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赤いのは食べ物ではありません(3)

「うんちゃっちゃ~、うんちゃっちゃ~」

 変なイキモノが、変な踊りを踊っている。

「うんちゃっちゃ~、うんちゃっちゃ~」

 それを見守る見物人の表情は、果てしなくビミョウだ。ゲオルクもイリスも、目の前のイキモノの行動に、急激に下降していく気温との因果関係を結びつけたくないようだった。

 ——ロイドは、依然気絶したままの女を嗅ぐのに忙しく、ハムスター(仮)の動きなど見てはいない。

「らりらりらり~ん」

 最後はくるくると回って決めポーズ。

 そして、(恐らく)どや顔。

 異常な熱気が消失したその場に吹いた風は、とても爽やかなものだった。

「……凄いと、言うべきなんだろうな……」

 軽く石畳を蹴るゲオルクの顔は、引き攣っていた。

 そこは、ハムスター(仮)が変な踊りを踊る前は、溶岩の池と化していた場所であった。

 焼け溶けていた地面は、その上の石畳ごと元通りになっている。

「え~、ちょっぴり多くなっとった火の精霊を元に戻しただけやねん。そんなに大したことないんよ」

「赤ハムさん、これは大したことだから」

 ぽりぽりと頭をかくハムスター(仮)に、イリスが突っ込んだ。

 精霊というのは、この世界を構成する要素である。

 そして、精霊を介することで、世界の改変を行うこともできるのだ。

 しかしながら、精霊の力を借りるには適性が必要で、その適性は持つ者と持たざる者の間で絶対的なまでの差異がある。

 精霊との感応性に関しては、溶岩が生まれるほどの高温をあっという間に収めたハムスター(仮)のそれは、非常に高い水準にあるといって良い。

 そもそも、ちょっぴり火の精霊が増えた程度で溶岩の池なぞ出来るはずも無い。

 ゲオルクは内心、なんてものを好物認定しているんだ、とロイドを罵倒しつつ、軽く咳払いした。

「手間をかけるようで申し訳ないのだが、一度王城まで来てくれないだろうか?」

「え~、めんどくさいねん」

 ハムスター(仮)は器用にも、鼻くそをほじる真似をしながら答えている。

「まあ、気持ちは分からなくもないが……」

 ゲオルクはハムスター(仮)の態度にも怒ることなく、鎮痛な表情で言った。

「貴殿らには、彼女を無傷であれから引き剥がせるのか?」

 ゲオルクが『あれ』で指差したのは、絶賛女を嗅ぎまくり中のロイドである。

 ロイドは、未だに黒猫から猫パンチを連打されていたが、その影響を受けた様子は欠片も無かった。

「何で牢屋にぶち込まないんよ」

「……ぶち込みたいのはやまやまなんだがな、今の状態だと殺しにかかるしかないから、彼女を巻き添えにしない自信が全くない」

 そして、仮に無事にロイドから女を救出できたとして、物理的にロイドを閉じ込めておける牢屋なぞ存在しない。

 壊すのだ。

 つまりは、被害を最小限に抑えるには、ロイドの気が済むまで待つしかないのである。

「……え~……」

「いや、すまん。本当に、すまん」

 ゲオルクとしては、ロイドの行動が恥ずかしすぎて、一刻も早く王城に帰還したかった。

 ロイドが無自覚に変態をかましていたため、ゲオルクは対応に苦慮していたのである。

「——あー、そう言えば、俺は貴殿を何と呼べばいいのだろうか?」

「変態の知り合いに呼ばせる名前なんかないねん」

 ハムスター(仮)は、そう言ってゲオルクにプイッと背を向ける。

 とても一国の王に対する態度ではないが、今までの状況を鑑みると、ゲオルクは怒るに怒れない。

 ロイド作の、ハムスター(仮)の頭部の痛々しいコントラストが、ゲオルクの心に刺さる。

 相手からは自分が臣下の一人も御せない無能に見えているんだろうな、とゲオルクは胸中で呟く。

 確かに、平素からロイドを制御しかねているのは、事実なのだ。

 ただ、呼び名がないと、少々不便だった。

「——では、貴殿を『赤いの』と呼ぶので、よろしく頼む」

「もっとカッコいい呼び名じゃないんかいっ?!」

 ロイドに(なら)って分かりやすさ重視のゲオルクの案は、当の赤いのに却下されてしまった。


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