極夜
居間に設えられた祭壇。棺が捧げられる。その中に、静かに眠る姉。
瞼を閉じた晶子の顔は、まるで蝋人形のように白く、花に囲まれた彼女は綺麗だった。目覚めないと知らされても、夢を見ているような浮遊感を感じるだけだった。ただ、その体に血は通っておらず、冷たい手を握って、ようやく死を認識した。
顔を見せに帰る姉を、偶然襲った不幸だった。
姉を殺したのは、変わっていると噂されていた男だった。どういう経緯かも分からない。ただ四か所の刺し傷、その一つが内臓に達していた。
大量の出血による死。だから彼女の体は、よりいっそう、透きとおるほどに白く保たれた。
もう笑うことも、泣くこともない。こぼれ落ちた涙が、その頬を伝っても、またあの優しげな微笑みを浮かべて、名前を呼んでくれることはない。
瑞希やみんなは、優しく慰めてくれた。しかしどの言葉も、心に届かなかった。
その後、姉を殺した男は、精神鑑定の結果、無罪となった。そのことに怒りは行き場を失い、失望と虚脱感に襲われた。何を信じればいいのかも分からない。ただどこまでも、この世界は残酷だった。
奪われた事実は歴然とあるのに、その悪は裁かれない。霧也は目の前に、暗澹たる闇が立ちこめてくるのを感じた。
所在なき悪意。その悪意が曖昧なら、どんな罪も許されるのか。
斑な黒が、視界を虫食んでいく。それはいつしか、霧也の目を奪った。
永遠の喪失。終わりのない夜が訪れた。