第二章
「……悠が死んだ」
早紗は巨木の枝の間に造られた小屋の中にいて、漏らした。
ベッドに腰かけて分厚い本に目を落としていた少年は、ふむ、と軽くうなづいた。
十九歳。
白い大き目のシャツにショートパンツ。腰から降りつのついた細い布を垂らし、口の脇と左目の下にバナナバーベルの、両耳はずらりとトゲのピアスを空け、小柄で細いしなやかそうな体つきだ。柔らかい髪をして、やや垂れた目をしている。微笑みが独特の雰囲気を作って似合いそうな相貌だ。
「……殺された?」
伊馬稀成の問いに、早紗はうなづく。
相変らず、表情の硬い少女だった。
「この歐木町には、よそ者を入れるべきじゃないね」
稀成の声は綺麗なソプラノだった。
「キキド様たちからは排除しろと言われている。メクルメも機嫌が悪い」
「地下衛星の十三号がもうすぐ通る時期だ。タイミング的に最悪だからね。ところで、今日は何か食べた、早紗?」
「何も」
当然下のような返答が返ってくる。
「冷蔵庫にピザとコーラがあるよ」
少女は無言で部屋の隅の小型冷蔵庫の中を覗き、無言で薄い段ボールを取ってそのまま電子レンジに入れた。
ペッドボトルのコーラは直接口をつけて喉を鳴らして飲み込む。
無表情で稀成に振り向き、しばらく見つめた後、また顔を元に戻した。
げっぷを我慢してたらしい。
「十三号が通ると、メクルメの時間だ」
彼女が言う。
「それだ。歐木町がメクルメの代になって約十二年ぶり。正直、あの古龍がどう町に影響するかわからない。ちょっと、訪問者には消えてもらわないと手が回らないね」
「だからここに来た」
再び本に目を堕とそうとするときに、早紗はピザの箱を胡坐をかいた足の間に置いた。
「……どういうこと?」
稀成の目が鋭く光る。
早紗は構っていなかった。
「あんたはこの町で五人を病院に送るぐらい暴行して三人殺した。うってつけだよ」
「……直球だね」
苦笑して見せて来た。
手を伸ばして、ピザの一片を取り、軽く口に入れる。
「やり方がやり方だから、僕はそういうのには向かないよ。僕は殺したいから殺すだけ。久鴨衆でも頼んだら?」
「あたしもサポートする。それに早くしないと、十三号から来た奴が好き勝手やりだす。大体、比微は頼りにならない」
「あの人確か元キャリアだよね」
「警察入って警部補、退職するとき頸部補」
「僕は自由にのびのびと日常を過ごしたいんだよ。この秘密基地見てわかるでしょ?」
「非常に少年っぽいものだ」
「今日は本を読んで明日は釣りをするんだ。そして寝る前に絵を描く。この僕がどうして君の言うようなことをしなきゃいけない?」
早紗の暴行と殺人の話と訪問者排除の話を一緒に否定しようとするかのように聞こえた。
「……また来る」
早紗は立ち上がり、まるでもう興味を失ったかのような動きで小屋を出た。
稀成はやれやれと息を吐くと、本のページをめくってまた読み始めた。
郁玖詫総合警備会社は、警察署の間の中間にある歐木町の事実上の治安をになっていた。
社長の比微よりも、一課主任の笹路來眞と一課係長の次羽良葉理の二人の名前の方が有名だ。
色々な意味で。
「……誰かが噂してるのかねぇ……」
眠そうに、だらりと手を垂れて、タバコを咥えつつ社長室で比微は椅子にもたれた。
机の上は書類が散乱し、一部だけ綺麗な場所に灰皿と空けたビールの缶が一つ置いてあった。
書類は請求書が大半で、軽く見積もっても今年も赤字である。
ジャケットは椅子の背に掛け、ワイシャツも胸の下までボタンを開き、中の黒いシャツを見せて暑そうに腕もまくっている。
髪は後ろになでつけ、顎に無精ひげをたたえた三十四歳だった。
窓の外から、蒼い髪をハーフツインにした人形のような少女が顔を出していた。
「相変らずだらしない」
「……なによ、覗き見かい?」
ジト目の彼女にゆっくり振り向き、比微はつまらなさそうに軽く挨拶代わりに言う。
早紗が覗いた窓は、建て増した多重階層の建物の六階に位置する。
顔の平静さとは逆に、上から幾つも壁に這っている配管に足を引っかけ片手で握っていた。
もう一方の手は、窓の縁だ。
「町の侵入者、どうする?」
早紗が聞く。
「知らないよ……」
やや投げやりに応えられる。
それもそうだろう。
比微の部下で町の警備の第一線を町内会で担当している來眞は、久鴨衆という、一団の幹部でもあった。
久鴨衆は最近町で地下衛星の開発を主にしていた集団が興したもので、早紗のキキドなどを真向から否定している者達である。
比微はその間にあって何をしているかといえば、具体的には何もしている様子はなかった。
「どうにかして」
短く要求する早紗。
「どうにかなんでしょう?」
適当にまるで他人事のように言う。
「流石のスルースキル。会社経営から町の治安までスルーする警備会社の社長だけはある。けど、どうにかして」
言うだけ言って、炎天下になった町を早紗は移動した。
宿は三つしかなかった。
麻諷と紅琵は西側にある建て増し住居の三階にある安いホテルに入る。
中は寝室と広間に別れ、カラオケと大きなディスプレイにテーブルが一つ置かれていた。
「風呂ないじゃん!? 待って信じられる!? 宿なのに風呂無いんだよ!?」
麻諷は不満げに声を上げた。
「温泉なら湧いてるらしい」
テーブルの上の小紙を手にして見て、紅琵は言って大きなカバンを下ろした。
「めんどくさいなぁ。まぁ温泉ならいいか」
「ところでここに来るまでに、追けてきた連中がいる」
「あー、感じてたわー」
「例えば、これ」
机にあった封筒の中身を取り出した紙を、紅琵は麻諷に見せる。
『ここはよそ者が来るところではない。明日のうちに出て行ってもらう。さもないと命の保証はできない』
「誰からだと思う?」
「まったくわからないね」
平然と答える麻諷。
「俺たちがここに来たのは、町の都市伝説に関係ある。余程、町のことを知られたくない連中がいるんだろう」
呼び鈴がなった。
麻諷が覗き口に目をやると、スーツを着た長身で眉の太い若い男性が立っていた。
「どちらさん?」
「郁玖詫総合警備会社の者で、笹路來眞と申します」
麻諷は一瞬紅琵に目をやってからドアを開いた。
青年は親し気に微笑んでいた。
二十代半ばか。
「ご協力ありがとうございます。早速ですが、南の交差点で事故が起こりまして。十三歳ぐらいの子が轢き逃げにあったのです。目撃者が、あなたがたそっくりの人物を現場でみたとのことでしたのでお話をお聞きしたいなと思い参りました」
張り付いた笑み。
気配は、後方に四人のものを感じた。
「……ああ、それなら白いセダンが走ってきているのを見ました。
ただ、何があったかよくわかりません」
麻諷は真剣そうにしらばっくれた。
「この町の人じゃありませんよね? 目的は何でしょう?」
「観光です」
「物珍しい。ここは何もありませんよ」
「だからいいんじゃないですか」
「どうしてこの町を知ったのです?」
流れるように質問が連続する。
麻諷はそれでも微笑みをたやさない。
「東京には今も隠れ町が多数あります。そういうところが好きなんです」
堂々と思いつく言葉を吐いて見せる。
「この歐木町はうらびれてるだけで、隠れ町とかそういうのじゃありませんよ」
「そのうらびれてるのがいいんじゃありませんか」
まるで堂々巡りだ。
だが、來眞も麻諷もお互い一歩も引く様子はない。
紅琵は背後に控える人数が気に掛かった。
「轢き逃げの話はどうなりました。被害者の子供は無事なんですか?」
麻諷が話を戻す。
「……緊急搬送されましたが、残念なことに……」
流石に表情が硬くなる來眞。
「……それは残念ですね」
麻諷も合わせる。
「……この町は独自なコミュニティ・ネットワークを使ってるサテライト・コミューンだが、法的に問題ないのか?」
それまで黙っていた紅琵が声を出した。
「コミュニティ・ネットワークですか?」
「公式の衛星よりも、未登録の物が圧倒的に多い。あなたが警備会社の人ならよく知っているはずだ」
「ウチはアレをデブリと認識してますよ。稼働率があまりに低い」
「最近は違うようだが」
「また収まります。一種の発火現象みたいなものでしょう」
麻諷は、口が達者な男だという印象を受けた。
そして、服の上からもわかるが、何かしらの格闘技をやっている肉付きをしている。
「どことで、神隠しで有名な町なんだが。港区の子がここに来てから消息を絶っている。そちらで何か把握していないか?」
「観光じゃなかったのですか?」
「観光にも色々目的がある」
紅琵も紅琵で迷うことなく言葉を吐いている。
「何歳ぐらいですか? 轢き逃げ事件と関係は?」
「轢き逃げにあったのは、十三歳の子供だろう?」
「……実は、十三歳ぐらいということしかわかっていないのです」
白状するように、來眞は言った。
「事件はそれだけか?」
「……あの十字路では過去何度も事故が起こってますね」
「どのような?」
「同じ轢き逃げです……」
「ほぅ……ならすでにパターンは読めてるんじゃないのか? たまたま町に立ち寄った人間に助けを求めるまでもないだろう?」
「できるだけの証言は集めたいので……」
「この町は地下通路がかなりあると聞いているが、あの交差点後かはどうなっている?」
「そこまでは……」
無意識に顔を隠すようにして掻いた來眞に、紅琵はニヤケた。
「……面白いことを教えてやる。この嬢ちゃんは観光かもしれないが。俺はここにある都市伝説を聞いて来た。龍がいるんだと。龍神様だな。目的は、その龍殺しだ」
來眞が一瞬何も言えないでいると、もう話は終わりだと言うように、紅琵は扉を閉めた。
「……いいの、あんなこと言っちゃって?」
「いいだろう。どうせ関係者は皆殺しにする予定だ。一人二人殺った頃にはモロバレしてる」
紅薇はテーブルにカバンの中から機械のようなものを幾つか取り出して載せていた。
「ところで、この町の印象は?」
麻諷は少し考えてから口を開いた。
「……んー、怒りと憎しみが地の底からって感じ?」
「なるほど……」
「狩りだが、今夜から決行する……」
帽子を脱いで、やや長めの髪をかきあげると、広い額を見せて、解電子タバコから煙を吐く。
「お風呂ぐらい入りたい」
「奴らは、ここに風呂がないことと、温泉の場所を知っている。そのルートは、二、三か所しかない。待ち伏せに格好の場所だろうが、その裏を取る」
「轢き逃げの話はどうするの?」
真正面に座り、麻諷はぼんやりと機器を眺める。
天測儀のようなものと、通信携帯機、そして方位盤。
どれも小型だが、精密な機械だ。
「空の衛星からの影響と、地下の衛星からの影響が重なって、地動説と天動説が融合したところ、がこの町の特徴なんだが。主観というものをこれに当てはめると、轢き逃げ事件は天動説だ。何者かが認識を起こしてそれにこの町の連中が巻き込まれている。何度も同じ場所で起きている轢き逃げなんてものが現実にあるならとっくに大事件でしかも繰り返しているのだから犯人はすぐに捕まっている」
「……解説ですね?」
皮肉気に言う麻諷に、片方の眉を軽く上げた紅琵が目をやる。
「面白いと思わないか? これは謎のままにしていた方がいい。逆に利用しようがある。あと分かったのは、あそこにはポンプがある。便利だな。すでにアレイは打たれている。私が『気が付いた』という時点でね」
「……最悪ですね?」
「何とでもどうぞ?」
お互いがニヤリとした。
ずぶ濡れで現れた二人組の化け物という噂は、歐木町中に知れ渡った。
スニーカーの片方をなくし、悠は素足のまま町の道を力なく歩いていた。
早紗の話は本当だった。
目の前で人がショットガンで撃ち殺された。
身体は汚れているし一息つくのため、どこか狭いところに籠りたかった。
何よりも衝撃が忘れられない。
指先は軽く震えている。
カムロたちが鬱陶しい。
『こっちで遊ぼう』
まったくそんな気分になれない。
早紗は、キキド様が不穏なモノが現れると言っていたのだ。
あの二人組に違いなかった。
やっと家に帰った。
狭く暗い階段を昇ってゆき、扉を開ける時、何か紙のようなものが足元に落ちたが気にしなかった。
雰囲気が違った。
玄関は塵だらけで泥に汚れ、カビと生臭い匂いがする。
悠は靴を脱いで廊下から居間に入った。
テーブルの上と棚の物は床に散乱している。
「おかぁさん?」
声はただただ響くよりも先に落ちてゆく。
台所を覗くと、蛇口から水滴がゆっくりと落ちていた。
冷蔵庫は開かれて、ぐちゃぐちゃになった中の物が床に山になっている。
「……小僧、そこで何をしている?」
背後から低い声がして、悠は固まった。
足音が近づいてくる。
台所の端に立てかけてあった薄汚れた鏡には、肩口の向こうから、不思議な文字のような絵が描かれた額から顎までの布を垂らし、白い上下の服をきて、首から数珠のような大きな珠の連なりの物を掛けた人物が立っていた。
すぐに相手が何者か分かった。
最近噂になっている久鴨衆だ。
「ここの住人はすでに皆死んだぞ。どこから迷い込んだ?」
死んだ?
何を言っている?
昼に家を出る時には、母親がいたし父親は朝に仕事に行っている。
錫杖が鳴った。
途端、カムロたちの気配が消えたのがわかる。
久鴨衆の男がいつの間にか、鋼鉄製の棒で床を叩いたのだ。
「この町には連続殺人鬼がいる。鬼は隠として潜んでいる。おまえは、隠か?」
隠ってなんだ?
連続殺人鬼?
悠は思わず後ずさっていた。
男がゆっくりと悠に近づいてくる。
台所の窓がいきなり開けられて、脚から中に早紗が飛び込んできた。
そのまま跳び、男の錫杖を左手で握った。
そこを支点にして、男の顎を蹴り上げる。
よろめいて錫杖を離した男は、床に背中から倒れた。
早紗はその頭部に錫杖を叩きつける。
「久しぶり、悠」
男が動かなくなったところで、早紗は無表情なまま少年にVサインをして見せた。
「な、ちょっ!?」
悠は二人を見比べながら、何があったのか整理しようとする。
「じゃあちょっと、逃げようか」
早紗は台所から悠の手を引いて玄関に向かった。
別の靴を履き、悠は連れられるがままに外に出た。
扉が重い。
宿から出ようとした麻諷と紅琵は、やっと外にでた。
「……おやおや」
紅琵は感心したように息を吐く。
麻諷は不機嫌そうだった。
ドアの外側に、一人の男が逆さ吊りで晒されていたのだ。
その姿は、先程喋っていた笹路來眞本人の物だった。
「これ、晒されたのかな? 目撃者がどれぐらいいるんだろう?」
麻諷はイライラした調子のままだ。
「同行者がいたはずだ。なのにこいつだけを、ここに晒す理由はなんだろうねぇ」
煙をふかし、サングラスに軽く指をやって紅琵は独り言のように言う。
「降ろす?」
麻諷の言葉に、紅琵は頷いた。
彼女は腰の呪布を一枚はぎ取り、ライターで燃やした。
だんだんと彼女の意識が混濁してくる。
足元もおぼつかなくなったころ、麻諷としての意識が消えて別の物になった。
笹路來眞は宿から離れたあと、一人で帰ろうと小路に入っていた。 そこを青年のような人物にナイフで脅されて、再び宿の前まで戻った。言われるがままに自分を縛り、青年は來眞の首を掻き切り、ロープを天井のパイプに引っかけて吊るした。
その情景が、紅琵の意識野に入ってくる。
一緒にいた連中は事の次第を知らない。
殺害者は異様に手慣れている。
晒されてから二時間ほどたち、その間に人目に付いた可能性が高い。
膝をついた麻諷が、ゆっくりと頭を上げた。
「警備会社の人の殺害疑惑がこっちに来ちゃったね」
「最悪なカードだよ。これがババ抜きの途中ならまだましだが。目立ちたくない私たちの話が、町中に喧伝されたかもしれない」
「宿、変えようか」
「それが一番いい」
「狩りの話が肩透かしになったなぁ」
残念そうに麻諷は言う。
「期待してたところが、相変らず趣味悪いな」
「あんたに言われたら本物だって保障されたようなものだから、むしろ誇らしい」
「勝手にほざいてろ」
無意識で最後吐き捨てた紅琵だった。
外から現れた化け物が、新たな犠牲者を出したらしい。
一部の噂では、地下衛星十三号の影響だという。
早紗は悠をつれて町の中心近くまで来ていた。
悠はたまに早紗とボール遊びをするような仲だった。
もう一人いた。ハッキリとは覚えていないが、少女のはずだ。
早紗は携帯通信機も持っていないので、ゲームができないのだ。
連絡も取れないので、いつも早紗は突然現れて遊び疲れた頃に姿を消す、不思議な存在だった。
二人が来たところには、樹齢何年かもわからないしめ縄で飾られた巨大な樹が立っていた。
見上げる悠は、枝が幾千本も伸びて空に向かうものも横に広がったりしだれたりするように下がるものもある。所々に葉をつけて、樹々の中心にあるそれが、まるで一個の空のように感じた。
気妙な感覚だ。
傍にいるだけで、意識が拡大したかのような浮遊感がある。
垂れた枝の一つに、早紗は手をやった。
途中から三本に伸びたそれは別の一本の絵だが絡まり、それぞれ断ち切られたかのように途切れていた。
早紗は絡まっている枝を折り、三本のうち二本も同様に握った手首のスナップで取り払った。
残った枝先まで電流のように光りが走った。
悠は急に身体の浮遊感が消え、雑草の茂る中で足をつけて立つ感覚を覚える。
「……侵入者の枝がどれかまだ解らない」
一人、何が何なのかよくわかっていない悠は不満そうだった。
「なんでこんなところに連れて来たの?」
忌憚のない様子で、少年は同じぐらいの背丈の早紗に尋ねた。
不思議そうな顔をそのままに出しているが、口調は多少の機嫌の悪さが含まれている。
「……この樹の枝は、いわば町の人々の生命を形作っている。君は事故にあったのだけど、その部分の関係の枝を取り払ったの」
淡々と表情も変えない少女は説明を続ける。
「メクロメといわれている。町の中心そのものといってもいい」
「事故……?」
悠は思いだした。
確かに、道を歩く彼に車が激突してきた。
記憶はそこからない。
今は身体に傷はなく、痛みもない。
「そう。『その時の関係』を取り払った」
当たりの枝がざわつた。
「アレイが役に立った。生きていたな!」
低い、不気味な声が轟いた。
樹々の向こうから、帽子を被り、サングラスを掛けた巨躯の男が両手にカバンとショットガンをもちつつ現れる。
「死んでいてもらわないと、困るんだよ! 辻褄が合わねぇじゃねぇか!?」
悠は驚き、身体を固くする。
「アレイ?」
平然としている早紗は新しく枝を一本、折った。そして「逃げるよ。ここではまずい」と悠の手を取って走りだした。




