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双眸の精霊獣《アストラル》  作者: 果実夢想
Ⅰ 猫のグレムリン
18/40

#2 本に囲まれた少女【8th】

「……がはッ!」


 腹の鋭い痛みで、俺は口から赤黒い血を吐きながらその場に倒れ臥す。


 何だ、これ。痛すぎる。よく見たら、腹に小さな穴が空いてんじゃねぇか。


 畜生。力が入らない。


 体の中からこれでもかと鮮血が吹き出し、ヒューヒューと嗄れた息が漏れる。


「れ、蓮さん! 大丈夫ですか!?」


 大切なパートナーの声も、今はかなり遠く聞こえる。


 ふと横を見ると、いつの間にか人間の姿に戻っていたミラが、心配そうに顔を覗き込んできていた。


 はは、大丈夫なわけあるかよ。腹に穴が空いてんだぞ。


 息をすることさえ儘ならないっての。


「恵さん! いくら何でもやりすぎだと思います! これで蓮さんが死んじゃったら、どうするつもりなんですか!」


 ミラは俺の血まみれな体を抱き抱え、中篠に憤然と叫ぶ。


 既にミラの躯幹も、俺の紅血で汚れてしまっている。


 が、当の中篠は無表情で淡々と言う。


「……手加減しながら甘い戦闘をするより、厳しく追い詰めたほうが今後の五十嵐のためになると思った」


 確かに、間違ってはいない。中篠との勝負はあくまで修行だからいいものの、そのうち本気の相手と戦うことになるだろう。


 そんな"いざというとき"に、手加減された状態で慣れてしまっては、俺自身強くなれずに敗北ってことも有り得る。


 しかし、ミラの怒りは(とど)まることを知らない。


「そういう問題じゃありません! いくら追い詰めたほうがいいって言っても、限度というものがあります! なのにこんな、穴が開くまでやるなんて……殺意があったとしか思えません!」


 駄目だ。


 俺は、中篠の言ってることもミラの言ってることも正しいと思うけど、最後の一言だけは許容しちゃ、駄目だ。


「ミラッ!」

「ふぇっ? な、何ですか蓮さん。あまり喋らないほうがいいですよ」


 辺りに血飛沫(ちしぶき)が飛び散るのも構わずに大声で喚くと、ミラは少し驚きつつ俺の心配をしてくれる。


 でも、そういうわけにもいかないんだ。


「こんな……攻撃に、殺意なんか、ねぇよ……。中篠なら、俺くらい、いくらでも、殺せたはずだ。こっちから、修行を頼んでんだぞ? 失礼とは、思わないのか?」


 息が絶え絶えになりながらも、きっちりと告げる。


 強くなって鳥山先生を止め、ミラやあやめ、みんなを守れるようになるためだ。ちょっとくらい、受けて立とうじゃねぇか。


 俺の遺志が疎通したのか、ミラは「わ、分かり、ました……」と小さく控えめに了承した。


 と、何やら中篠がこちらに歩いてくる。


「……大丈夫だ。その程度の穴なら、治せる」


 そう言って左手は分厚い本に、右手は俺の腹にかざし、呟く。


「……第四章第二節、〈澄徹の鎖(キャッツアイ)〉」


 すると、みるみる腹の穴が塞がれていき━━一分も経たないうちに、完全に回復してしまった。


「……これは大抵の穴を塞ぎ、勝手に止血される技だ」


 確かに、血も止まっている。


 おいおい。中篠のやつ、どんだけ技があるんだよ。


「……だが、欠点もある。まず一つ目は、対象者とほぼ零距離にいないといけないこと。そして二つ目は……」


 あ、あれ? 何だか目がウトウトしてきやがったぞ。


「……━━対象者は、必ず眠ってしまうこと」


 中篠のそんな淡然とした言葉を最後に、俺の意識は静かに闇の中へ落ちていった。


◯●◎●◯


 気がつくと、電気のついていない真っ暗な、見知らぬ部屋のベッドの上だった。


 何でこんなところにいるんだ? というか、ここは一体どこだ? あと今は何時なんだろう。


 そういった疑問を解消すべく、明かりにもなりつつ時間も分かる、自分の携帯を手だけで探す。


 不意に、まるで肉のような、むにゅっとした柔らかい肌触りが、突然俺の手のひらに感じられた。


 何だろう、これ。


 ずっと揉んでいても飽きない、不思議な触り心地。


「……ふぁ、んっ」


 ふと、艶かしい吐息が聞こえてきた。


 も、ももももしかして、この柔らかくて気持ちいい感触は━━。


 と、そこまで察したところで、いきなり部屋が明かりに包まれる。誰かが電気をつけたのだろう。


 いつもなら、好都合と思うかもしれない。


 だけど今に限っては、誰も来てほしくなかった。暗闇のままで、何も知らずに立ち去りたかった。


 隣には全裸のシャウラが心地いい寝息をたてて眠っており、俺の手はちょうど、シャウラの豊満な胸へと━━。


「れ、れれれ蓮さん!? こっちはずっと心配していたのに……二人して裸で何やってるんですかっ!」


 怖いというより可愛らしい怒号にはっ、として扉のほうへ目を向けると、そこにはミラが突っ立っていた。


 夕陽以上の紅に染まった顔で、あたふたしている。


 お約束ですね、分かります。


「ち、違う……っ! これは何と言うかその……」


 無理だ。自分でもこの状況がよく理解できてないのに、誤解を解くことなんて不可能に等しい。


 今気づいたが、何故か俺も上半身裸である。どうなってんの。


「見損ないました! 蓮さんはロリコンなだけではなく、む、胸の大きな人が好きなのですか!」

「だから違う! 頼むから落ち着いてくれ!」

「れ、蓮さんは変態! ロリコン! おっぱい星人です!」


 パートナーが俺の話を全く聞いてくれない件について。


 そもそも、ロリコンとおっぱい星人って両方成り立つのだろうか。ロリ巨乳は好きですよ、はい。


 ミラも身長や性格などをそのままに、胸だけが大きくなったらたまらないね。妄想だけで一夜を過ごせちゃうね。


 まぁ、怒られるに決まってるから本人には言えないけど。


 なんて考えていると、さっきまで夢の世界に行っていたシャウラが目を覚ます。


「ふぇっ? ……………………い、五十嵐!? あんた何で……ってあたし裸!? あれ、五十嵐も裸!?  ちょ、これどういうことよ! ま、ままさかあんた、あたしの初めてを━━」


 暫しの思考停止の後、いきなり狼狽するシャウラ。


 あろうことか、俺がシャウラの初めてを奪ったと勘違いしてやがる。


 大丈夫だよ、俺は幼女以外とするつもりないから。


 ……と、言う前に扉が開き、中篠が入ってきた。


 今は眼鏡をかけておらず、本を持っていない。


「……シャウラは酷い脱ぎ癖がある。眠ると必ず裸体を晒し、無意識に付近にいる者を男女問わず脱がしてしまう。五十嵐君は上半身のみで済んで幸い」


 なるほど、中篠の解説でようやく分かった。


 結論。シャウラは痴女、と。


「待って! あたし、そんな痴女みたいなことしてるの!? 違うわよ? あたしは痴女じゃないんだからっ!」


 どうやら違ったらしい。実に紛らわしいよ。


「っていうか、自覚してなかったんだな。いくら何でも気づきそうなものなのに」

「仕方ないじゃない! いつも一人で寝てるし、恵と寝た時も、あたしのほうが起きるの遅いんだから」

「いきなり自分が裸になっててびっくりしないのかよ?」

「それは……布団の中にいると暑いからかと思ってたわ」


 さすがに冬は布団を被っても寒いと思うけど、まぁいいか。


 とにかく、俺とシャウラはお互いのほうを向かないようにして服を着る。ちなみに、ベッドの下に落ちてました。


「ところで、中篠は何で戦闘中だけ眼鏡をかけるんだ? 口調も変わってなかったか?」


 着替えを終え、ずっと気になっていたことを問う。


 すると、中篠とシャウラが連続で答えてくれる。


「……私は、眼鏡をかけると集中力が数十倍にも跳ね上がる」

「口調が変わるのはアレよ。眼鏡をかけたら少し好戦的になってしまうらしいわ。だからきっと、あんたとの戦いでもあんまり手加減できなかったのよ」


 控えめな二重人格といったところだろうか。


 それにしても、この二人はまだ色々と謎がありそうな気がするのはどうしてかな。


 とりあえず、納得しておく。


「あー、なるほど。……っ! アナルほどじゃねぇぞ! なるほど、だぞ!」


 途中で、中篠が下ネタを言いそうな気配がし、慌てて言い直したわけだが。


「……五十嵐君、卑猥」

「お前に言われたくねぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 まったく。こいつの相手は疲れるということが分かった一日だった。


「で、蓮さん。ロリコンなくせに大きいおっぱいが好きなんですか?」

「何でお前だけまだその話してんだよ! 違うって言ってんじゃねぇか!」


 突然ミラが発した言葉に、俺はつっこむ。


「……五十嵐君。女の子につっこむなんて卑猥」

「もう黙れ!」


 まぁ、中篠のことは放っておくとしよう。


「そういえばここはどこなんだ?」

「恵の家の、あたしの部屋よ。感謝しなさいよ、男を背負って連れてくるのは大変だったんだから」

「あ、そうだったのか。悪いな、ありがと」


 にしても、シャウラって見かけによらず力持ちなんだな。もしかしたら負けてるかもしれない。


「で、五十嵐。あんた、ロリコンなの?」

「いきなりだな、おい! 俺はロリコンじゃな━━」

「そうです! 蓮さんはとんでもないロリコンです! わたしがシャワーを浴びている時に入ってきた変態でもあります!」

「うわ。何それ、サイテー」


 シャウラの質問に否定しようと思ったら、一足早くミラに肯定されてしまった。


 まだあのときのこと根に持ってたのかよ。


 ふと、何の気なしにポケットに手を入れると、チューインガムが入っていた。何故か三枚という微妙な数が。


「あれは事故……いや、悪かったよ。だからほら、これで機嫌を直してくれ」


 そう謝りながら、ミラにチューインガム三枚を差し出す。


 だけど案の定、ミラは不満そうに抗議してくる。


「そ、そんなものでわたしの機嫌をとれると思ったら大間違いですよ! わたしを馬鹿に━━」

「ふんっ!」


 と、最後まで言わせず口の中へチューインガム三枚を同時に突っ込む。


「ふぁ、ふぁにふるんでふか……。まっふぁく、れんふぁんはいふもいふも……」


 口では色々と文句を言いながらも、美味しそうにもぐもぐとチューインガムを咀嚼している。


 そんな様子がまた、たまらなく可愛かった。

次回、#3突入!

まだ何も技がない蓮は、恵とシャウラと共に技を覚える修行をする!

そして、あのあやめがついに恋をする━━!?


次回、#3 廻る焔!

今月中に更新予定です!


そして朗報!

新作「DarK BrighT」現在制作中!

まだ未定ですが、今年中に投稿できるかと思います

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