#3 両者の修行と二人の恋路【4th】
目が覚めると、俺は真っ暗な部屋のベッドで横になっていた。おそらく昨日と同様、中篠の部屋だろう。
隣にシャウラ……は、いない。
再び同じようなことにならないよう辺りをよく見回し、ズボンの後ろポケットに入っていた携帯で現在の時刻を確認する。
……え。マジかよ。あれから丸一日も経過しているぞ。
おいおい、幾らなんでも寝すぎだろ、俺。
しかも今日学校あったはずじゃ? もう授業は終わってる時間だ。何で起こしてくれなかったんだよ。
と、一人で悪態をつきながら起き上がる。
そういえば、あやめは家で一人にしていたんだけど……大丈夫かな。
下の階へ降りたら、廊下や他の部屋の電気はついておらず、リビングの明かりだけが外に漏れていた。
リビングに入ると、そこにはミラ(人間の姿)が椅子に座り、尻尾を揺らしつつチューインガムを咀嚼している。しかも昨日、俺がミラの口の中に無理矢理つっこんだのと同じやつだ。
……あれ、もしかして気に入ったのかな。分かるよ、意外とガムって結構美味しいもんね。
ミラは俺に気づき、チューインガムを噛み締めながらこちらにトタトタ駆け寄ってくる。
「蓮さん、体は大丈夫なんですか!? 一日中目を覚まさないから、心配したんですよ!?」
今は午後六時を過ぎたところだから、確かにちょうど一日だ。
そんなに長い間眠ってたなんて、自分でも信じられない。それほど中篠の攻撃が強力だったってことか。
また、心配かけちまったんだな。
……俺が、弱いから。
「もう大丈夫だ、痛みも痺れもしない。心配かけてごめんな」
言って、ミラの頭を撫でる。
「にゃぅ……こ、これからも無茶はしないでくださいよ? 蓮さんが死んじゃったら、その……わ、わたしのパートナーがいなくなるんですから!」
「はは、分かってるって」
ああ、そうだ。俺は、ミラのパートナーなんだ。
だから、そのミラを守れるくらい、もっと強くならないと。弱いままじゃいられないよな。
そんなことを考えながら、俺は頭を撫で続ける。髪の毛はさらさらしていて、撫でる度に猫耳がぴくぴく動く。
何だろう。ちょっと楽しいかも。
「にゃぅぅ……い、いつまで撫でてるんですか! 子供扱い、しないで、くだ……ふにゅぅ」
言葉とは裏腹に、ミラは気持ちよさそうに顔を綻ばす。うんうん、尻尾もユラユラ揺れて可愛いね。
俺のインタレストは止まることを知らず、気づけば手はすぐ横にある猫耳を弄っていた。
「はにゃっ!? れ、蓮さん……そこは、らめ、れす……」
な、何だ? 突然ミラは赤面して口から艶かしい声と吐息が漏れる。気持ちいいのだろうか。
今度は両手を使い、猫耳をまんべんなく弄ぶ。
「ふにゅぁっ……蓮、さん……いい加減に、しないと、殺……っ、にゃぁあんっ」
やっべ、超可愛い。
たまには、こういう幼女の艶やかな姿を見るのもいいもんだね。眼福です。
もう襲っちゃっていいかな? いいよね! だって幼女だもん! だってロリコンだもん!
けど、こいつがそんなことを許してくれるはずもなく。
「にゃふっ……そろ、そろ……やめてくださいっ!」
「━━ジェシカッ!?」
当然というべきか思い切り顔面を引っ掻かれ、またもや変な声が出てしまった。ジェシカって誰だよ。
「はぁ……はぁ……蓮さんは変態です! わたしの猫耳と尻尾は敏感なんですから、やめてください! いい加減にしないと、蓮さんが死んじゃいますよ!」
「す、すんませんした……」
頬を紅に染めつつ憤るミラに、俺は顔を押さえながら謝る。
なるほど、敏感なんだな。覚えておこう。まるでエロ漫画じゃねぇか。俺が死んじゃう……って、つまりミラに殺されるのか。それは嫌だ。
とにかく、この辺で話を切り上げよう。
「そんなことより、中篠たちは?」
「んもー! そんなことより、じゃないです! 恵さんもシャウラさんも、まだ学校から帰ってませんよ!」
ぷんすか怒りながらも、素直に答えてくれる。やっぱり人間、素直が一番ですよ。いや、ミラは猫だけど。
中篠は、何も部活をやっていなかったはず。でも、帰ってくるのは結構遅いんだな。どうせまた、図書室で本を読んでいるだけだとは思うが。
「あ、そうそう。シャウラさんから伝言を頼まれてるんでした。『今日は修行しないから、体を休ませていてちょうだい』だそうです」
「そっか、分かった」
わざわざシャウラの物真似をしながら伝えるミラに、俺は頷く。
本当は、休んでる暇なんかないのに。
修行をしても、未だ中篠に攻撃が届いていないじゃないか。それどころか、いつも情けなくやられて、すぐ気を失ってる。
こんなに弱くていいのか。否、このままじゃ駄目だ。
いつ鳥山先生が襲ってきても、ミラやみんなを守れるよう強くならないといけないんだよ。
俺は、ミラのパートナーなんだから。
なんて密かに決意していたら、玄関のほうからガチャッと扉が開く音がし、俺たちがいるリビングに制服を着た中篠が姿を現す。よく見たら昨日とカチューシャの色が違う。
シャウラは蝶の格好で、この空間を自由に舞っている。
「……ただいまん━━」
「やめろよ! 放送禁止用語は言うなよ、おかえり!」
「……ちっ」
「無表情で舌打ちすんなし!」
何でこいつは帰宅早々下ネタを言い出すんだろう。いや、今のは下ネタではなくストレートな淫語を言おうとしてたよな。
まったく、恐ろしいやつめ。
「……? まん?」
ミラは何のことか分かっていないらしく、小さく首を傾げていた。
子供だもんね、分からないでよろしい。
「それであんたたちは帰らないの? 別に泊まってもいいわよ、ね?
「……構わない」
シャウラたちはそう言ってくれるが、わざわざ泊まる必要ないしな。そろそろ帰ったほうがいいか。
「いや、家で妹が待ってるから帰るよ。じゃあな」
「それでは、また明日です」
挨拶を交わし、すぐ連絡をとれるよう携帯の番号やアドレスを交換して、俺たちは中篠の家を出る。
もうすぐ夕飯の時間だ。あやめがお腹を空かせてるだろうから急がないとな。
次回、#3 両者の修行と二人の恋路【5th】
ミラに話す、まだ明らかになっていなかった蓮の過去。
そして、あやめやミラの恋路。
バトルばかりじゃなく、もちろんラブコメもやっちゃいます!




