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双眸の精霊獣《アストラル》  作者: 果実夢想
Ⅰ 猫のグレムリン
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#5 高速の獣【6th】

 相手は高速の足をもつ精霊獣――レグルス。


 それに対し、こちらは無力な人間が二人。


 どう考えても、勝ち目なんてない。


 ……だけど。それでも俺は、諦めるわけにはいかないんだ。


 鳥山先生を騙しやがったあいつを、殴るために。そして、ミラたちみんなの思いを無駄にしないためにも。


「……ハッ、ンだよつまんねェ正義感だなァおい。今の、この現状を見てみろォ? オレに、勝てると思うかァ? てめぇらみてェなザコがよォ!」


 レグルスが、忌々しい声音で嘯く。


 間違ってはいないのが、余計に腹が立った。


 そう。いくら許せないとつまらない正義感を振りかざしても、俺たち人間は弱い。


 アニメみたいに都合のいい展開なんてあるわけないし、突然覚醒したり強くなったりもない。


 ……だから、どうした?


「ああ、俺たちは弱いよ。そりゃ、お前ら精霊獣みたいなすごい能力なんて、あいにく持ち合わせてない。勝てる見込みなんかこれっぽっちもなくて、どうして俺は無力な人間なんだろうって、悔しくてさ……自分の運命を呪いたくなってくる」


 レグルスも鳥山先生も、静かに俺の言葉に耳を傾けている。


 そんな奴に向かって俺は、自分の気持ちを言い放つ。


「……けどな! その程度で諦める理由にはならねぇんだよ! ミラたちや鳥山先生を傷つけたお前を、許せるわけねぇだろ! ミラの力を借りれないなら、俺のこの手で、お前をぶん殴ってやるよッ!」


 すると、鳥山先生は満足そうに微笑む。


 だがレグルスは、見るからに苛立っているようだった。


「チッ。あァー、うぜェ。やっぱてめェは、さっさと死んじまいなァ。そしたらそんなくだらねぇことも、言えなくなるだろォッ!」


 そして、不意にレグルスは姿を消した。


 もう分かってる。これは、消えたんじゃないだろう。


 すぐに後ろを振り向くと、そこにレグルスが立っていて――思い切りぶん殴られた。


 ものすごい力で、何度もリバウンドしながら俺は転がっていく。


「五十嵐!」


 鳥山先生が心配して駆け寄ろうとするが、レグルスに呼び止められる。


「……ハヤテ。てめぇとの日々は楽しかったぜェ? 事実を話したとき、どんな絶望を見せてくれるか楽しみでなァ。想像してはゾクゾクしてきてよォ……だからさァ」


 そこで一拍あけ、許せないセリフを吐く。


「もっと、もっと見せてくれよォ……ッ! てめぇの奥底に眠る恐怖も、後悔も、憎悪も、殺意も! ありとあらゆる絶望……負の感情こそが、最大の快感なんだよォ! やっぱ、嬲り殺しが一番かァ?」

「――ッ!」


 鳥山先生が驚愕の表情を見せるより早く、レグルスが高速で肉迫して蹴り飛ばす。


 どうやったら勝てるんだろうな。どうやったら、あいつを殴れるんだろうな。


 なんて、ちっとも考えなかった。


 そんなことを考える暇もなく、俺はレグルスに向かって駆け出していた。


 ただ、無我夢中に。パートナーにも容赦なく攻撃を与えるレグルスを、許せなくて。


「んあ? 遅ェ遅ェ。ザコは地面に這いつくばって死んでろォッ!」

「ぁがッ!?」


 だが、やはり思い切りぶん殴られて勢いよく飛ばされてしまう。


 俺の中で、どんどん絶望が強まっていく。


 レグルスは、パートナー――鳥山先生の協力がなくともかなり強い。


 こんな奴に、勝てるのか? ミラのいない、俺が。


 と、不意に。


 視界の端で、淡い光が見えた。


 そこにあったのは、一振りの刀剣。


 ……ああ、何やってんだよ、俺は。


 結局また、いつものようにミラに助けられてるじゃねぇか。俺が、守るって誓ったのにな。


 ミラは、瀕死だった。けど手も足も出ない俺たちを、僅かに意識を保ちつつ見ていたのだろう。


 やっぱりまだ、死んでなんかいない。


「ありがとな、ミラ。絶対、負けないから。絶対に、死なせないから!」


 意識があるのかどうかは、分からない。でも俺は拾いながら刀剣に向かって、感謝と決意を述べる。


 そしてレグルスを見据えつつ、立ち上がる。


 体を襲う痛みとか、奴に対する畏怖とか、特に勝算もない絶望とか。


 そんなもので――俺を止められると思うなよ。


「チッ、しぶてェ野郎だなァ。そんな死にかけの状態で、剣一本あるくらいで、勝てるなんか思ってんじゃねぇだろうなァ!」


 俺は叫ぶレグルスにゆっくり歩きながら、呟く。


「……思ってねぇよ。いくらこの剣があったって、精霊獣であるミラの力を借りたって、本来の俺は弱いもんな。分かってるよ、お前らと違って俺は人間なんだからさ」


 近づくにつれ、レグルスは徐々に表情を歪ませる。その顔は苛立ちや憤怒に彩られていた。


「けど、だから何だって言うんだよ。お前は、みんなに何をした? 鳥山先生を騙し続けて、鳥山先生を裏切って、その結果中篠を傷つけることにもなって、シャウラやミラをも傷つけて!」


 だんだん歩くスピードが速くなっていくのが、自分でも分かった。


 こいつだけはどうしても、許せない。


「勝てないから何だよ! そんな問題じゃねぇんだよ! 勝てるかどうかじゃない、勝たなきゃいけないんだ! 俺はみんなのためにも、てめぇをぶっ飛ばさなきゃ気が済まねぇ!」


 そして最後に、叫ぶ。


「――この剣。ミラと一緒に、絶対てめぇをぶっ飛ばす!」

ミラの力を借りて、蓮はレグルスとの決戦を続ける!

疾風の心情にも変化が訪れ、物語はついに終幕へと駆け抜ける――!

果たして勝利の女神は、どちらに微笑むのか!?


次回、#5 高速の獣【7th】

五十嵐蓮VSレグルス――決着!

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