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双眸の精霊獣《アストラル》  作者: 果実夢想
Ⅰ 猫のグレムリン
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#4 悪意に満ちた人造【3rd】

 翌朝。八時過ぎに起床してすぐ、俺は目玉焼きに味噌汁に白米という、超ベタな朝食を作った。


 シャウラはもっと色々作るものだと思っていたらしく最初は不満そうだったものの、口に入れた途端顔を綻ばしながらも「ま、まぁまぁね……」などとほざいていた。別に隠し味とか大したことは何もしてないぞ。


「やっぱり美味しいよぉ……」

「す、すごいです! どうしてこんなに美味しくできるんですか!?」


 子供二人にも喜んでいただいて何より。火加減とかそういうのが影響してるのかな。どうしてって訊かれても知らん。


「……美味しい」


 中篠は、無表情で呟く。せめて笑おうか。無表情じゃ本当に美味しいと感じてくれてるのか分からないよ。


 昨日あやめが寝たあと、深夜一時くらいに中篠と修行をした。体力や経験は徐々に増していってるけど、技だけはどうしても開化できない。


 そもそも、無理な話なんだ。中篠でさえ使えないような技を、平凡な高校生である俺が自ら習得するなんて。


 そんな弱音を吐いてしまうほど、滞っている。


 ちょっと気を抜いたら殺されそうで、一秒たりとも油断は禁物。全く気を抜けないってマジで怖い。


 でも、仕方ないよな。


 ミラはいい子だ。絶対に死なせたくなんかない。だから、守れるように強くならないといけないんだ。


 まったく、俺は普通の高校生だったんだぞ。


 ……もう、普通には戻れないんだな。後悔はしてないけど。


 とか考えながら、二日目の勉強会。


 俺はあやめと共に、中篠やシャウラに昨日同様、勉強を教えてもらっていた。といっても中篠は答えを言うのみで本を読んだりしているので、ほとんどシャウラだ。つくづく勉強には興味ないんだね。これで成績トップなのは凄いです。


 と、そこで急にシャウラが立ち上がる。


「五十嵐、話したいことがあるわ。ついてきてちょうだい」


 ん? 何だろう。まったく思い当たる節はないが、ひとまずついていく。みんなも当然訝しむ。


 一階まで降りた直後、こちらに向き直り、話を始める。


「……あんたに頼みがあるのよ」

「頼みって?」


 いきなり発せられた言葉に、怪訝として問う。


 当たり前だろ。俺に頼みなんて珍しいし、どんなこと頼んでくるのか気になった。


 すると、シャウラは意を決したような様子を見せて話す。


「単刀直入に言うわよ。……レグルスを、止めてほしいの」

「え?」


 それは、本当に単刀直入で。唐突すぎて、あまり反応できなかった。


「レグルスは危険よ。何を企んでいるか分からないわ。だから、止めてほしいの」

「ちょ、待てよ! お前、レグルスを知ってんのか!?」

「ええ。まぁ、ね」


 どこか悲し気だったのも気になったが、それよりも何故鳥山先生じゃなくレグルスなのか。


 鳥山先生が企てて、レグルスは協力をしてるだけじゃないのか?


 それとも━━もしかして逆?


 ダメだ、全然分からない。


「もっと分かるように言ってくれ。企んでいるのって鳥山先生だろ? 昔家族や友達を精霊獣に殺されたから、二度とそんな目に遭う人が出ないよう精霊獣たちを滅ぼすってことだよな?」

「あたしにも分からないわ。本当にそうかもしれないし、違うかもしれない。でも注意はしておいてちょうだい」

「どういうことだよ? それに、何で俺に言うんだ? 中篠とシャウラのほうが強いじゃねぇか」


 さっきから脳内の疑問符が多すぎる。だって、意味が分からないんだよ。


 俺たちより中篠たちのほうが、実力など全てにおいて圧倒的に上だ。なのに、どうして俺に頼むんだろう。


「……そうね。あたしはあんたなら何とかしてくれると思ったんだけど、どうかしてたみたいだわ」


 と、若干俯き気味でシャウラが答え、一拍あけて更に続ける。


「ねぇ、覚えてるかしら? この前あんたを恵のもとに案内したのは、あたしよ。本当にたまたま見つけてね。何考えてたんでしょうね。つい最近契約したばかりであまり実力も経験もない人が、どうにかしてくれるわけないでしょうに」


 やっぱり、あれはシャウラだったんだな。


 つまり、シャウラはもとからレグルスを知っていて、何か企んでいる気がしたから止めてもらうため、俺を中篠の所に案内して強くさせようとした、と。


 これで気になっていたことの一つが、ようやく解消された。だって普通、校舎の中に蝶なんているわけないもんな。しかも都合よく中篠のもとに行くとか有り得ないよ。


 修行を開始してから早二週間。俺は、わずかに体力がついただけで技は使えるようになれず、ちっとも強くなれなかった。


 シャウラの言う通り、俺は弱い。


 どうにかできるほどの力を、持ち合わせていない。


 ちんたらしている暇はないのに。早く強くならないといけないのに。じゃないと、ミラたち大切な人を守るどころか、自分自身の命でさえ守れなくなってしまう。


「ごめん、何でもないわ。今言ったことは忘れてちょうだい」


 そう告げて再び階段を上ろうとするシャウラの足が、ふと止まった。


 上で、俺たちを見下ろすようにして、ミラが立っていたから。


「……あんた、聞いてたの?」

「あ、はい。……すいません」

「別にいいわ」


 テンションの低い言葉を交わし、シャウラは中篠の自室へ戻っていく。


 逆にミラは階段を降りて俺のもとへ歩いてくる。


「……お前はどう思う?」


 念のため訊いてみると、少し考えたのち答えてくれる。


「わたしにも、分かりません。ですが、気をつけておいて損はないと思います」

「あぁ、そうだな」


 気をつけておいて損はない、か。そうかもしれないが、気をつけたところで弱者である俺に何ができるというんだろう。


 むしろ、何もしないほうが誰の邪魔にもならないから得策じゃないのか?


 ……ダメだな、俺。こんな弱気でどうするんだ。しっかりしろ。


 ミラはたまに毒舌になったりはするものの、可愛くて優しくて超いい子なんだ。絶対傷つけさせたりするもんか。


 それだけじゃない。中篠も、シャウラも、みんないいやつだ。何で死なないといけないんだよ。


 確かに鳥山先生の言う通り、悪い精霊獣だっているのだろう。だけど、こいつらは全然違う。


 自分が弱いから何だ。相手が強いから何だ。


 それなら盾になってでも、守ってやるよ。もう決めたからな。


 拾ったものは絶対捨てない。大切な人は絶対見捨てない。


 ━━これが俺の、モットーだ。


 あんな歪んだ平和より、誰も傷つかずに過ごせる真の平和を掴む。


 もちろん鳥山先生のことも、救ってやれたらいいな。

ついにやってきた、期末テスト当日。

蓮はいつもと変わらぬ朝をあやめやミラと過ごす。

生涯忘れることのできない一日になるとは知らずに。


次回、#4 悪意に満ちた人造【4th】

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