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12. マリン

 ユウと正太を倒したマサオとヤス、その若返った姿は残りの5人には羨ましく思えるものだった。

 「わ、若返った…力に目覚めると元の姿に戻るのか。」

 小泉は、つい心の声をもらしてしまった。

 「俺達もびっくりだ。まだまだ力がみなぎってくる。」

 ヤスから発せられるオーラは、当時以上の力を確実に持っていた。これが不思議な力によるものなのかと全員が圧巻させられていた。

 「そういえば…マリンだ。あいつは一体…」

 ヤスとマサオの力の解放も驚きだが、その他にもかつての顔見知りであるマリンがこの時代にいることも驚きの一つだった。

 「今はあの頃から300年経過している…俺たちはコールドフリーズでなんとかこの時代まで生き延びることができたが…マリンは一体どうやって...」

 小泉は様々な可能性を考えたが、結局は全て推測にしかならず考えるのをやめた。

「とりあえずマリンをもう一度探そう。」

 和寿の提案を全員が賛同した。

 7人は再び小泉の僅かに目覚めた力を頼りに怨念の根源とマリンを探すため足を運んだ。

 5時間ほど歩いただろうか、小泉の足元はおぼつかない様子だった。もともと体力がないうえに、体は老化しており、その上まだ完全に目覚めていない力を無理に使っていたせいで、小泉の体はすでに限界ギリギリを迎えていた。

 「部長、しばらく休んだほうが…」

 潤は小泉を心配するが、小泉はまだ力を振り絞ろうとした。

 「いや、俺はマリン並みに頭が悪いし体力もおそらくこの中で一番無い…そんな俺がここで倒れたらただの荷物じゃないか、こんなとこでっ…」

 その時、小泉の体に衝撃が走った。

 ヤスが小泉の腹部を殴ったのだ。小泉は声を上げる間もなく気を失う。

 「こうでもしないとこいつは休もうとしないだろ…部長やってた時から、こいつは一人で全部背負い込んで…バカ野郎、少し寝てろ。」

 ヤスはそう言って小泉の体を抱え歩き始めた。

 「まったく不器用な奴だ。」

 マサオはそんなヤスの姿を見て当時を思い出していた。現実とのギャップにも不安はあった。

 「マサオ!見てあれ!」

 アミの言葉に全員がアミの指差す方角を見た。そこには、潤にだけ見覚えのあるものが落ちていた。灰色のカーペットのようなものだった。

 「これは...」

 潤の脳裏に大学時代の思い出が蘇った。

 潤は、小泉の家に遊びにきていた。当時、小泉は趣味で漫画を描いていた。その横で潤は、小泉が用意していた予備のインクの容器を手に持って軽く真上に投げてキャッチしてと遊んでいた。

 「おいおい、溢すなよ?」

 「いやいや、そんな漫画みたいなこと起きるわけないだろ。」

 小泉の注意を聞き流す潤。しかし、潤がインクを掴みそこね、容器からインクが溢れカーペットに流れてしまった。

 「あぁぁ!だから言ったでしょうに!」

 小泉の絶叫を聞き、潤は目の前の出来事を信じられないと同時に笑っていた。小泉もなんだかんだでそんなやりとりを楽しんでいた。

 潤は、そんな思い出を思い出していたが同時に疑問を抱いていた。

 「あの時、俺がふざけて墨汁をぶちまけた部長のカーペットじゃないか…相当昔の物がどうしてこんなところにこんな状態で残ってるんだ…」

 黒いシミのついたカーペットを見ていたが、違和感があった。

 「このシミ…こんな形はしていなかったはず…」

 潤は必死に思い出すが、和寿が急に声を上げた。

 「おい、これって…どんどんシミが大きくなってないか?」

 和寿の指摘で潤はその違和感の正体を理解した。

よく見ないとわからない速度だが、確かにシミが広がっている。

 「おいおい、カーペットが真っ黒になっちまったぞ」

 マサオは驚いた。そしてシミが全体に広がったその瞬間、シミが飛び出し7人を包み込んだ。

 「なんだ!頭に映像が流れるぞ!」

 真っ黒な空間の中、7人の脳内に勝手に映像が流れ出す。

 当時の7人が遊んでいる様子。しかし視点は誰かの主観だった。

 「これは…マリンの視点だ…マリンの記憶だ!」

 ヤスがそう確信した瞬間、映像だけでなく音も聞こえてきた。

 『どうすれば一緒になれるの…ヤスさん…彼氏と別れてまでヤスさんを追いかけているのに…どうしたら振り向いてくれるの…』

 アミはその声がマリンの心の声だと気づいた。出会った当時、マリンはヤスに恋心を抱いていた。しかし次第にその声は怨念を帯び始めた。

 『料理をしてあげて…洗濯もしてあげて…どうして…どうしてどうしてどうして振り向いてくれないの…どうして好きになってくれないの…ヤスさんが私を好きになってくれない世界なんて…いらない!!!』

 マリンの叫びに7人の頭は割れそうになった。

 「くそ…消えろおおおおおお!」

 ヤスは叫びながら拳を突き出し、黒い空間を破った。気づけば7人は元の場所に戻っていた。

 「はぁ…はぁ…一体何だったんだ…」

 潤を含め全員が汗だくで息を切らしていた。

 「なんでただのシミがあんな空間を…」

 「黒は…人の負の感情を表す色だ。」

 マサオの疑問に、小泉が答えた。

 「部長!目を覚ましたのか!」

 「マリンの声で目が覚めちまった…ヤスさんが寝かせてくれたのにな」

 「小泉、すまない」

 「気にすんな、いいってことよ」

 ヤスの謝罪を小泉は笑って受け取った。そして和寿が質問する。

 「小泉、今の言葉は一体どういうことだ?」

 「あぁ、ただの占いだよ。黒は負の感情の色だ。負が大きくなればなるほど色は濃くなる。あのシミがマリンの負の感情と偶然共鳴して、あんな映像を見せたんだろう」

 小泉の仮説に反論する者はいなかった。

 「俺が…マリンをあんなにさせてしまったのか…」

 ヤスは後悔を口にし、6人は励ました。

 「しかし、ここまで来てわかったのはマリンの深い闇だけだな…もしかして…」

 潤は恐ろしい仮説を立てた。

 「あぁ…この世界を襲った2つの隕石…あれはマリンの怨念が作った…そういうことか?」

 荒唐無稽だが、辻褄は合う。

 ヤスへの愛情が憎悪に変わり、隕石となって地球を襲った。それが、潤の考えだった。

 「なんてことだ…それが本当なら…」

 ヤスもマリンの目的に思い至った。

 「マリンの目的は…自分だけが幸せになる世界を創造することか。」

 彼の言葉に6人は頷いた。

 同時に、マリンが作り出したユウと正太のことも全員思い出した。

 「ユウと正太は俺たちの記憶から作った影。あいつは力が完全に目覚めたと言っていた。」

 マサオは不安を抱いた。

 いくらヤスと自分が目覚めていても2人では厳しいだろうと。そして、マリンは大学時代に交流がしていた人間の1人、過ごした時間が長くこちらの弱点を知り尽くしている。それを感じたヤスは、珍しく弱気になったが、アミは逆だった。

 「でもさ、マリンと一緒にいたのは私たちもだよ。私たちもマリンの弱点を知ってる。戦えるよ、絶対。」

 アミに続き、小泉も言った。

 「そうだ、俺たちはまだ完全には目覚めていない…でも、俺たち7人なら!」

 「そうだ、戦えるさ…行こう、マリンの元に。」

 潤は7人を率いてマリンのもとへ向かった。失われた80億の人類のために。

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