#5 高速の獣
「お前が生まれるより何年も前に、精霊獣は作られた。大勢の人々に人体実験を施した、研究者たちによってな。そこのミラやシャウラ、レグルスは成功して今に至るわけだが、実験に失敗した者は皆――死んだ」
鳥山先生の言葉に、俺は驚きを隠せない。
何で、何のためにそんな実験を行ったんだ。死者を出してまでするようなことじゃないだろ。
「実験を行った研究者の名は――中篠仁。そこで倒れている中篠の、実の父だ」
……え?
何て、言ったんだ、こいつ。
愕然とする俺に、鳥山先生は続く。
「更に、中篠仁に協力していた者がいる。中篠徳。中篠仁の妻であり、中篠恵の母だ」
いきなりすぎて、話についていけない。
中篠の両親が、ミラたち精霊獣を作ったっていうのか。死者を、出してまで。
信じられないはずなのに、不思議と納得してしまっていた。
研究者である両親の頭脳を引き継いでいるからこそ、中篠はあんなに頭がいいのかも。
「そしてシャウラは当時の中篠仁のパートナーとして、人体実験に携わっていたらしい。レグルスから話を聞いたときは半信半疑だったが、その様子を見た限りだと本当のようだな」
そして、驚愕に眉を顰めるシャウラの顔を見る。
何だよ、それ。シャウラも中篠の両親と一緒に精霊獣を作ったってのかよ。
「どうだ、五十嵐。お前は、大勢の死者を出したシャウラを、許せるか?」
「……」
俺は、答えることができなかった。
確かに、シャウラも中篠の両親と共に死者を出しながら精霊獣を作ったというのなら、許しがたい。
でも、何でだろうな。
シャウラは――いいやつなんだ、すごく。
もしかしたら俺を中篠のところまで導いてくれたのも、鍛えてくれたのも全部こいつなりの罪滅ぼしだったんじゃなかろうか。
「……五十嵐、許してもらえなくても無理はないわ。本当に、ごめん。今更謝っても許してもらえるとは思ってないけれど」
シャウラが、申し訳なさそうに謝ってくる。
「……その研究者は何で、精霊獣なんか作ったんだ?」
「精霊獣は、寿命というものがないの。だから死ぬまで、戦うことができるわ。仁は、世界を支配するとか言ってたわね」
何だよ、それ。
世界を支配するって……ホントくだらない。
「仁や徳に作られた精霊獣たちは、みんな研究室で保管されていたわ。でもある日、二人が死んでるのを見つけてしまったの。それから必死に仁の情報を探り、恵という娘がいることを知ったってわけ。あたしは恵が幼い頃からパートナーになって鍛えたわ。もちろん二人を殺した精霊獣に復讐するために」
なるほど、そういうことだったのか。
幼い頃から鍛えていたのなら、今の強さにも納得できる。
「鳥山先生はさっき、レグルスから聞いたって言ったな。レグルスは何で知ってんだよ?」
「はっ、ンなの決まってんだろォが。オレが中篠徳のパートナーとして、実験してるとこを見てたんだよォ!」
中篠の両親――父親のパートナーがシャウラで、母親のパートナーがレグルスだったってのか。
「本当は研究者を殺したいところなのだが、もう死んでしまったらしい」
「あァ、精霊獣によって、酷い殺され方してやがったぜェ」
……待てよ。話についていけないっての。
じゃあその精霊獣が、自分を作った研究者たちを殺したのかよ。何で、何のために。
上手く言葉にできない俺に、鳥山先生は言う。
「以上だ。お前は知っていたほうがいいと思ってな。決着をつけるか、五十嵐」
「……あぁ」
ダメだ、気を取られちゃ。
確かに大勢の死者を出したというなら許せるわけない。
でも中篠とは無関係だし、シャウラは罪滅ぼしをしようとしている。
それに、鳥山先生やレグルスの言っていることが本当だったとしても、精霊獣を滅ぼす必要はないだろ。
みんながみんな、そんなふざけたことを考えているわけじゃないのだから。
確認してみると、まだ掌の印は消えていない。
つまり、もう一度してくるはずだ。今度は一体、何を反対にするつもりなんだ?
思案していたら、唐突に颶風が吹き荒ぶ。
何だ、この風は。あまりに強すぎて、よく前が見えない。
じりじりと強風に後ろへ押され、腕で顔を覆う。
「……今日は、風が少ないな」
いきなり発せられた鳥山先生の言葉で、ようやく悟った。
これはおそらく――風力を逆にしたんだろう。
さっきまでは本当に、まったくと言っていいほど風は吹いていなかった。
なのに突然、体が押されてしまうほどの強風が吹き始めた、ということは。
かなり弱かった風を、強くしたんだ。
そう分かった直後、顔を覆っていた腕に鋭い痛みが走る。
何があったのかと確認したら、制服の袖が斜めに切り裂かれていた。
まさか鳥山先生は強風にしたのは単なるカモフラージュで、腕で顔を覆うのを見越して鏡を投げたというのか。
気づいたあとも次々と腕、脚、頬などに疼痛が襲う。
確かに、痛い。服も皮膚も裂かれ、血が滴る。
でも、何で……。何でさっきから、急所を外してるんだよ。
こいつはずっと、言っていることとやっていることが矛盾しすぎている。
何を考えているのか、さっぱり分からない。
俺は続々と襲い来る痛みに顔をしかめながらも、鳥山先生に向かって歩を進める。
ミラと契約を結んだときも、変な屁理屈を述べていたが、よく考えればおかしいじゃないか。
昔精霊獣に家族や友達を殺され、二度とそんな思いをする人が出ないように精霊獣を滅ぼすって言った。
じゃあ何で、俺がミラと契約を結ぶまで待ってたんだ? 何で、ミラを殺さなかったんだ?
普通は、契約者が来るまでに殺しておくほうが楽だろうに。
それに、鳥山先生は中篠とシャウラがターゲットだと告げた。
では何故、中篠やシャウラを殺そうとしないんだよ。
さっきの戦闘でも、中篠に止めをささなかった。
……何なんだよ、こいつは。
「――ふざけんじゃ、ねぇぞッ!」
無意識に叫びが漏れた、直後。
周りの景色が高速で動いたと思ったら、きづいたときには瞬時に鳥山先生に肉迫していた。
――――蓮の覚醒。
――――疾風の過去。
そして……!?
次回、#5 高速の獣【2nd】




