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魔石は食べ物ではありません

 のちに彼の臣下となる男は、初めてあった時、餓えた獣のような子供であった。

 その一族に特有の赤銅色の瞳には、満たされることのない異質な光が湛えられていた。

 そして、対面して数秒後にして、その子供に差し出した手を丸かじりされ、本能の導きのままに相手を殴り倒した。

 他人に言っても冗談だと思われるが、あのままでは確実に、子供に彼の手を食い千切られていただろう。

 ——その結果、何故か懐かれたのが今でも謎だ。

 いくら己の臣下を観察してみても、被虐趣味の嗜好が欠片も見いだせないのだ。

 彼が自分の第一の忠臣を得たのは、そんな事情からだった。


 ……その後の苦労を振り返る度、彼は己の努力を褒め称えたくなる。


 ◆◆◆


 独特の輝きを放つ、透明な石。

 武骨な手がそれを摘み上げ、口に放り込む——。


 ——直前に、彼は臣下の頭を鷲掴みにした。

「……だ・か・ら、魔石は食いもんじゃないと何度言ったら理解するんだ、お前は」

 地獄の底から響いてくるような低い声だが、彼の臣下は獣の様に鼻を鳴らしたきりだ。

 男は、渋々、といった態で手にした魔石を元の場所に戻すが、目を離せば確実にまたやらかす。

 彼は、ひっきりなしに痛むこめかみを指でもんだ。

 ——危うく、今回の賭けの利益が消えて無くなるところだったのだ。

 世界の魔力が結晶化した魔石は、大体含有する魔力の純度と透明度と希少性の高さが比例する。

 つまり、透明度の高い魔石は、それだけ魔力を有しており、市場価格も高くなるのだ。

 ちなみに、男が口にしようとしていた魔石は、それ一つで豪邸が建つ額だ。

 そんな物を何故食べる、と、彼は声を大にして言いたいのだが、常に飢餓感に悩む男に彼の常識は全く通じない。

 殆どの種族が口にすると中毒を引き起こす魔石であるが、万年腹減り男にとっては、僅かばかりといえど、充足感をもたらす存在なのだ。

 故に、男は魔石を見つけると口に入れる。

 そしてそのまま食べるため、その分金がかかるのだ。——間違いなく、世界で最も金を浪費する晩餐だ。

 男には先祖達が貯めこんできた遺産があるものの、当の本人の悪食ぶりの前には激しく心もとない。


 とっくの昔に通常仕様と化した主従のやり取りに、傍にいた先見は面白げに笑った。

 食えない先見を、彼は恨みをこめて睨み付ける。

 金を巻き上げる予定だった相手に、魔石での代替を提案したのは、この先見だ。

 魔石というのは、本来魔法の補助や魔法具を使用するための代物であり、用途に事欠くことはない。こと国防に関しては、戦略魔法の発動に不可欠な魔石の保有量は、軍事力を図るための重要な項目の一つとなってもいる。

 それ故、金銭や貴金属と同じく、魔石もまた取引の代価として価値があるのだが。

 ……彼に限って言えば、魔石なぞ貰っても、気苦労が増えるだけだった。

 腹ぺこの魔物の目の前に餌を置いて、それを食べるなと言うのと同じである。

 未だに、じーっと、魔石を注視している臣下に、彼は溜息しか出なかった。


*男の主君認定の道筋*

腹が減った→目の前に手が→丸かじり(人食とかは頭にない)→「おれは食いもんじゃねぇよっ!!!!」(鉄拳付)→食べ物じゃない→じゃあ主君か


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