私の事情
粗い文章ですが読んでくださると嬉しいです。
真夜中の森の中。木々の隙間から、月光が朧気に細い山道を映し出している。
その中で私は今、黒いローブで身を包んだ三人の追跡者に囲まれていた。大きなローブを着てフードも被っているため、その三人の性別も体格もよくわからない。
ーーかくいう私も同じ様な格好をしているのだけれど。
先程二人を始末してからそれほど経っていないのに、もう次がきたようだ。面倒くさい……。早く始末しなければ、また次がくるのだろう。ああ、本当に面倒くさい。早くここを離れなければーー。
そもそも、こんな事態になったのは私の血筋が原因なのだ。実に理不尽である。血筋なんて私の所為ではないではないか。私がどれだけ嫌でもどうにもならないのだから。
そんなことを考えているとき、突然後ろからナイフ型の暗器が飛んできた。恐らく毒が塗られているのだろうそれを、足を一歩右へ踏み出して避ける。
避けた瞬間、今度は左右にいた二人が剣を手にこちらに飛び出してきた。後ろに一人、左右に二人。避けるならば前しか無いがこれはわざと逃げ場を作っているのだろう。そう判断し、右にいた暗殺者の胸に向かって同じくナイフ型の暗器を投げる。勿論、即効性のある猛毒付きだ。時間差で、もう二つを胸と足に同時に投げた。
それから直ぐに左を向き、今度は持っていた短剣で相手の剣を受け止める。それとともに、逆の手に持っていた残りの暗器で相手の手を刺し、そのまま暗器を左へ投げた。手を刺されてから、相手は咄嗟に後ろに飛んで距離をとった。ーーもう遅いが。
そして、 右にいた暗殺者は、こちらに辿り着く手前で停止していた。毒が回ったのだろう。一つ目と二つ目の胸への暗器は剣で弾いた様だが、私の狙いどうり足への暗器に対応できなかったようだ。案の定、右足に暗器が刺さっており、「ぐっ」と短く呻いたあと倒れた。左の暗殺者もそれに続く。
残りはあと一人。そちらを振り向く。が、最後の一人は先程剣を受け止めた際に投げた暗器が喉に刺さって絶命していた。
ーーーーおわった……。案外呆気なかったな。返り血も浴びずに殺せたし、時間もかからなかった。 ああ、この死体たちどうしようか。隠さなくても、どうせ次にくる仲間が始末するよね。丁度時間稼ぎにもなるし、そのままにしていこう。
♢♢♢
私は六歳の頃《鴉》に入り、そらから今までの十一年間、暗殺者として育ってきた。
《鴉》とは、この国の裏社会を統括するヴェイハイブ公爵家を主とした暗殺組織の名だ。
光がある所には必ず影がある様に、国にも表があれが裏がある。
光が強ければ強いほど影が濃くなる様に、国も偉大であればあるほど大きな闇を生む。
この国イルザルドもそれは同じで、国が偉大であるぶん闇も濃かった。
王族だけでは管理できないこの国の闇を、代々ヴェイハイブ公爵家が影から支えてきたのだ。
《鴉》は長い歴史の中、いかなる時も公爵家を守り、忠実に命に従い、手となり足となった。
だが、問題が起きた。現在のヴェイハイブ公爵家当主である、クローリード様……否、私の父様が当時、《鴉》であった私の母親に恋をしてしまったからーー。
私の母様は、幼少期の私から見てもとても綺麗な人だとわかった。母様を見た人は男女構わず皆、母様に見惚れる。私は幼い頃それを見るのが好きだったし、嬉しかった。
だから、母様が黒目黒髪なのに対し私が銀髪青目だったことがとても不満だった。お揃いがよかったのに。
生まれた時から六歳まで、私は母様と二人きりだった。特定の場所に住まず、一定期間滞在したら移動する。周りの人々とも必要最低限の交流しか持たない。今ならおかしいと思えるけれど、その当時の私にとってはそれが当たり前で特に疑問に感じた事も無かった。
ーー桂を被る事と、父親がいない事を除いて。
もっとも、桂を被ることは母様と同じ黒髪になれるので、むしろ嬉しかったのだが。
後でわかったことだか、この国では金髪や銀髪は王族や一部の高位の貴族にしかいないらしい。また、国民の大半は茶系の髪色をしている。私の髪は白銀だった。それ故に、隠す必要があったのだろう。
父様がいない事を疑問に思って、母様に何度か尋ねたことがあったのだが、その度に私と目と髪の色が同じと言うだけで詳しくは教えてくれなかった。
否、言えなかったのだ。私の為に。私が利用されないように、見つからないようにするために。あの頃は気付けなかったが……。
そのような生活が長年続き、苦労が溜まったからなのか、そうでないのかわからないが、私が五歳になった頃母様は身体を壊し、病気になってしまった。残りの命が少ないと知っていたのか、それから少ししてブルヘルムの街にある《鴉》へと私を預けた。そこには、母様の弟がいたから。
そこで始めて母様は話してくれた。今まで旅人の様な生活をしていた理由を、髪色を隠さなければならない理由を。そしてーー父様のことを。
もともと母様は王都にある《鴉》本部で生まれた育った、暗殺者だった。その当時、公爵家の後継ぎであった父様の護衛をしていたらしい。父様とはお互いに愛しあっていたが、身分差があっただけでなく、父様には子供の頃に決められた婚約者がいた。叶わぬ恋だったのだ。二人の結婚が決まった際に、自ら側を離れたそうだ。
が、そこで問題が起こった。父様の子がーー私がお腹にいたのだ。それからすぐに《鴉》を脱け、父様から隠れ、私を産んだ。そのため、父様は私が生まれていることを知らないらしい。
そして、父様から隠れるためにこれまでの様な生活を送っていたことを知った。
母様は泣いて私に謝った、今まで理不尽な生活をさせてしまったことを、これからも多くの苦労があるだろうことを。その時、始めて母様の涙を見た。今でもあの時のことは鮮明に覚えている。
ーー その三日後、母様は亡くなった。
それから数日は地獄の様に感じた。ただでさえ母様が亡くなって弱っていた精神が、自分の事実を知ったことで不安定になっていたから。
それでも時間が経つと、自然と順応していった。それには母様の弟であるレヴィン兄(そう呼べと言われた)と、《鴉》の兄様姉様たち(そう思えと言われた)が、優しくしてくれたことが大きかったのだろう。
そこでは多くのことを学んだ。受身や回避の仕方に、剣術や暗器の使い方、気配の消し方にとらえ方まで。毒の知識を付け、毒にも身体を慣らした。
そこではどれも、生きる為に必要なことだったから。幼い頃から「護身のために」と、ある程度は母様から教えてもらっていたこともあっり、飲み込みは早かった。もしかすると、母様はこうなることを予想していたのかもしれない。五年が経つ頃には、一人前として認めてもらえていた。
私は《鴉》に入ってからもずっと髪色を隠し続けていた。公爵家にばれない為にもそうした方が良いと思ったから。知っていたのはレヴィン兄と私の面倒をよく見てくれていたクレア姉様の二人だけだ。
だからわからない……。
どうしてばれてしまったのか。
ーー十七歳になった今、公爵家に私の存在が知られてしまった。
ありがとうございました。




