表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

1 婚約破棄のアシスタント

「今日限りで、メルローゼとの婚約を破棄させてもらう!」


 王城で行われている第二王子の生誕パーティーに出席していた私は、今日の主役でありこの国メルダ王国の第二王子フラムの高らかな婚約破棄宣言の声に、ダンスそっちのけで高級料理を貪っていた手を止め彼らに注目した。


 始まったねー、一大イベントが。


 この世界が前世でやった乙女ゲーム(タイトルはありきたりすぎてなんだったか忘れた)なのだと気が付いてから早一年。物語りとはまったく関係のないモブだった私は、普通に学園生活を満喫して時々乙女ゲーの主人公であるヒロイン、アリスさんと彼女を執拗にいじめて最後は死亡バッドEDという最悪の役回りである悪役令嬢のメルローゼ様、他攻略対象者達のあれこれを眺めつつこの日を迎えた。どうやらアリスさんもメルローゼ様も私のように前世の記憶をお持ちのようでそれは派手にドンパチを繰り返しているようでした。

 アリスさんはフラム王子に寄り添って微笑んでいるが、スタートダッシュが早かったメルローゼ様がバッドEDを回避しつつ主要キャラクター達を手中におさめることに成功し、堂々としている所から見て、今回は彼女の勝利と終わりそうな感じ。


 本当はこのままさらっと婚約破棄イベントは終わって欲しいところなのだが、なぜか私はこの件に少しだけ関わることになってしまった。


 それは数日前の出来事。

 突然、我が家にメルローゼ様が直々にいらっしゃった。そしてとある頼みごとを一つしていったのである。

 まあ、お約束? っていうかアリスさんがちょっと……いや、すごくアレな性格をしていらっしゃったので私はメルローゼ様の肩を持とう。どうせアリスさん、このイベントでありもしないでっちあげの事件をおっしゃるし、私は正直に事件の証言をする――――エレノア様のアシスタントを務めますよ。


 証言する役ではありません。アシスタントです。


 学園でもモブの中のモブ。ベテランモブなんで、台詞のある役にはなれません。


「メルローゼ、君はアリスを階段から突き落としたそうじゃないか! それはどう説明するつもりだ!?」


 ああ、来た来た。これだな、アリスさんの計画したでっちあげ事件は。メルローゼ様がふっと麗しい顔のまま王子を鼻で笑う。おお、まさしく悪の華! アリスさんとフラム王子の顔が引きつる。ゲーム通りならこの事件は本当にあったものなんだけど、メルローゼ様は前世の記憶が蘇りゲームの内容も把握している転生者、もちろんそんなことはしない。そしてこの話が『本当のこと』にならないよう、彼女は四方手を尽くしているのである。


「わたくしがアリスさんを突き落したですって? いったいどこにそんな証拠がおあり?」

「アリスがそう証言している。それに――エレノア嬢!」


 王子に名を呼ばれた黄色いドレスのエレノア様がすっと進み出た。私は少し後ろで待機する。


「君はその現場を見ていたそうだな?」

「はい、その通りでございます」

「その時のことを詳しく語ってくれ」


 エレノア様はコホンと一つ咳払いすると、私に目くばせした。

 準備はOKですぜ、エレノア様。


 バッと私は白い大き目の画用紙帳を開いて皆に見えるように高く上げた。


「あれは、夕闇迫る午後のひととき。わたくしは一人、学園の廊下を歩いておりました。すると奥の方から女性の高い声が聞こえてきまして……」


 ぺらりと白い画用紙帳を捲る。

 そこには学園の廊下と廊下を歩くエレノア様の姿が描かれている。


「……上手いな」


 誰かがそう言った。

 ありがとうございます。他の教科の評価は散々でも美術はオール5でしたもので。それに私の前世、実は漫画家なのです。写実的なものからもちろん漫画タッチの絵も描けますとも。


「驚いたわたくしはなにごとかとそちらへ行くと……」

「メルローゼがアリスを突き落としたのだな!?」

「いいえ。アリス様がお一人で階段からころころと転がっておりました」

「……は?」


 そのチープな絵が私の手によって描かれている。

 この話聞いた時、私もは? ってなったわ。絵描いてる最中に何度吹き出しそうになったことか。アリスさんなにやってんすか。


「そして数秒後、遅れて現れたメルローゼさんに向かって『突き落すなんて酷いわ!』と」

「…………」


 顔が真っ青になっていくアリスさん。フラム王子は呆然としている。


「わたくしが姿を現わせば、アリスさんは『今の見ていましたよね!? 彼女が私を階段から突き落としたのです!』と喚いていらっしゃいましたが、わたくしはその前から見てましたので、自作自演であることはハッキリと分かります。……わたくしの証言はこれで終わりですわ」


 そうしてお辞儀して下がるエレノア様と共に私も画用紙帳を降ろして下がった。


 あー出番終わりー。

 まさかメルローゼ様に、エレノア様のアシスタントとして証言に絵をつけてくれないかと言われたときはどうしようかと思ったけど、ゲーム中にないことだし……でもメルローゼ様の有無を言わさない笑顔の『お願い』が断れるはずもない。しかも彼女の背後にいた攻略対象者達の無言の威圧がすごかったんだよ。勘弁してくださいよ。

 どうやら彼女は私の絵の成績を知って、あのチープな場面をより強調する為に仕掛けたようだ。なかなかイイ性格してますぜ、悪役令嬢。


 あとは二人がぼろくそにざまぁされる姿を見て、パーティーはお開きになるだろう。その前に、もう少しおいしいご飯を……。

 と、ご飯が並んだテーブルに行こうとしたら腕を掴まれた。


「おい、まだ戻るな」

「へ?」


 わぁ、なんと美しき銀色の侯爵子息アレク様(攻略対象)が眼光鋭くこちらを見下ろしている。私、チビなんでそんなに引っ張ったら吊るされちゃう。


「メルローゼ様が呼んでいるので、ちょっとこちらに来てもらいますよ」


 反対側の腕を宰相息子のフェイラン様(攻略対象)に掴まれ、あれ? これって捕まった宇宙人じゃね? と思いながらずるずると再び注目のステージに立たされた。

 メルローゼ様と目が合うと、彼女はにっこりと悪い笑顔を浮かべている。


 なーんーのーごーよーでー?


 アイコンタクト。


「フラム殿下は知らないかもしれませんが、アリスさんの尻軽さは有名でしてよ? それこそ証拠が山のようにありますの。ねえ、アルルさん」


 はい! アルルーシャ・メルスでございます!


「これから沢山の方が証言をなさいますから、それを絵にして分かりやすく彼らに『見せつけて』やってくれませんこと?」


 メルローゼ様と背後の恐ろしい獣(もとい攻略対象者達)の鋭い眼光に、私の返事はイエスorはい。


 順番待ちする証言者の証言を聞きながら、速筆で絵を仕上げて行っては彼らに『見せつけた』。最後はアリスさんがたまらなくなり、泣きながら退場するというメルローゼ様圧倒的勝利という形に終わった。


 彼女のざまぁイベントは終わったのである。やっと終わった、疲れた……。モブになんてことやらせんのよと思っていると、メルローゼ様がやってきて労いの言葉と、おいしい高級店のケーキをくれたので一発で不機嫌はなおりました。ウハウハです。帰ったら家族で食べよう。うち貧乏男爵家だからこんなクソ高いケーキなんて買えないんだよね。


 大事に大事にケーキを抱えながら会場を後にしようとしていると。


「ちょっと待ってくれ、アルル嬢!」


 私の名前はアルルーシャ・メルスであってアルルはあくまで愛称なのだが。振り返ればそこにいた人物にびっくり仰天した。金色の髪に翡翠の瞳の背の高い輝く美青年、第一王子ユーシス様だったのだ。彼と面識はないから私の名前を正確に呼べないのは仕方がない。さっき、メルローゼ様がおっしゃった愛称をそのまま名と勘違いしたんだろう。

 乙女ゲームでは攻略対象外のサブキャラとはいえ、第一王子なんて私の身からすれば畏れ多すぎる立場の方である。


 なんでそんな人が私を呼び止める!?


 わけがわからずオロオロしていると、ユーシス様が追いついてきた。そして笑顔で手を差し出してきたのである。


「とりあえず、俺の部屋に行こうか!」

「なにがとりあえずなんです!?」


 逃げ腰の私の右腕をがっちり掴むユーシス様。そしていつの間にいたのか、でかい寡黙な騎士が反対側をがっちりホールド。


 あーれー。

 私はまた捕まった宇宙人ポーズでユーシス様の部屋に連れ去られた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ