲!!相撲なのよっ!!」

 勢い任せで言いきった。なんとかしないと~~と思って出てきたのが

まさかの相撲なんてね……

以前なんとなくお母さんが見ていたTVを一緒になって見ていたからかなぁ?


 私は別に、相撲に関しての知識なんてほとんどない。

 現役のお相撲さんたちには悪いけど、ぶよぶよに太ったお相撲さんたちがまわし一丁で土俵の上で抱き合ったり場外へ押し合ったりしているなぁってくらいの認識しかなかったし。そりゃ、相撲ができたのは神様への奉納のための見世物の戦いのためだったり、審判……行司って言うんだったかな?昔はその人が、間違えた裁定を下しちゃったら行司差し違えは切腹しないといけなかったりとか、他人からの又聞きでしかない妙な知識しか持っていないけども。


「で、その相撲って何なんだよ?」

「相撲ってのは、えーっとたしか、決闘の方法の一つなの。」

「ふーん……」

 相手があの貴族っぽい人じゃないからか、なんだかそっけないけど険のない言葉だった。

 彼は髪色が黒に近い紺色だし、顔立ちとか見ているとこちらの世界の学校にいそうなクールな生徒会長みたいだった。

 ここが元の世界だったら私も浮かれていたかもしれないのに、この状況ではそうしているわけにもいかないのが残念でならなかった。


 このまま突っ立ってるわけにもいかなかったから、

私は土俵を作ると言って二人が立っているところを中心に、地面に円を描くことにした――


(――って、森の中で草が生い茂っているし、かといって落ちている手ごろな枝もない!?)

 周囲を観察すると森の中のひらけた空間だといっても、ここが相撲に適した場所じゃないことに今更ながらに気づいた。


「……どうかしました?お嬢さん。」

 動きのかたまった私に、貴族っぽいイケメンが声を掛けてきた。

 第一印象が頭に血がのぼって決闘を仕掛けていた残念な貴族。だったけど、第一印象が最悪なだけかもしれない。私に対しての接し方も優しいし、いったい二人の間で何があったんだろう?不思議でならない。


 私は二人に、相撲に適した(地面が土で小石があまりない、適度に広い空間のある、人があまり来なくて邪魔されそうにない)場所がないかどうか尋ねた。

 二人は記憶を探りながら「あそこしかない……かな。」「……面倒なことになったなぁ、おい。」と、該当する場所はあるけど嫌そうな態度をとっていた。

 あそこっていったい、どこなんだろう?


 私が提案した相撲という決闘を行うため、私は彼らに案内されて森を出た。

私達が今までいたのは小高い山の中だったらしく、眼下に広がる光景に思わずまぶしさを覚えた。


 周囲を四角く覆った赤レンガの壁、それに守られるように大小さまざまな家や店が並び、周囲を一望できるその国の顔ともいえるお城に、一際差別化されて目立ったのは――学校の校舎?

 正直、異世界じゃなくて西洋の土地に送り込まれましたと言われても違和感がないのよね。っていうかこちらの世界でも、探せば実際に見つかるんじゃない?

 それでもここがこちらの世界じゃないと確信が持てるのは、剣を持ち歩けていて決闘ができる。ってところ。過去の~~かもしれないけど、それはこれから調べてみないとわからないし。


 私は二人のイケメンに挟まれる形で並んで山を降りてそこへ向かっていた。

二人とも隣にいたくないみたいだし、かといって相手の背中を見るのも嫌みたいだし、自然とそういう形になってしまっただけなんだけどね。


 それでも野生の獣でも出てくるのか、二人とも何かを警戒しながら歩いているみたい。 まるで二人に守られてると思うと、この道中もそんなに悪くはないかな。


 いろんな意味でドキドキワクワクしながら歩き続け、小高い山の上からではそんなに大きくなさそうに見えた場所も、近づいていくとその迫力に圧倒されてしまう。外敵から守るための壁の入り口を守る門番たちの姿が見えてきた。


「そちらの少女は?」

「我輩たちの客だ。」

 体をすっぽりを隠せそうなほど大きい盾に長い槍を持っている門番の人に、すっぱりと貴族っぽいイケメンが言ってのけると、門番の人達は彼らを知っているからか深く追求せずに中に通してくれた。


「お坊ちゃんどもが殺気立って出てったと思ったら、どこのとも知らない女の子をひっかけて帰ってきたな。」

「見たことない服装だったけど、どこのお嬢さんなんだろうな?」

 通り過ぎた後に彼らのそんなひそひそ話が聞こえたけど、私達は聞こえなかったフリをしてその場を後にした。


 商売をしている客引きや取引の声、雑談をする人々、はしゃぎまわる子供たちの活気のある声を聴きながら、私は二人がいったいどこまで行くのか、不安になってきた。

 何せあちらこちらから私達を見る視線が痛いし、ひそひそ話をしている人達もいるし、それが広まって興味津々な人たちが更に集まってきたりしているし……


 豪華な装飾に身を包み王子様とも呼べそうな、自称我輩のイケメン貴族。

かたや口調は荒いけどクールで美形な少年(もしかしたら年上かもしれないけど)


 そして一応、見慣れない服装をしている私が三人並んで街中を歩いている。

ただでさえ三人並んで歩いていると目を引きやすいけど、二人が美少年なものだから、彼らを一目見ようと少女からおばさまの年齢の人達までが色めき立っている。


 正直好奇の視線に晒されていて恥ずかしい。そして嫉妬の視線が刺さるように痛い。街行く人達の服装がやはり時代の感じる(私にとっては)古めかしい感じだとか考えている余裕もない。

 それに耐えていると、やっと二人の足が止まった。


「一応、ここが適した場所になりますが……」

「ある意味、相撲という決闘にはふさわしいのかもしれないな?」

 二人の言葉を話し半分にしか聞こえない。なぜなら――


 この名前も知らない国の、さらに街の中央に位置する広場がそうだと二人が言うのだから。


 確かに地面が土で小石もほとんどなさそうだし、広場だけに広い。

 けどあまりにも人が多過ぎる。

露店やら行商やら人の行き来が激しいそのど真ん中に立たされているんだから。


「ほ、他には?」

「他になるといろいろと迷惑をかけることになりますね。」

 これからやろうとしていることを考えたら、もう少しなんとかしてほしい。


「相撲ってのがどんなのかはよくわからねぇけど、いつまでも付き合ってられないぜ?ただでさえ、こちとら巻き込まれて迷惑してるんだからよ。」

 この状況にイライラが募ってきているのか、彼はジト目でイケメン貴族を睨み、

睨まれた方も睨まれた方でムッとした表情で、いつまた剣を鞘から抜くかわからない状態になっていた。


 広場の中央で、二人を中心に険悪な雰囲気が漂い出し、

元から遠巻きに見ていた人たちが更に遠くなった、気がする。


 これはもう迅速に終わらせないといけないみたい。

軽く一息を吐いて、覚悟を、腹をくくる。


「じゃあ今から、相撲という決闘のための準備をします。

二人とも私の言う通りにしてくださいね。」

 二人は返事をしなかったけど、否定もしなかった。


 二人を広場の中央で、お互いが手をのばしても届かない距離で向かい合わせた。

靴が土で汚れるけど構わずにそれぞれの足先のところで地面に直線に線を引いた。

 次に二人を中心に大きく地面に円を描き、街の人達にも踏まない近づかないようにお願いした。


 そして――


「ふ、服を脱げ、だと!?」

「お前何考えてるんだ!?」

 二人も、聞いていた周りの人達も騒然としていた。まぁ無理もないけど。


「この相撲というのは、私の国に伝わる由緒正しい決闘方法であり、

また神様や周りの人達に見せる神聖な儀式でもあるの!

服を脱ぐのは、周りの人達や神様に、何も隠し持っていないと身の潔白を示すためなの!!」

 一息で言い切るとその場のざわめきが止んだ。

私の勢いにのまれたのかもしれないし、宗教が絡んだ物言いをしたからかもしれない。

「そ、それに脱ぐのは上半身だけで良いわ。本当はまわしっていう下着みたいなものをつけただけの状態になるのが一番良いんだけど……」

 改めて自分が恥ずかしいことを言ったことで思わず頬が熱くなる。

人に服を脱ぐのを強要なんてしたくなかった。


「……はぁ、上だけで良いんだな?」

 後頭部をガリガリと掻いてチロリと私を睨むと、

クールなイケメンは脱ぎ始めた。

 平静をとりつくろう私の代わりに、この場にいる女性たちが黄色い声を上げてくれた。


「こ、この我輩が……く、くそっ……」

 負けじとイケメン貴族の人も上半身裸になり、

女性たちの歓声は一際大きくなった。


 やはり顔がイケメンなだけあって、上半身もスラッとしていて、でも均整の取れた筋肉がついていて、ずっと見ていたくなるような魅力があった。


 そして二人が脱いだ服が汚れないように預かり、二人の剣も預かった。

決闘なのに剣が必要ないことに二人は驚いていたみたいだけど。


 預かった剣の重さに腕がぷるぷるしてくるけど我慢して、


「では説明します。地面に膝をついたり手をついたり、地面に倒されたら負け。

それから地面に描いた円の外に、一歩でも脚が出たら負け。

拳を握って殴ったり蹴ったりしたら負けです。手を開いて押すのは構いません。」

 簡単に説明した。なるべくイケメン達が傷つかないように済めば良いんだけど(特に顔が。)


「殴ったり蹴ったりもできないってのは珍しいな。」

「くっ、まるで剣闘士にでもなったような気分だ……」

 上半身裸でも動揺の見られない美少年と、恥ずかしさで顔を赤くしている美少年。


 今からこのイケメン二人が上半身裸で相撲をするなんて素晴らしいご馳走だわ♪

っと、そんな邪念を振り払いながら、二人の前で手をのばし――



「じゃあ合図します。はっけよい……のこった!!」

 ――手を天に振り上げて邪魔にならないように後退りした。


 意識を互いへと切り替えた二人は、相撲という決闘で相手に勝つために

土俵の中央に引かれた線を踏み越えていった。

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