声を掛けたのは
…………。
なんだこれ?私こんな美形に声かけたのか??
表情にこそ出さなかったが内心驚愕だった。
切れ長の目、スッと通った鼻筋、薄い唇が黄金比で配置されている。その上、程よく日焼けした肌にスラッとした長身である。完璧な美青年、そうとしか言いようがない。
先程腕に抱きついた時にわかったが、この美青年かなり鍛えた身体をしている。
それに、艶のある黒髪に質の良い服を来ていることから、裕福な家柄の人だということもうかがえる。
暗殺者をやっていると、つい癖で相手の容姿から情報を探ってしまうのだ。
そんな事を考えていると、隣の美形と目が合った。
「そんなにジッと見つめられると反応に困るんだが」
いけない、ついつい観察しすぎてしまった。
「あ、ごめんなさい。貴方の顔が凄く綺麗でびっくりしてしまいました」
私は恥ずかし気に俯く。勿論、演技だ。こうすると大抵の男は初心な女なのだと思ってくれるのだが、だいたい美形には効果が薄い。
「私こそびっくりした。貴女にいきなり腕に抱きつかれて」
うっ……。確かにそれはびっくりするだろう。だが、貴方の対応は素晴らしかった。本当に助かったのだ。
「あれは……本当に失礼しました。あれ以外にいい方法がみつからなくて……。でも、相手が貴方で本当に運が良かったです」
「お役に立てたのなら、何よりだ。ところで、ここに来るのは……いや、この街に来るのは初めてだろう。それにどうやら一人のようだが……」
そう言って、隣の美形が目を細めて此方を見てきた。
この男、鋭い。それに、どうしてこんな事を聞いてくるのだ。このまま一緒にいると危ない気配がする。
「あら、どうしてそうお思いになるんですか?」
「ああそれは、この街には女性だけしか泊まれない宿屋があるからだ。それを知っている女性は大抵はそちらに泊まる。その宿屋は有名だから、一度この街に来たのなら知っているだろうと思って。だが、貴女は知らないようなので」
ヤバい。この男、ますます怪しい。 普通、ここまで考えるものなのか?運が良かったと思ったけど、それは間違いだったのではないだろうか。早く側を離れたほうがいいのでは……。かと言って、この話の流れで急に側を離れても怪しまれる気がする。それに、そろそろ頼んだ料理がくる頃なのだがーー。
とにかく、警戒していることを悟られてはいけない。
「はい、実はこの街に来たのは初めてなんです。女性専用の宿屋があるなんて、知りませでした」
「やはり初めてか。ああ、それにこの街に女性専用の宿屋なんてないぞ。知らなくて当たり前だ」
瞬間、背筋に寒気が走った。
この男、私のことをはめやがったな。これ以上側にいては駄目だと本能が告げている。もうここは強引にでも離れよう。
嗚呼、本当に朝から男運が悪い。
「どうやら、私は嵌められたようですね。どうしてこんな事を聞くのか非常に気になりますが、これ以上話を続けると墓穴を掘りそうなのでやめておきます。貴方は非常に頭が回る様ですし」
そう言って私は素早く立ち上がった。
「私、用事があった事を思いだしてしまいました。すみませんが、ここで失礼させてもらいますね。料理を頼んでいたので助けてくださったお礼と思って、どうぞ代わりに食べてください」
そう言い次第、踵を返す。
「貴女のような美しい女性が一人では何かと危ないだろう。気をつけて」
後ろから声を掛けられたが、聞こえなかった振りをして、その場を後にした。
ーー結局、朝ご飯を食べ損なってしまった。




