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ゴースト・バレンタイン  作者: サトウイツキ
8月の話 前編
14/43

2 招かれざる客

「え、あ、事故物件って…えっと」


 明らかに同様する一行。

 一行が最初に目をやったのは、今回のメンバーの大半を誘った良平である。しかし良平はそんな事聞かされていないので、みんなの視線を集めて光彦に流した。


「言ってなかった、かい?」


「聞いてないが」


 苦笑いして、どうしようかといった表情を浮かべる光彦だったが、思わぬところから助け船が出た。


「まあ、別にいいんじゃね」


 空気を強風で全て入れ替えるように、拓郎が言った。そして、それに便乗するように、徹が、


「まあでも、その一件以降に何があったって訳じゃないから」


 と言った。


「えっと、つまり、事故物件ではあるけれど、その後幽霊が出たとかじゃないてこと?」


「ひいいぃぃぃ」


 小瀧が訪ねるが、幽霊という単語が出た瞬間、紗英が耳を押さえてその場にうずくまった。小声で「…お化けなんてなーいさ、お化けなんてうーそさ…」と歌っている。


「まあまあ葉山さん、別に幽霊が出たわけじゃないんだからさ」


 すかさず隣に立っていた良平がフォローする。事情を知らなかったとは言え、誘った自分にも、責任があると考えたのだ。

 少し寄って膝立ちになると紗英の頭を撫でてやった。良平の妹だったら、これでどうにかなるのである。

 そのうちに、徹が口を開いた。


「そうだよ、何かある前にと思って、きちんとお祓いもやってもらったから」


「ううぅぅぅ」


「そうですよ先輩!ここまで来たんだから、楽しまないと!」


 幽霊の話を聞いてからの郁美は、なんだかはしゃぎ気味だった。初めて巣穴から出た子ウサギみたいに跳ねまわっている。


「お塩撒いたら、大丈夫かなぁ……?」


 潤んだ瞳で良平を見つめている。


「ああ、うん。大丈夫なんじゃない?」


「じゃあ、お塩持ってきて」


「後でな」


「今ぁ」


「誰かここまで来るときにコンビニ見かけた人ー」


 誰も手を上げない。


「ううぅぅぅ」


 良平は少し考えた。


「徹さん、調理用の塩って、少し分けてもらえますかね」


「効くかわからないけど、まあ気休めだしね。いいよ」


「ありがとうございます」


 それから、また紗英の方に向き直ってから言った。


「塩あるって。だから…」


「ありがとうぅぅぅぅ!!」


 若干食い気味に良平のお腹に飛びつくとまたわんわん泣き出してしまった。また頭を撫でてやると少し落ち着いた。


「はい離れて」


「…ぅん」


 紗英は少し名残惜しそうに良平から離れると、自分の手荷物を肩に掛けた。それから小さく深呼吸をすると、やけに真面目な表情になった。


「お腹が、空きましたぁっ!」


 徹が時計を確認すると、もうすぐ12時になろうかというところだった。


「じゃあ、ご飯にしようか。私は、下の厨房にいるからね。光彦は、部屋を案内してくれ。まあ、好きに使っていいから」


 光彦は、徹に、じゃあと手を振って、2階にあがっていく。

 良平たちも、それぞれの荷物を持って光彦について行く。梨乃が浮かない顔をしているのに気がついたのは、良平だけだった。


◇◇◇


 昼食を食べ、すっかり元気を取り戻した紗英は、みんなで海に行こうと言い出した。


「今更ですけど、外のビーチって好きに浸かっていいんですか」


「構わないよ。流石にプライベートビーチじゃあないけどね。こんな田舎だからそんなに人はいないから、めいいっぱい楽しんでおいで」


 じゃあ行こうかと話しているうちに、拓郎と小瀧の姿が無いことに気がついた。しかしどこへ行ったのかと探すまでもなく、食堂の外の廊下にいた。


「じゃあ、ハニーと海行ってくるわ!」


「ダーリン置いていかないでっ!もうっ、大好き!」


 風のように2人の姿は消えて無くなった。


「…じゃあ、僕たちも行こうか」


「はーい」


 郁美が園児みたいないい返事をして、パタパタと2階にあがっていった。


「りょうへい君、いこぉ」


「あ、うん。梨乃はどうする?」


「ちょっと休んでから行きます」


「分かった。じゃあ後でな」


 良平は、腕に擦りよってくる紗英を剥がしながら2階にあがって行く。


「なんでそんなに近いんだよ」


「なんかイイ匂いするからぁ?」


「意味分からん。歩きづらい」


「けーちぃ」


「知らん。早く行かないと置いて行くぞ」


「はぁい」


 そのやりとりを複雑な心境で見ていたのは、梨乃だけでは無かったのだが、まだ誰も気がつかない。


 良平が2階へ上がって行くと、ちょうど光彦と郁美が降りてこようとしているところだった。


「向こうに更衣室とかはないから、ここで着替えて何か羽織って行くといい」


「ありがと。後でな」


 光彦は手を振ると、良平たちと入れ違いで1階に降りていった。続いて郁美も階段を降りていく。光彦は、徹に一言声をかけてから民宿を出たようである。


 良平がさて着替えようかと鞄を漁っていると、部屋の扉の方から紗英の声がした。


「水着の着方分からないんだけどーぅ」


 最近、紗英の弄りが激しくなっていると良平は感じていたので、今回の旅で少しお灸を据えてやろうと考えていた。


「こっちに幽霊いるから来ない方がいいぞ」


「ひいいいぃぃお塩おおぉぉぉぉぅぅ」


 足音が扉から遠のいていった。

 それから紗英が帰って来るよりも先に、今度は室内から声がした。


「呼んだ?」

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