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出来損ない令嬢と蔑まれ婚約破棄されましたが、実は魔力が強すぎただけでした~解放された私を、無愛想な彼が見初めてくれたようです~  作者: 九葉


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第7話

王都は、地獄と化した。

鳴り響く警鐘。人々の悲鳴。建物の崩壊する轟音。

遠くに見える城壁の外では、土煙を上げて押し寄せる、おぞましい魔物の群れが地平線を黒く染めていた。


「どうして、こんなことに……!」


避難勧告が出され、貴族たちは我先にと屋敷から財産を持ち出し、南へ逃げようと大混乱に陥っていた。

わたくしの両親も、例外ではない。


「クラウディア! ぐずぐずするな! 我々も逃げるぞ!」


父が、血走った目でわたくしの部屋に飛び込んできた。

けれど、わたくしは動けなかった。窓の外に広がる惨状から、目を離すことができなかったのだ。

子供が泣き叫んでいる。母親が、その子を庇って魔物に引き裂かれていく。

そんな光景が、すぐそこまで迫っている。


(逃げて、どうなるというの?)


この国が滅びれば、どこへ行っても安住の地などない。

そして何より、この惨状が、もし、あの二人の仕業だとしたら。

わたくしが、何もせずに逃げることなど、許されるはずがなかった。


「お父様、お母様。お二人は先にお逃げください」


「何を言っている! 早くしろ!」


「わたくしは……わたくしには、まだ、やらなければならないことがあります」


わたくしは、静かにそう告げると、父の制止を振り切り、部屋を飛び出した。

向かう先は、屋敷の最上階にある、開かずのバルコニー。

王都全体を見渡せる、一番高い場所だ。


階段を駆け上がりながら、考える。

わたくしに、何ができる?

この腕輪に縛られた、出来損ないのわたくしに。


(……力そのものに、善悪はない)


カイゼル辺境伯の声が、耳元で蘇る。


(問題は、その使い方と、心の制御)


あの枯れた鉢植えに芽吹いた、小さな命を思い出す。

わたくしの力は、本来、生命を育むための力。

『浄化』と『創造』の力。


もし、この腕輪を外すことができたら?

解放された本来の力でなら、この絶望的な状況を、変えられるかもしれない。


バルコニーに続く、重い扉を開け放つ。

吹き付ける風が、頬を叩いた。

眼下には、王都に侵入し、破壊の限りを尽くす魔物の群れ。そして、それに為す術もなく逃げ惑う人々。


その時、王都の広場に、見知った姿を見つけた。

黒い軍服。銀色の髪。

カイゼル辺境伯だった。

彼は、リントヴルム領から駆けつけた手勢と共に、孤軍奮闘していた。その剣捌きは神がかっていたが、多勢に無勢。彼の周囲にも、魔物の包囲網が狭まっていくのが見えた。


「カイゼル様……!」


彼が、死んでしまう。

そう思った瞬間、わたくしの中で、何かが、ぷつりと切れた。


嫌だ。

この人を、失いたくない。

わたくしに光をくれた、たった一人の人を。


恐怖は、なかった。

あったのは、燃えるような、激しい決意だけだった。


わたくしは、左手首の腕輪に、右手をかけた。

幼い頃から、わたくしの一部であったかのように肌に馴染んだ、冷たい銀の枷。

『魂蝕の枷』。

これを壊せば、どうなるか分からない。溜め込まれた澱んだ魔力が暴走し、わたくし自身の体が、塵となって消し飛ぶかもしれない。


(それでも……!)


今、ここで何もしなければ、すべてが終わる。

彼も、この国も、わたくし自身も。


『偽りの姿で生きるのは、息苦しくないか』


息苦しかった。

ずっと、ずっと。

でも、もう終わりにする。


偽りの自分を、ここで殺す。

たとえ、それが本当の死に繋がったとしても。


わたくしは、ありったけの力を込めて、銀の腕輪を、引きちぎった。

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