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猫蜉蝣5

作者: 夏目真七

連載中「たった一つの世界」のサイドストーリー。

「ヒマワリが見たいな」


不意に言うのだ、頂点は。

唐突に望むのだ。

普段は平穏と安らげる場所以外は何も欲しがらないくせに。

思いもかけないタイミングで

どこも見ていないような視線で

独り言のように実に寂しげに

ぽつんと小さな小石を池に投げ入れるように呆気なく言う。





ヒマワリぐらい、どっかの家に咲いていると誰かがざわめきの中で口々に笑った。

しかし蜉蝣の表情は遠めにだが元気が無いように見える。

いつもの彼は常に飄々として、余裕があり、かといって大げさにならず、実に自然体のまま堂々としているので。

だから今のように頭を僅かに垂れ、しょげかえっているようにも見える彼は本当に珍しい。

しかしすぐに顔を上げ、彼はいつものように笑うと


「そういえばそうか」


と彼らしくなく素直な態度でもって集会に集結していた猫たちをざわつかせた。

いや、どんな反応をして貰っても、今の頂点は頂点らしくない

のだから。

どちらにしろ我々は戸惑っただろう。






夏ももうすぐ終わる。








ロージーは走った。

普段はまるで王様のように歩く猫であったので、何かから逃げる以外でこんな風に走ったのはいつぐらいだろうか。

しかしロージー自身、そんなことはどうでもよかったのだ。


あまりに狭いところは避けて通らなければならない。

ロージーは久しく使っていなかった小さな脳みそを、ほんの少しだけ動かす努力を見せた。

そしてほんの少し回転の速くなった頭はロージーを更に早く動かす。

狭いところを避け、人間がいるところを避け、最後には人のいない広い道を王様のようにゆっくりと歩いた。










「おや?ロージーがまた何か咥えているよ」

「本当だ」


「「ヒマワリじゃないか」」



加賀屋の双子は顔を見合わせた。

庭のヒマワリの花を器用に咥えて、ロージーは姿を消していた。



「庭が日に日に寂しくなっていくねぇ」


「一本ぐらいは残しておいて欲しいよねぇ」


















蜉蝣は知っていた。

花がいつか枯れてしまうことを。

ロージーは知らなかった。

花を採ったら枯れてしまうことを。

枯れてしまうからこそ、美しいということを。




「もういーよー」



まるで終わらない隠れん坊でもしているように。

暑さに負けてへにゃりとなりながら、蜉蝣は気だるげに言った。

しかしロージーは持ってきたヒマワリが枯れてしまう度、

悔しそうな、悲しそうな、忌々しそうな顔をしてトボトボと去っていき、

今度こそ枯れなさそうなのを選んできたわと言わんばかりに、

どことなく明るい足取りでヒマワリの大輪を口に咥えて運んでくる。

その様子は夏が終わるまで続けられた。

幕間的な・・・。

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