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1話 薄っぺらい冊子のこと

Twitter上の創作企画「空想の街」(企画設定のwiki→http://www4.atwiki.jp/fancytwon)に参加した作品を加筆修正したものです。

作中に企画の設定に準拠した表現があります。作中の藍童話は原の作品です。

一部、企画の他参加者さんとのコラボがあります。ご了承ください。

「ブックカフェ黒猫」肇‏(@likeanalleycat)さん

「デコ少年と平凡少女」さく(@miriasaku)さん


「空想の街」のまとめはこちら↓

ttp://togetter.com/id/keitoura1123



『誰もが知っている街、誰も知らない街、どこかにある街。

空想の街。

時計塔のそびえる街では不思議なものがちらちらと煌めく。

まるで独楽のように、時計塔を軸に円状に広がるさまざまな色をした地区。

くるりと回れば、きっと。

見えるでしょう、あなたのための、あなたの色が。』


『空想の街 ガイドブック(佐々木利王編集 出版)より引用』



「時計姫」


あるところに海と山に囲まれた街がありました。その街には賢い王様と美しいお妃様と幸福な住民たちが住んでいました。何もかもに満足していた彼らでしたが、たった一つだけ、幸せな彼らが憂いに思うことがありました。王様とお妃様にはまだお子がいなかったのです。

お妃様はその美しいしろい肌に涙をこぼしながら毎晩お祈りしていました。

「どうか私にお子をお授け下さいませ」

ある春の夜のことちかちかっと☆が瞬き、お妃様は不思議な声を聞きました。

「もし私の願いを何でも一つだけ叶えるのならおまえの願いを叶えてやろう」

「あなたは神様でしょうか」

「さあ分からない。でもお前は子供が欲しいのだろう」

「ええ、とても」

「ならば云えばいい。願いを叶えると云えばいい」

「あなたの願いを叶えます。どうかわたくしにお子を授けてくださいな」

お妃様が言った途端に☆は瞬くのを止めました。

ところがその声の主は神様どころか森に住む偏屈な魔女だったのです。

そんなことも知らずにお妃様はこのことを王様に報告し、お子を授かれるかもしれないと喜びました。賢い王様は正体不明の声に少し不安を覚えましたが、それでも喜ぶお妃様に微笑み返しました。

二月とたたないうちに、お妃さまは懐妊しました。

そしてたちまち10月10日がたち、とうとうお姫様が生まれたのです。

お姫様は太陽を切り取ったような金の髪に、きらきら光る青い目のとても可愛らしい女の子でしたので、王様とお妃様、住人たちはたちまちお姫様に夢中になりました。王様はお姫様が生まれてしばらくは声が気にかかっていましたが、いつまでたっても声の主は現れず、やがて時が過ぎるうちにそのことをすっかり忘れてしまいました。

お姫様はすくすくと育ち、やがて10才のお誕生日を向かえました。それはそれは盛大なお祝いで、かねてから計画されていた時計塔の完成もこの日でしたので、街はお祭り騒ぎです。王様とお妃様は幸福そうに微笑みました。お姫様も笑いました。そして、魔女が現れたのです。

完成したばかりの時計塔の下で騒いでいた人々は魔女の登場に静まり返りました。皆、魔女が意地が悪くて捻くれてることを知っていたのです。

魔女は言いました。

「願いを叶えてもらいにきた」

あの声が魔女のものだったことに気が付いて、お妃様は手で顔を覆いました。


そうしてお姫様は時計塔の中に住むことになったのでした。魔女はお姫様に呪いをかけ、時が止まるまで誰もお姫様を思い出せないように、お姫様が時計塔から出られないようにしました。時計塔からからくり仕掛けに囲まれて、お姫様は誰からも忘れられて生きていました。たった一人で、生きていました。

幾年かが過ぎ、街へ一人の旅人がやってきました。彼は少々考えなしなところがありましたが、好奇心旺盛で正義感に溢れていました。観光を楽しんだ後、感心して時計塔を見上げた彼はふと時計塔に扉が付いていることに気が付きました。(これは探検しない訳にはいくまい)

「だあれ?」

時計塔の上部の小部屋にたどり着いた旅人が目にしたのは、とても美しいお姫様の姿でした。8年も外に出てないせいでお姫様の肌はいよいよ白く金の髪は床を覆うほどに長く伸びていました。

「旅人です」

「何しに来たの?」

顔を歪ませてお姫様は言いました。

「私はお姫様」

「どうしてお姫様がこんなところに?」

「悪い魔女に閉じ込められてしまったの」

そう言ってお姫様はふいと旅人から顔をそらしてしまいました。

「呪いでみんな私を忘れてしまった。私はこの塔から出ることが出来ない。あなたも早く何処かへ行って。どうせ忘れてしまうのだから」

ところが旅人の方はもうすっかりお姫様に心を奪われておりました。

「どうすればあなたの呪いを解くことが出来るでしょう?」

旅人は跪いてお姫様に尋ねました。

「出来やしないわ」

投げやりにお姫様は答えました。

「時が止まるまで私はここに居なきゃならない」

「時が止まるまで」

「お父様も学者も妖術使いも皆試したけど無理だったわ」だからどうか放っておいてちょうだいな。

小さな声でお姫様が言いました。

小さな涙がドレスの上を滑りました。

ふむ、と旅人は考え込みましたがそれは長くは続きませんでした。にっこり笑って旅人は言いました。

「それでは僕が呪いを解いて差し上げましょう。そうしたら一緒に街に遊びに行きませんか」

「・・・本当に?」

「ええ」

そこで初めて旅人はお姫様の笑顔を目にしたのでした。

それでは下へ降りていてください、と旅人はお姫様に言いからくりへと向き直りました。お姫様の足音が遠ざかるのを確認して、旅人は荷物の中から鉄の棒を取り出しました。

そして思い切り、からくりをぶん叩きました。この街の”時”を旅人は止めるつもりだったのです。

旅人は何度もからくりを打ちすえ、とうとう時計は止まってしまいました。街中に響いていた秒針の音が止みました。

と同時に、塔から出たお姫様の歓声が下から聞こえてきました。

塔を降りた旅人にお姫様は微笑みました。旅人もすっかり嬉しくなって微笑み返しました。そこへ異変を知った住人たちが駆けつけてきました。幸福でいっぱいのお姫様は叫びました。

「みんな!呪いが解けたの!彼が解いてくれたの!」

住人は答えました。

「お前は誰だ!」

訳が分からないまま、お姫様は怒り狂った住人たちに引き倒されました。何故?呪いは解けたはずなのに?

旅人は魔女がまだ生きていることを忘れていたのです。呪いを解いたことに気が付いた魔女が黙っている筈がないのでした。

旅人はお姫様の手を取ると走りだしました。

やがて森の入り口で二人は追い詰められました。ぎらぎら目を光らせた住人たちは魔女に操られているのに違いありません。囲まれながらお姫様はさっと辺りを見回しました。

住人に引き倒され殴られ蹴られながらお姫様は森の一点を指さしました。

「魔女があそこに、」

旅人もそちらを向きました。彼はまだ手に鉄の棒を握っていました。

お姫様の声はもう聞こえません。旅人は最期の力を振り絞って鉄の棒を投げました。

棒はびゅうと音を立てて飛び、

魔女の胸に突き刺さりました。


はっ、と住人たちは我に返りました。

一体どうしてここにいるのか分からないという表情で辺りを見渡して、やがて自分たちの前の三つの骸に気が付きました。

鉄の棒を胸に突き立てて絶命した魔女と、手をつないだまま倒れ伏す旅人とお姫様の姿がそこにありました。



「坂を下りる」


北区を走っている少女がいた。朱いワンピイスを翻して石造りの通りを少女は走る。ながいながい坂道に差し掛かった時、つ、と少女の腕から抱えていた林檎が落ちた。アッと小さく声が漏れ、林檎は坂を転がり落ちていく。

ながいながい緩やかな坂を林檎はおちる。くるくるくるくると回りながらおちる。石に傷つき皮がところどころ剥ける。それでも林檎は止まるすべを持たないから落ちるしかない。ながいながい坂を林檎が落ち切ったのは夜になってからだった。


母の仕事を手伝う少女は毎日その場所を通る。仕事場と家とをつなぐのはその道しかない。椿の花を両手いっぱいに抱えて、少女がその坂に再び通りかかったのは林檎を落としてから三日後のことだった。

ながいながい坂を覗き込んで、少女はするりと一瞬眩暈を覚えた。腕の中からスルリと一本の椿が地に落ちる。水色のワンピイスの裾が揺れる。あ、と少女は呟いた。

椿は落ちていった。時折中に舞いながらふるふると風に揺られながらくるくる踊るように。でも林檎と同じで椿ににも止まる手段などありはしないのだ。花びらが一枚取れ、二枚取れ、夕方にさしかかるころに椿は坂の下にたどり着いた。


4日後、坂を通りかかった少女はスキップをしていた。右手を空にかざしてみるのは昨日夜店で指輪を勝手もらったからだ。嬉しそうににこにこしていた少女だが、ふと、坂が気になったらしく足を止めた。

細い指から小さな指輪が滑り落ちた。ああっ!泣きそうな声を少女は上げるが指輪は止まらない。吸い込まれるように坂を転がっていく。

ながいながい坂を転げながら指輪は落ちていく。チャチな作りの指輪は石に傷つき留め金がずれぼろぼろになっていく。それでも落ちて、落ちて、指輪が坂を落ち切ったのはお昼前のことだった。


その日から少女は熱を出して寝込んでしまった。高熱というのは辛い。布団の中でぐずる少女を母親は優しく撫でて、額の布をそっと水に浸すのだった。


二日後、ながいながい坂の上に少女がやってきた。白いワンピイスを見かけた通行人がいいお洋服だねえ、と声をかける。少女は嬉しそうにはにかんで、突然坂を駆け下りた。少女が坂のふもとに姿を現したのは一瞬後のことだった。少女に影はなかった。



「三姉妹とめくらネズミ」


しっかり者は長女 長女 長女 

森でネズミを捕まえて 振り回して言った

『ネズミよ ネズミ めくらネズミよ 魔法の呪文 教えとくれ』

憐れなネズミは こう叫ぶ

『呪文はそこだ うちのタンスの板のした』

長女は気分を 操る魔女に


ずる賢いのは次女 次女 次女 

海でサカナを捕まえて 振り回して言った 

『サカナよ サカナ めくらザカナよ 魔法の呪文 教えとくれ』 

憐れなサカナは こう叫ぶ 

『呪文はそこだ うちの屋根裏うえにある』 

次女は悪夢を 操る魔女に


お馬鹿さんの三女 三女 三女 

道でコトリを捕まえて 抱きかかえて言った 

『コトリよ コトリ 憐れなコトリ お前のうちは どこだろう』 

喜びコトリは こう叫ぶ 

『呪文をあげる 僕の命の代償に』 

三女は視界を 操る魔女に


タンスと屋根裏コトリの命 

愚かな三姉妹 

魔法の力を知らないで 大ゲンカ 大ゲンカ 

狂ってくらくら三人を ソラフグの群れが 食べちゃった



『楽しい藍童話集1巻より  編集 ルークナ大学 文学部 2回生 数藤 遥』



街に伝わる藍童話。

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