#1 白き猫は悲劇をもたらす【4th】
「すいません! ごめんなさい! 申し訳ありません!」
「わ、分かりましたから頭を上げてください」
リビングにて、俺は見知らぬ幼女に土下座をしていた。もちろん今は服を着ている。
口では謝罪しておきながら、さっきの光景が鮮明に思い出される。
くっ、まさかこの世に本当の天使が存在していたとは。
「いやぁ、それにしても幼女の小さい胸は最高だな」
「………………やっぱり、一生頭を下げていてください。というか、死んでください」
ありゃ。見かけによらず、淡々と辛辣な皮肉を言ってらっしゃる。
そこで、さっきから気になっていたことを訊く。
「なぁ、今更だけどさ。お前は誰なんだ? 何で俺ん家の風呂場でシャワーを?」
「……分かりませんか? ほら、猫耳ですよ? それに尻尾も!」
童女は頬をむくれさせ、頭とお尻を指差す。
「うん、最高に可愛いね!」
「そうじゃありません! むぅ……」
あれ、何で褒めたのに不機嫌そうなんだろう。
「あっ。そういえば、あの猫はどこに行ったんでしょうね?」
言われて、思わず辺りを見回す。
確かに、さっきからミラの姿が見えないのだ。逃げたとは思えないけど、心配だな。
そんな俺の様子を見て、幼女にますます不満の色が募っていく。
「あーっ、もう! わたしです! わたしがミラです!」
「……………………………………………………………………………………は?」
いかん、突然発せられた言葉が予想外すぎて一文字しか声が出なかった。
えーと。それは、つまり――
そこまで思案したところで、玄関から扉が開く音。おそらく、というか間違いなく、あやめが帰ってきたんだろう。
「兄貴ぃ、いるぅ? ちょっと日直が長引いちゃっ……てぇ…………?」
リビングに入ってきた途端、あやめの視線が俺の目の前にいる女の子に向けられ、怪訝な眼差しに。
「その子誰ぇ!? 兄貴ぃ、誘拐は立派な犯罪だよぉ!」
「違ぇぇよ!」
「ホントにぃ?」
「当たり前だろ! お兄ちゃんを信じろよ!」
ふぅ、他人の誤解ほど厄介なものはないよね。
五十嵐兄妹のやりとりを見ていた幼女が、突然口を挟む。
「あの、あやめさん。わたしは誘拐されたんじゃなくて、前からこの家にいました」
さっきからこの子の言っている意味が理解できない。それはあやめも同じだったのか、可愛く首を傾げている。
すると、補足してくれた。
「わたしは、精霊獣と呼ばれています。蓮さんたちにも分かりやすく言うと――擬人化、ですね。猫の」
ああ、この時からもう始まってたんだ。
俺の。いや、俺達の、非現実的で非日常な物語が。




