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暗殺者の恋  作者: ザクロ
2/5

フィレーネの街


夜が明け始めた頃、私は森を抜けた。

追跡者はあれからも何度か襲ってきたが、全て殺した。

あと一時間もすれば街、フィレーネに着くはずだ。流石に街中までは襲ってこないだろう。





私の存在が公爵家にばれてから二日が経った。

二日前、公爵家の遣いだという王都の《鴉》が、ブルヘルムの《鴉》を訪ねて来た。そして言ったのだ。「ここに、リオンの子がいないか」と。リオンとは母様の名前だ。

どうして母様に子供がいることを知ったのか。いや、それ以前に何故私がここにいるとばれたのか。それはわからないが、 「捕まってはいけない」ということだけはわかった。長であったレヴィン兄がシラを切ったので相手は引いたが、恐らく疑われている。

そう考え、私はこの街を出ることにした。これ以上迷惑はかけられない。それに、ここにいては見つかるのも時間の問題だと思ったから。

レヴィン兄には反対されると思い、置き手紙を書いた。



それから直ぐにブルヘルムを出て森に入ると、にらんだ通り追跡者に追われた。



それから森を抜け今に至る。



とにかく、少しでも王都からーー公爵家から離れようと、王都とは反対にある街の方に向かった。

これからどうするのかは、着いてから考えよう。今はとにかく追っ手から逃げないと。




♢♢♢





フィレーネには朝の六時頃に着いた。結局、森を脱けてからは追跡者は現れなかった。

今は、人通りの多い道沿いにある宿屋にいる。この宿なら、人が多いため襲われる心配も少ないだろう。宿に着いてから一時間仮眠をとったので、もう七時半だ。これから人々がさらに活発になる。そうなれば、必然的に見つかる確率も下がる。


さて、これからどうしようか。多分…いや確実に、この街にいることがばれるのは、時間の問題のはずだ。

《鴉》の本部は王都にあり、主要な土地や問題のある土地などの、国のいたる所に点在している。

私が元いたブルヘルムは、交通の要になる街だった。それ故、《鴉》がいたのだ。

ここはオスカー侯爵の領地であり適切に管理されている。

そのため、この街に組織は存在しない。

ここを出て、他の場所に行くとしても、《鴉》のある場所は避けなければならない。


はぁ……疲れる。

もういっそのこと、このまま逃げ続けるより、公爵家に行って話をつけた方が楽なのではないだろうか。いやいや、それ以前に何をされるかわからないのに、それは駄目だ。

とりあえず、これから逃げるにあたって必要な物資を揃えることにしよう。残念だが、必要最低限の物しか持ってきていない。

まずはこの黒いローブを脱いで、普通の服を着よう。街中ではその方が目立たない。

それから、ご飯も食べたい。昨日の夜から何も口にしていないので、流石にお腹が減っている。

確かこの宿屋の一階は食堂になっていた筈だ。そこに行こう。




♢♢♢



「お嬢さん一人?可愛いね〜。隣に座ってもいいかな」


私は食堂のカウンター席に座っていると、急に声を掛けられた。

ーー鬱陶しい。誰だこの男。

まだ、席に着いて五分も経っていない。料理すらきていないのに、絡まれた。

おまけに、返事をしていないにも関わらず横に座られた。




「おい、お前。抜け駆けはずるいぞ!僕が先に声を掛けようとしてたのに」


嗚呼、もう一人増えた。



「煩いな〜。こういうのは早い者勝ちって知らないのか?」



何故こうなった……。

確かにこの年齢で女一人は珍しいかもしれないが、朝っぱらから声を掛けるものなのだろうか。

兎に角、ただでさえ目立ちたくないのにこの状況は頂けない。


「失礼ですが、連れがいるので一人ではありません。退いてもらえませんか」


これで引いて……


「じゃあ、その連れとやらが来るまででいいから」


……くれなかった。


ここは人目がある。そんなところで二人を気絶させるわけにはいかない。

それに、残念ながら連れは永遠にこない。

最悪だ。


「直ぐに来るので。だから、そこを退いてください」


「だから〜来るまででいいって言ってるじゃん。来たら退くからそれまで相手してよ〜」


「おい、お前。彼女が嫌がってるじゃないか!そこを退け。代わりに僕が相手をする」


どちらも嫌だ。その上、しつこい。

ここは、強引に切り抜けよう。

そう思い、 こちらに向かって歩いてきた男性の腕をつかんだ。


「あっ、来ました。この人です。もう、遅いよ。待ってたんだから」


そう言って立ち上がり、見せつける様にその男性の腕にしがみつく。その時耳元で呟いた。「お願い、話を合わせて」と。




「ごめんなさい、連れが来たんでそこを退いてもらっていいですか?約束ですよね」


「その人、本当にお嬢さんの連れなのか?」


なんで、こんなに食い下がるのだろう。いい加減しつこい。口を開こうとした瞬間ーー


「ああそうだが、何か彼女に用でも?無いのならそこを退いもらえないか」


腕を掴んでいた彼が、私を背後に庇うようにして言った。



「チッなんだよ、本当にいたのか」


そう言って最初に声を掛けてきた男は、舌打ちをした後、席を離れて行った。どうやら、信じたみたいだ。

もう一人の男も渋ってはいたが、彼が隣に座ると諦めたのか、こちらも側を離れていった。




「ありがとうございます。おかげで助かりました」


横を向き御礼を言う。そこで始めて彼の顔を見て、絶句した。表情にこそ出さなかったが内心驚愕だった。仕方がないだろう。そこには黒髪に琥珀色の目をした、今までに見たこともない美青年がいたのだから。


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