#6 たった一人のパートナー
気がつくと、清潔感の漂う真っ白な天井が見えた。
俺の体には、包帯がいっぱい巻かれている。
ここは、病院かな。妙に綺麗で、妙に静かな個室だ。
……俺、どうしたんだっけ。レグルスと戦って、それから何があったんだっけ。
と、朦朧としている意識で考えを巡らせていたら、不意に横から声をかけられる。
「……五十嵐君、目が覚めたの」
少し右に目をやると、俺が仰向けに眠っているベッドの隣で、中篠が本を片手に椅子に座っていた。
その傍らでは、シャウラが人間の姿で壁にもたれている。
「鳥山があんたをここまで運んできたのよ。聞かされたときはびっくりしたわ」
シャウラが、そんな説明をしてくれた。
そうか、鳥山先生が俺を病院に連れてきてくれたのか。やっぱりいい人だよな。
「お前ら、無事だったんだな……」
シャウラも中篠も、あの戦いではかなり負傷していた。正直、死んでしまうんじゃないかと最悪の想像をしていたんだが、杞憂だったらしい。
見た感じだと、二人の身には傷一つもない。
「まったく、人の体を心配してる場合じゃないでしょうに。あんたが倒れてから、もう三日以上経ってるのよ。その間に回復したわ。あんたも知ってるでしょう? 恵の技」
シャウラが言ってるのは、中篠の技の一つである〈澄徹の鎖〉のことだろう。
確かにあれを使えば、大抵の傷は塞がり血も止まる。
「だったら俺にもやってくれよ」
「……駄目」
「そうよ。あんたはもっと休んでなさい」
早く治したくて頼んでみたものの、二人に拒まれてしまう。
ま、仕方ないか。たまには休むことも大事だよな。
それにしても、シャウラと中篠には世話をかけた。なにかお詫びしないと。
「なぁ、今度俺ん家来ないか? ほら、修行とか色々迷惑かけたからさ。だからご飯とかも振る舞うぞ」
残念ながら、俺にはその程度しかできそうにない。
「気にしなくてもいいわよ、そんなの。でも、料理の参考に……行ってあげてもいいけど」
俺よりシャウラのほうが料理上手いと思うんだが。少なくとも、参考にする必要はないはず。
「……楽しみ」
「あぁ、何でも作ってやるよ」
「……美味しそう。下の口から涎が出た」
「せめて上の口から出して!」
怪我人にも容赦ないな、こいつの下ネタは。
と、病室の扉がノックされ、ミラとあやめが入ってくる。
「あ、蓮さん! 目が覚めたんですか!」
「兄貴大丈夫ぅ……?」
「おう、なんとかな。心配かけてごめんな」
今回の件で、俺は色々な人に心配をかけた。ちょっと無茶しすぎたかな。
「まったくです。ものすごく心配したんですよ」
「ごめんごめん、お前も無事だったんだな。良かった」
「わたしも恵さんに治してもらいました! そんなことより自分の身を案じてください!」
中篠の〈澄徹の鎖〉が便利すぎる。眠ってしまうのは大変だけども。
「もしかして、怒ってる?」
「カム着火インフェルノです!」
「怒りすぎだろ……」
おこ、激おこ、激おこぷんぷん丸、ムカ着火ファイヤー、カム着火インフェルノの順だから、相当お怒りのようだ。
ミラがそんなギャル語を使うとは思わなかったよ。
「蓮さんは人間なんですから、あんまり無茶しないでください。もしかしたら死んじゃうんじゃないかって、心配だったんですよ……?」
勝てる見込みのない相手に立ち向かったり、最後のほうはレグルスの攻撃を避けもしなかったり、かなり無茶をしていたのは認める。
でも、ミラだって人のことは言えない。
「悪かったよ、どうしても負けたくなかったからさ。ってかお前も無茶してたよな。俺を庇うなんてよ」
「そ、それは……」
俺の言葉に、ミラは口ごもる。
どいつもこいつも、無茶しすぎだ。もちろん、俺も含めて。
そういえば、レグルスの〈瑩徹の束〉を耐えることができたのは中篠の修行による成果なのかもしれない。
二週間の修行で、鍛えられたのだろう。とてもスパルタだったが、逆にいい結果を生んだ。
「鳥山先生たちはどうしてる?」
「完全にレグルスさんと和解したわけじゃありませんけど、パートナーを続けてるみたいですよ」
たとえあんなやつでも、鳥山先生にとっては幼い頃から一緒にいる唯一のパートナーなんだもんな。
もう、人を絶望させるようなこと――殺人とか、しなければいいんだけど。
「鳥山先生って意外とお人好しだよなぁ」
「蓮さんがそれを言えるんですか……」
俺は別にお人好しではない。ただ、困ってる人を見捨てられないだけだ。
……あれ、それをお人好しって言うんだっけ。
ともあれ、あやめに確認しておくべきことがある。
「で、あやめ。やっぱお前は、鳥山先生のことが好きなのか?」
「うっ……好きっていうかぁ……憧れっていうかぁ……」
俺の問いに、あやめは赤面して両手の指をツンツンしたりもじもじしながら答えた。
まったく、可愛い反応しやがって。
「そっか。お前が好きになったんなら、俺は何も反対する理由はねぇよ。そのおかげで鳥山先生がロリコンに目覚めるかもしれないしな!」
「……蓮さんと一緒にしないでください」
ジト目でミラに突っ込まれた。
鳥山先生もロリコンに目覚めた暁には、一緒に幼女の素晴らしさを語り明かそうと思ったのに。
周りにロリコンが一人もいないのは、甚だ遺憾だ。
「蓮さん……すいません。怒ってますよね」
いきなり発せられたミラの呟きに、俺は訝しむ。
「わたしが巻き込んだせいで、蓮さんたちを危険な目に遭わせてしまいました。運が悪かったら、死ぬことになっていたかもしれません」
やっぱりミラは、ずっと気にしていたのか。俺に助けを求めてきたことを。
「しかも、鳥山さんと勝負していたあの日。蓮さんたちはテスト中でした。恵さんが蓮さんの結果を見たらしいんですが、順位が下から三番目らしいです」
衝撃の事実に、俺は驚く。
まぁ、仕方ないよな。鳥山先生やレグルスと戦っていたため、まったくと言っていいほどテストを受けていない。
ていうか、それでも下から三番目なのかよ。あとの二人は何してんの。
完全に赤字だ。補習があるのか、嫌だな。
「……本当に、すいません。こんなパートナー、嫌ですよね」
「ばーか、何言ってんだよ」
俯いて呟くミラの額を、俺は軽く突いて言う。
「そんなこと、気にすんな。たかがテストだろ? 補習だって、ちょっと辛抱すりゃいいだけだ」
「で、でも、わたしのせいで大怪我しちゃいました!」
レグルスの攻撃で腹が空いたから、確かに大怪我だ。まだ痛む。
だけど、わたしのせいでっていうのは違う。
「お前のせいじゃねぇ、俺の自業自得だ。みんなを守りたいと思ったからやっただけ。気にすんなよ」
「でも……」
それでも、まだ納得いかないのか。
俺は小さく溜め息を漏らし、更に言う。
「お前はさっき、巻き込んだせいで危険な目に遭わせた……って言ったな。確かにそりゃ間違いじゃねぇ。けどな、あのとき白い猫がいて、助けを求めてくれたからこそ――お前に会えたんだよ」
言葉の途中でミラの頭に手を乗せ、優しく撫でる。
頬が紅潮していたが、窓から射し込む夕陽の色だろう。
「だから、その、俺たちはパートナーなんだろ? だったらわたしのせいでとか、そんなこと考えずにさ。どんどん巻き込んでくれよ。いっぱい巻き込んで、そんで一緒に解決してさ。それが、パートナーってものだ」
「わたしでも、いいんですか……? こんな、パートナーでも……?」
不安そうに上目遣いになって問うミラに、俺は堂々と答える。
迷う必要なんて、何もない。もうとっくに、決まっていたことだ。
「――当たり前だろ。ミラは、可愛いロリだからな」
「……怒っていいですか」
相変わらずのロリコン発言をする俺と、呆れたように言うミラ。
いつしか俺たちは、どっちからともなく笑い出す。
中篠やシャウラやあやめは疑問符を浮かべていたけど、何が可笑しいのかも分からずただ笑っていた。
俺は契約者で、ミラは精霊獣。ただそれだけの関係なのに、何故だろう。
俺は今まで出会ってきたどんな人々より、ミラを信用し、信頼している。
俺たちが一緒にいる理由なんか、いらないんだ。
だってたった一人の、唯一無二のパートナーなんだから。
まだまだ脆弱な俺だけど、これからもずっと一緒に戦い、守ると誓うよ。
――最高の相棒。
約1年間、ありがとうございました
双眸の精霊獣は、これにて完結となります
ですがノクターンのほうにある18禁版はこれからもまだまだ続けますので、よろしくお願いします
たとえ本編が終わっても、ミラたちはみんなの心の中に!




