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2 この後の話

 空き教室を出て行った莉乃は、空き教室を出た瞬間とは打って変わって、朝起きた事を少し考えていた。下着のことではない。

 莉乃の後ろの席に座っているのは、筒井郁美つつい いくみという名前の女子生徒だ。友達も多く、部活動は陸上部に所属しているはずだ。朝からそれとなく観察してみたが、元気で、少し声が大きい。なんとかっていうアイドルが好きで、その話で盛り上がってるようだった。しかしどういう訳か、時々酷く暗い顔をしている時がある。


 そもそも、なぜこんな事を考えているのか。

 莉乃が筆箱を落としてしまったとき、筆箱の中に入っていたのは、プリクラで撮ったであろう写真で、3人の女子が写っていた。しかも3人とも、おそらくは『ギャル』である。


 写真には加工で3人の名前が入っていて、「ふたば」「みすず」そして、「いくみ」だった。


 もしかしたら昔の写真かもしれない。しかし何らかの思いがあって、その写真をずっと持っている。でも他人にそれを見られたくない。


 そこまでならまだ良かった。

 きっとそういう人もいるだろう。そう思って話は終わりの筈だった。


 莉乃がお手洗いに行こうとした時だった。ちょうど郁美もお手洗いにいて、メイクを直しているようだった。メイク自体あまりにも自然だったから、していることにさえ気がつかなかったのだが、空き教室付近の人のほとんど居ないトイレの中で、コスメ売り場かという程の化粧道具を並べて、その『隠蔽』は行われていた。

 トイレの入り口で、鏡に集中している郁美に気づかれないように中の様子を窺った。

 郁美がメイクによって隠そうとしていたのは、目の下にある濃く、大きな『くま』だった


 莉乃は放課後を待って話しかけてみることにした。おそらく向こうもそれを待っているだろうから。朝、写真を見られてしまったと思った郁美は、とっさにそれを片付けて逃げ出してしまった。きっとあの写真を見られるということは郁美にとっての禁忌だったのだ。だとすれば、周りに言わないで欲しいだとか、さもなくば命はないだとか、そんな類の話をしたいに違いない。


 郁美がコスメ売り場を閉店させようとしたとき、予鈴が鳴った。

 慌ててそれを完了させようとする郁美に気づかれないように、自分の教室に向かった。お手洗いに行く時間くらいあるだろう。


◇◇◇


 現世に現れた霊たちは、この世に何かしらの未練があって、それが無くなることで霊たちは成仏することができる。良平は、図らずもその役を担ってきたのだが、今回はどうやらそうもいかないらしい。

 厳密に言えば「良平には』不可能だったのだ。なぜならギャル子(仮名)の未練というのが「テンアゲでエンジョイすること」だったからである。テンアゲとは、テンションアゲアゲで、といったニュアンスだ。…と思う。

 ギャル子曰わく、エンジョイすることとは、人それぞれであるが、ギャル子らしいエンジョイ方法というのがあるらしく、それを実行せねばならないらしい。良平は、いわゆるパリピな遊び方はできないのだった。しかしそこで相談した相手がまた悪かった。

 相談相手は木村という男子生徒で、良平は、とは旧知の仲である。少し小さめの身長に、漫画のようなマッシュルームカット。「見た目は3枚目、中身は1.5枚目」というのがモットーだそうだ。なぜ木村に相談したか、と言われれば、特に理由なんて無いが、そういう事ができるのが、友人関係というものだろう。


「よっしゃ俺に任せときな!」


 木村快く快諾してくれた。しかし出たっきり条件が「女子を誰か1人誘うこと」だった。それができたらまずお前に相談しねえよ、と言うのをこらえて、それを実行する事にした。そもそも木村に頼んだ理由も特に無い。


 放課後、部活やなんかがある連中はすぐに教室から居なくなってしまって、それらがない良平を含めた生徒たちが、ゆっくりと帰宅の準備をしていた。隅っこで勉強している奴もいる。少しひいて見ると、放課後というのが如何に自由な時間だろうかと思う。

 しかし今日は重要なミッションがある。良平は鞄にパンやらお菓子やらを詰め込んでいる生徒のところに寄っていった。誘う時は、爽やかに、笑顔で、フレンドリーに、


「今日この後暇なんだけど、どっか遊びに行かない?」


 よしできた!

 家に帰ったら自分を褒めてやろうと心に誓った。


 誘ったのは、クラスの女子の中では良平に対してよくしてくれている葉山紗英はやま さえという女子生徒である。以前席が近かったときの、お腹すいたとか眠いとか言っていたイメージしかない。しかし食べ物を目の前にしたときの彼女の反応は尋常ではなく、中学時代に1クラス分の給食をひとりでたいらげたという伝説がある。…他の生徒どうしたんだよ。


「りょうへい君、珍しいねぇ。そんなタイプだったぁ?」


 甘ったるい撫で声。ずっと聞いていたら糖尿病になりそうだ。


「まあ、ちょっとな。たまには良いかと思って」


「ふぅん。なんでもいいけどねぇ。で、どこ行くのぉ?まさか2人っきりとか?むふふー」


 誘う相手を間違えたかもしれない。


「あ、やっぱ辞めるわ」


「わわわ、冗談だよぅ」


「木村ともう一人いるよ。で、来るの?」


「ご飯があるならどこでも行くよっ」


「よし決まり」


 ほっと胸を撫で下ろす。始まりはこれからだと言うのに。莉乃に連絡を入れようと思いスマホを開くと、すでにメッセージがあった。『放課後用事ができたので、先に帰っちゃってOKです』加えて不適に笑う犬のスタンプが送られてきた。先輩はどうせ用事ないでしょうという意志が見え見えである。

 良平は防犯のため莉乃と共に帰宅していたのだが、これなら手間が省けた。『了解』と送って良平はスマホをポケットにしまった。


 雨はまだ降っている。


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