転移 初場所
今回は導入部分のみ。次回から、次回からこそが本番。この作品、話数とか全体的に短めにしようと思っています。投稿頻度は短くないのでご了承ください。 意図的に描写が短かったりそもそも描写しない箇所がある予定です。 登録必須キーワードは 今は あまり関係ありません。
お父さんお母さん、それからどうでもいいけど一応お兄ちゃん。
私は今、大変です。私が大変なのもそうなんだけど、今、大変な状況の中にいます。とにかく大変ったら大変なんだから!
「今日という今日こそは我慢ならん!」
「ずっと我慢しててくれねぇかなぁ……」
威勢よく鞘から剣を抜いて言い放つ男性と、それに対して聞き飽きたと言わんばかりに冷めた態度の男性が今にも殺し合いをしようとしているところなんです。
まだ空は青く(今が何時ごろかはわからないけど)森の中のちょっと開けた空間の中央で向い合う二人と、咄嗟に樹の幹の影に隠れた私。これからどうなるんだろうと胸がドキドキしてる。
そうして二人の様子を見てて気づいた。
(この二人、イケメンだ……カッコいい……)
ウットリしちゃいそう。いやもうウットリしちゃってる。
興奮している様子の男性は金髪碧眼で長身、青地の服は金の刺繍が豪勢にされていて、よく見ると持っている剣もまるで儀礼用じゃないかって思えるくらい
派手だった。
鼻筋もシュッとしているのに、興奮してて表情が歪んでいるのが残念だった。
相対している方の男性は若干下向き加減で金髪の男性をジトっと睨んでいるけど、磨き上げられた大理石の彫像のように曇りもない肌に彫りの入ったような
鋭い目元、身長は彼に比べると低いけど、私とだったら高いのかな?
彼と同じ青地の服に見えるけど必要最小限の装飾しか施されていないのか、
地味に見える。
あ、私と同じ黒髪かと思ったら、光の反射で青みがかって見えるから
髪色は紺色かな?
「この我輩に対してのその態度が気に入らんというに――!!」
顔に力が入り赤みを増している貴族っぽい人。
「……ちっ、邪魔くせぇ……」
冷静さを保っていたように見えて左腰の鞘を握る力が増している彼。
一触即発、どちらかがどちらかを剣で斬り殺しかねない。
「だ、ダメーー!!」
私は思わず樹の幹の影から躍り出て両者の前に出た。
彼らをこの決闘で殺させたくなかった。
例え死ななかったとても一生残るような怪我をしてほしくなかった。
――だって二人とも、私好みのイケメンなんだから!!
「なっ!?いつの間に――!?」
「おいおい、マジかよ……」
突然の私の登場に、今まで潜んでいた私の存在に気づいていなかった二人は
驚きを隠せないようだし、貴族っぽい人は慌てて剣を鞘に納めていた。
「お、お嬢さん?いったい何時から……?」
「おい、危ねぇから急に出てくるなよ。」
二人が話しかけてくるけど、こういう時に話の主導権を渡したら
ダメなんだよね?
「なんで二人とも殺し合いしようとしてたの?」
そう問いかけると、二人ともウッと喉が詰まったかのように一瞬黙り込んだ。
今、私がわかることと言えば、二人の仲が良くないってことと、
この世界では昔の時代に在ったような決闘が許されているんだろうな、
ってことの二つだけ。
――それに、この世界の人間じゃない私は、
これからこの二人に助けてもらわないといけないんだから。
「私がこの決闘の、勝負の方法を決めていい?」
一歩一歩下がりながら二人の顔を見て言うと、
二人は疑問に首を傾げながら互いの顔をちらりと見合わせていた。
これが私――角川萌々子(かどかわももこ)の一世一代の
初の大勝負になるのだった。