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水風船

作者: 浦野ウラ

 パァン。乾いた音を立てて、今日も水風船は割れていく。

 何時からだったか、これが見えはじめたのは。どうしてだったか、平凡が割れてなくなってしまったのは。そんな考えも僕の両手もみんな赤が染めて。僕は何処へ行くのだろうか。

 あまり記憶の良いほうではないが覚えていることもある。ドングリを拾って集めた秋。白い息とオリオン座を眺めた冬。新しい詰襟に袖を通した春。縁日で水風船を買ってもらった、夏。

 振り返れば平凡過ぎて、すこしばかりの可笑しさすらある。それでも、僕にとってはかけがえのない人生であったし、この先もずっと平凡であればよいのだと思っていた。

 平凡ではなくなったと気付いたのは、ある日の夕暮れであった。家路につく僕の視界には、大きな水風船が二つ、並んでいた。

 最初は目を疑ったし、疲れているのだろうと思った。さっさとその場を後にした。

 それでも見える水風船はだんだん増えていく。四つになって、七つになって、自分が持っている漫画の冊数を超えたあたりで、数えるのをやめることにした。それらは僕の視界で踊った。右に左にふらふらしたり、ゾロゾロと列になってみたり、いきなり止まってみたりした。正直言って気味が悪かった。

 本当にたまたまだったのだけれど、持っていたペンで水風船を突いてみたことがある。ただの興味本位ではあったけれどなかなか刺さらないのと逃げようとするのが気に入らなくて、片手で抑え込んで思いっきりペンを突き立てた。

 パァン。音がした。赤く染まった。何故だか僕は、楽しさを感じていた。

 それから、水風船を割ることが僕の日課になった。もっと簡単に割れるようにナイフを調達した。もちろん抜き身で持ち歩くようなことはしない。それに水風船は縄なんかで縛っておけることにも気付いた。こうしておくと簡単だ。自分の家まで縛ってきて、ナイフでひっかくだけ。パァン。

 パァンパァンパァン。僕も、地面も空も壁も。みんな真っ赤に染まっていく。なんて綺麗。割れた残骸には興味はなくて、捨てる。今日はあと何個割ろうかな。

そういえば、水風船が見えるようになったころから、僕の視界には人がいなくなった。街も、デパートも、テレビにだって誰一人として人間はいない。もうこの世界には丸い水風船と、しなびた残骸と、真っ赤な僕しかいないんだと思う。知らないうちに僕は縁日で買ってもらった水風船も割ってしまっていたようだね。

こんなことを風船に喋っている僕っておかしいよね、きっと疲れてるんだろうな。さっさと君も割ってあげるよ。僕は忙しいんだ。

読者の方も、友達も、そして私も。

皆同じ赤い水風船なのです。

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