#5 高速の獣【2nd】
「な……ッ!?」
短い叫びを漏らした途端、鳥山先生の胴体が斜めに切り裂かれ、鮮血が迸る。
俺の刀剣、〈グレムリン〉によって。
ようやく攻撃を与えることができた喜びなんか、ちっとも感じなかった。
それよりも、何が起きたのだろうという怪訝な思いが強い。
突然、無意識に俺はかなりの高速で足が動いた。そして、そのままの勢いで鳥山先生を斬ったのだ。
今の動きは、明らかに普通じゃない。まさに、疾風の如く。
「ぐッ……何だ、今のは」
胸の傷を押さえながら、鳥山先生は呻く。
すると、手元の刀剣から声が発せられる。
「さっきのは多分、蓮さんの技ですよ。恵さんとの修行のときはできませんでしたけど、今使えるようになったのは良かったです」
今のが、俺の技? 説明を受けても、実感が湧かない。
ミラは更に続く。
「刀剣となったわたしを持っている間なら、何度でも技を発動することができます。そこで蓮さん、さっきの技に名前をつけてください」
名前、か。やっぱり必要なんだな。
不思議と、すぐに思いついた。
漫画家やラノベ作家みたいな創作などしたことないし、ネーミングセンスなんか皆無だけど。
鳥山疾風を斬る――という意味も込めて。
「――〈疾風の太刀〉だ」
疾風みたいな高速の太刀で、相手を斬るということだ。
宝石の名前を使ったが、ナイトは騎士という意味もあるからいいだろう。
堂々と告げた直後、何やら鳥山先生は不敵に笑む。
「く、くく……面白い。来い、五十嵐ッ! 今こそ、決着をつけるときだッ!」
分かってた。鳥山先生との戦いは、もう避けられないんだ、と。
心のどこかで、考え直してくれるんじゃないか、精霊獣を殺したりなんかいつかやめてくれるんじゃないかって、ずっと願ってた。
でも、やっぱり無理なのか。過去の絶望が、今の鳥山先生を蝕んでいる。
これは、仕方ないことなのか? 俺たちは、どうしても死に物狂いの争いを続けないといけないのか?
できることなら、みんな争うことなく平和に……ってのは生涯叶わない夢なのだろうか。
そのためにはまず――鳥山先生のことをもっと知らなければ。
「――〈無限の扉〉」
すると鳥山先生は透明で大きな鏡を次々と屋上内に出現させ、瞬時に移行していく。
本当に、速い。人間の目では追いきれないほどに。
だけど、今の俺は違う。
「ふざけんじゃねぇって、言ってんだろッ!」
再びさっきと同様の言葉を叫びながら、〈疾風の太刀〉で後を追う。
鳥山先生が次の鏡へ移動するのと、俺がその鏡に辿り着くのはほぼ同じ速度。
眠っている中篠の傍らで心配そうにこちらを見つめるシャウラには、速すぎてよく見えていないだろう。
「あんたは一体、何がしたいんだよッ!?」
叫び、刀剣を薙ぎ払う。だが、鳥山先生の〈無限の扉〉のほうがほんの数秒早かったらしく、切っ先は虚しく虚空を切るのみ。
鳥山先生は何も答えず、何もしてこず、ただひたすら逃げるばかり。
おそらく、攻撃のタイミングを図っているのだろう。
「何であんなに精霊獣を殺すって言っときながら、この二週間何もしてこなかった!? 何でさっき、中篠に止めもささず、シャウラには手を出さなかった!? あんたの行動は全部、矛盾してんだよ!」
どう考えても、おかしい。
俺が怒鳴っても、鳥山先生はただ一言だけ漏らす。
「……お前には、関係のないことだ」
そろそろ、堪忍袋の緒が切れた。
高速の追いかけっこの最中、俺は腹の底から叫ぶ。
「関係ないわけあるかよ! こうやって巻き込まれてる時点で、とっくに無関係じゃねぇ! 俺は知っておかなくちゃならねぇだろッ!」
わずかに、鳥山先生が歯軋りする音が聞こえた。
「もう一度言う! あんたは一体、何が――」
「――分かっているッ!」
不意に、今まで聞いたこともない鳥山先生の怒声が、俺の言葉を遮る。
そしてついに〈無限の扉〉をやめ、地面に降り立つ。
俺も〈疾風の太刀〉を止め、鳥山先生の背後で着地する。
「……分かっているさ、俺のしていることが矛盾していることくらい。だが、仕方ないだろう! 俺にだって、どうすればいいのか分からないんだ……!」
鳥山先生はそう言って、涙の雫を零しつつ自らの過去を話し始めた。
ようやく明らかになった、鳥山疾風の過去。
蓮たちは一体何を思い、行動するのか?
そして――真の敵がついに現れる!!
次回、#5 高速の獣【3rd】




