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異世界地下都市の配達屋 ~極寒の地上を夢見て~  作者: nekorovin2501


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第3話:探索者の試練

ルミエールの回廊を、俺は全力で駆けていた。

魔法の灯りがチカチカと揺れ、壁に映る影が歪む。市場での爆音、シルバーフロストの戦い、ローブの怪しい奴ら――頭の中がぐちゃぐちゃだ。でも、足は止まらない。

「カイト、危ないって言ったでしょ!」

背後からミオの声が追いかけてくる。彼女も倉庫を飛び出して、俺を追いかけてきたらしい。けど、今は止まれない。シルバーフロストが戦ってる。俺の夢が、目の前で動いてるんだ!

「ミオ、後で説明する! とにかく、ガルドさんたちを――」

言いかけた瞬間、回廊の奥から**ドゴォン!**という地響きがした。石の壁がビリビリと震え、魔法の灯りが一瞬消える。

「な、何!?」

俺は思わず立ち止まる。ミオが追いつき、息を切らして俺の腕をつかむ。

「カイト、戻りなさい! あれ、地熱の異常だよ!」

地熱の異常? ルミエールの命綱である地熱が、こんな揺れを起こすなんてあり得ない。俺たちの足元、いつも暖かいはずの石床が、冷え始めている。

「まさか……」

ミオの顔が青ざめる。彼女は食料倉庫の管理人。物資だけでなく、都市の設備にも詳しい。

「地熱炉が攻撃されてる。魔法回路が関係してるかもしれない……!」

そのとき、回廊の奥からガルドの声が響いた。

「エルム! 炉を守れ! リナ、右翼を押さえろ!」

俺とミオは顔を見合わせ、反射的に走り出す。地熱炉――ルミエールの心臓だ。そこが止まれば、都市は凍る。芋もネズミも育たない。みんな、死ぬ。


地熱炉の区画に着いたとき、そこは戦場だった。

巨大な石造りの炉を中心に、魔法の火がゴウゴウと燃えている。普段は静かなこの場所が、今は炎と氷の魔法が飛び交う修羅場だ。

シルバーフロストの三人が、中央に立つ。

• ガルドは氷の魔法剣を振り回し、ローブの男を薙ぎ払う。

• リナは弓で遠距離から援護、矢が光って敵を貫く。

• エルムは杖を地面に突き刺し、地熱を操って溶岩の壁を作り、敵の侵入を防ぐ。

敵は五人。黒ローブの集団だ。一人が手に持つのは――あの魔法回路の欠片。バルドじいが預かったはずのやつだ!

「どうやって!?」

俺は叫ぶ。届けたばかりの遺物が、こんなに早く敵の手に!?

「カイト、下がってなさい!」

リナが鋭く叫ぶ。けど、俺の足は動かない。目の前で、探索者が戦ってる。俺の夢が、目の前で――

「カイト!」

ミオが俺を突き飛ばす。次の瞬間、炎の弾が俺たちのいた場所を直撃。石床が焦げ、熱風が顔を焼く。

「ぐっ……!」

転がりながら見ると、ローブの一人が魔法陣を展開してる。魔法回路の欠片が、彼のローブの胸で青白く光っている。

「遺物が……起動してる!?」

エルムの声に、初めて動揺が混じる。

ガルドが剣を構え直す。

「奴らは、炉を破壊して地熱を止める気だ。ルミエールを凍らせて、支配するつもりか!」

支配? ルミエールを? 俺の頭が真っ白になる。市場の喧騒、ミオのスープ、ネズミ串のおっちゃん――全部、消えるのか?

「許さねえ……!」

俺は立ち上がる。手には、配達用の木の棒。戦闘訓練なんてろくにない。でも、逃げたら終わりだ。

「カイト、馬鹿! 死ぬよ!」

ミオが叫ぶ。けど、俺は走り出す。敵の一人が、炉に向かって魔法陣を展開しようとしてる。隙だ!

「うおおおお!」

俺は木の棒を振り上げ、敵の背後に飛び込む。棒がローブの肩に当たり、男がよろめく。

「誰だ!?」

男が振り返る。フードの下から、冷たい目が覗く。次の瞬間、氷の槍が俺に向かって飛んでくる。

「カイト!!」

ミオの悲鳴。俺は反射的に横に跳ぶ。槍が石床を貫き、粉々に砕ける。冷気が体を凍らせる。

「くそっ……!」

俺は這うように逃げる。けど、敵の注意が俺に集まった。その隙に――

「今だ!」

ガルドが動く。氷の剣が弧を描き、ローブの男の腕を斬り飛ばす。魔法回路の欠片が宙を舞い、床に落ちる。

リナの矢が残りの敵を貫き、エルムの地熱魔法が炉を守る。戦いは、シルバーフロストの勝利で終わった。


戦いが終わった後、地熱炉は無事だった。

けど、床には焦げ跡、壁には亀裂。魔法の灯りが弱々しく揺れている。

ガルドが俺の前に立つ。でかい体が、影を落とす。

「カイト。お前、馬鹿か?」

低い声。でも、怒ってるようには聞こえない。

「は、はい……すみません。でも、炉を守りたくて……!」

俺は頭を下げる。木の棒は折れ、服は焦げてる。情けない格好だ。

ガルドは一瞬黙り、そして――笑った。

「いい度胸だ。配達屋のくせに、探索者の真似事とはな。」

リナが近づいてくる。弓を肩に、ニヤリと笑う。

「無茶だったけど、敵の隙を作ったのはあんたよ。ま、合格ってとこかな。」

合格!? 俺の心臓が跳ねる。

エルムが静かに歩み寄り、落ちた魔法回路の欠片を拾う。

「この遺物……起動には、地熱炉のエネルギーが必要だった。奴らは、炉を乗っ取る気だった。」

ミオが駆け寄ってくる。涙目だ。

「カイト、無事でよかった……でも、二度とあんな無茶しないで!」

俺は苦笑いしながら立ち上がる。体は痛いけど、心は熱い。

ガルドが俺の肩に手を置く。重い。でも、安心する手だ。

「カイト。明日、俺たちの拠点に来い。探索者の見習いとして、試練をやる。」

見習い!? 俺の夢が、目の前で――

「本当ですか!? やります! 絶対やります!」

俺は叫ぶ。市場の喧騒、芋の蒸しパン、ネズミ串――全部、俺の日常。でも、これからは違う。

ガルドが背を向ける。

「ただし、失敗したら即クビだ。覚悟しとけ。」

俺は頷く。覚悟? もう、とっくにできてる。

そのとき、エルムが呟いた。

「……この遺物、完全な形じゃない。もっと大きな装置の一部だ。地上に、まだ何かある。」

俺はハッとする。地上。極寒の荒野。魔法大戦の秘密。そして、俺の夢。

ルミエールの魔法の灯りが、静かに揺れた。

俺の冒険が、今、始まる――。


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