根拠のない雑な理由で婚約破棄してきた彼は、後に自滅したようですね。~今はすべての物事に感謝しながら生きることができています~
「お前との婚約だが、破棄とさせてもらうこととした」
婚約者デラッツがある日突然何の前触れもなくそんな宣言をしてきた。
私たちの関係とは、非常に薄っぺらいものだ。
形だけの婚約。
それゆえ絆なんてものは生まれないままここまで来た、が、逆に、ややこしい事件や揉め事は起こったことはなかった。
にもかかわらず、いきなり婚約破棄を告げられるだなんて……理解できない。
「突然婚約破棄だなんて。何かあったのですか? 心当たりがないのですが」
「まぁそうだろうな。というのも、何かしらの事件があったわけではないのだ。婚約破棄の理由は問題が起こったからではない」
「では私のせいではないということですよね。なのに婚約破棄だなんて……」
すると彼は人差し指を立てた片手を堂々と掲げる。
「だが! 原因を作ったのはお前なのだ!」
事件があったわけではない。
問題が起こったわけでもない。
それなのに、私が原因を作った……?
この時ばかりはさすがにぽかんとした顔をしてしまっていたと思う。
「相変わらず馬鹿そうな面をしているな」
「失礼ですね」
「まぁいい。それは置いておくとして。お前に俺を惹きつけ続ける魅力がなかった!! それがお前の罪、だッ!!」
えええ……、と思うことしかできず、黙っていると。
「この期に及んでまだそのような馬鹿そうな顔を! しかも無言ときた! まったく、お前はどこまで無能なんだ。しかも魅力ゼロ。お前の魅力のなさは! 突き抜けている! 明らかに、レベルが違うッ!!」
そんなことまで言われてしまい。
「ま、そういうことだから」
関係を終わりへと引っ張っていかれてしまった。
「ではな、さらばだ」
裏切るようなことはしなかった。怒らせるようなことだってせず。変に刺激してしまわないよう当たり障りのない接し方をしてきたし、かといって不愛想に接してきたというわけでもない。私たち二人の関係は、周囲からの評判も悪いものではなかった。
それなのにこんな風に終わりを迎えてしまった……。
非常に残念だ。
だが、私としても、絶対に彼と結ばれたかったわけではない。
彼を愛していたわけではないし、彼にまつわる何かを欲していたわけでもないから。
彼が終わりを選ぶなら、それはそれで仕方のないことだ。
◆
突然の婚約破棄から八ヶ月、デラッツはこの世を去った。
あの婚約破棄の直後、デラッツは酒場で見かけて知り合った一人の女性に惚れ込み、彼女を追い掛け回すようになったそうだ。
一応多少は構ってもらえたようだが。
求められるのはプレゼント。
しかも高額なものばかり。
で、それだけ奉仕し続けても、結局真の意味で愛してもらうことはできなかった。
一方的な愛を押し付け続けたデラッツは、たくさん高級品を買わされるという利用のされ方をしただけで、それが無理になれば呆気なく捨てられた。
その一件で心を病んだデラッツ。
自室のベッドで長時間眠るような生活になってしまったそう。
だが、その日だけは、自分で起床して。
夕暮れ時に急に起き上がった彼は、何やら荷物をまとめると、親にも何も言わないままで自宅を出ていったそうだ。
――そして、あの女性を襲った。
自分の恋心を利用した女性に復讐するべく、刃物を持って襲いかかったのだ。
復讐心から彼女を亡き者としようとしたデラッツだったが、作戦は失敗に終わる。
付近にいた男が間に入ってきたのだ。
その男はただの通行人だったがかなり怪力な人物であった。
そのため、正気を失っているデラッツが全力で暴れてもそれでも勝てず、逆に制圧されてしまう。
デラッツは女性を襲い殺めようとした罪で捕まり、処刑された。
◆
「庭に咲いてる花、見た?」
「え、何の話?」
「この時期咲く花だよ。赤いやつ。毎年咲いているよね」
「ああ、あれね」
あれから数年。
私は今、穏やかで思いやりのある青年ラウィーズと結婚し、新しく建てた二人のための家で幸せに暮らしている。
「好きなの?」
「うん、実は」
「じゃあラッキーね。自分の家の庭に好きな花が咲いてくれるだなんて」
休日はよくこうして二人でまったり過ごしている。
彼の仕事がない日は絶好の交流機会。
これは個人的な思いだが、こんな風に何をするでもない時間を共有できることがとても嬉しい。
「素敵な捉え方だね!」
「ありがとう」
ここへたどり着くまで、本当に、いろんなことがあった。
でもそれらを乗り越えてラウィーズに出会うことができて良かったと心の底から思う。
すべての物事が私をここへ連れてきてくれた。
嬉しいことも、悲しいことも、辛いことや戸惑ったことも……そのすべてがあって、今日がある。
「そういうところ、好きだよ。前向きっていうかさ。一緒にいるだけでいろんな気づきを与えてくれるよね」
「それは、お互いに、だわ」
「本当? 僕は平凡な人間だから、君に何の気づきも与えられていないと思うんだけど……」
「まさか。穏やかな暮らしの良さを教えてくれているじゃない」
だから私はこれからもすべての物事に感謝しながら歩みたい。
……厄介な人に絡まれるのはもう嫌だけれど。
せっかくこうして幸せに出会えたのだ。
それを手放すようなことはしたくない。
手に入れることができたものを大切にしながら、未来へと歩んでいきたい。
◆終わり◆




