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異世界地下都市の配達屋 ~極寒の地上を夢見て~  作者: nekorovin2501


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第1話:地下都市の配達屋

地下都市ルミエールは、魔法の灯りに照らされた石の回廊が果てしなく続く。地熱がじんわりと足元を温め、壁に刻まれた魔法陣が青く淡く光る。空気は湿っていて、どこかで水滴がぽたぽたと落ちる音が響く。この都市で生まれ育った俺、カイト、17歳。職業は配達屋。今日も荷物を背負って、ルミエールの石畳を駆け回っている。

「カイト、遅えぞ! ミオのところの芋、早く持ってこいよ!」

市場の隅で、ネズミ串を焼くおっさんが大声で叫ぶ。脂の焼ける匂いが鼻を突き、魔法の火がチリチリと音を立てる。俺は肩の麻袋を整え、にっと笑って返す。

「おっちゃん、急いでるって! でもさ、芋ばっか食ってると飽きねえ?」

「贅沢言うな! 地上じゃ芋すら食えねえんだぞ!」

おっさんは串を振って豪快に笑う。確かにその通りだ。地上――魔法大戦で雲に閉ざされた極寒の地。太陽の光はもう何百年も届いていないらしい。俺たちのルミエールは、地熱と地下水で生き延びてる。主食は芋。タンパク質はネズミやモグラ。塩は海水が染み出す岩場から採れる。贅沢なんてできやしないけど、俺は嫌いじゃない。この地下の生活、悪くないよ。

でもさ、俺には夢がある。地上だ。

子供の頃、探索者が市場に持ち帰った「地上の花」を見た。あの青く凍りついた花弁が、魔法の灯りの下でキラキラ輝いてた。まるで別の世界の欠片みたいだった。以来、俺は探索者になることを夢見てきた。極寒の荒野を歩き、誰も見たことないモノをこのルミエールに持ち帰りたいんだ。

「カイト、ボーッとしてんな! 配達が遅れるとミオに怒られるぞ!」

市場の喧騒が俺を現実に引き戻す。ミオは幼馴染で、食料倉庫の管理人。ちょっと怖いけど、ネズミのスープ作らせたら天才だ。俺は麻袋を背負い直し、石畳の道を駆け出す。回廊の魔法灯りが、俺の影を長く伸ばす。


ルミエールの市場は、いつも人で溢れている。石の壁に沿って並ぶ屋台では、芋の蒸しパンやモグラの燻製が売られ、商人たちが大声で客を呼ぶ。魔法の灯りが天井で揺らめき、まるで星空みたいだ。いや、俺は本物の星空を見たことないけど、きっとこんな感じなんだろう。

「カイト、そこの角曲がって右だよ!」

市場の入り口で、荷車を引くおばさんが道を教えてくれる。俺は礼を言って、指定された回廊へ急ぐ。今日の配達は、食料倉庫から市場へ芋を運び、ついでに鍛冶屋へ塩の結晶を届ける仕事だ。ルミエールは広い。迷路みたいな回廊を走り回る配達屋は、都市の隅々を知ってる。俺の足腰と方向感覚は、探索者になったとき絶対役立つはずだ。

食料倉庫に着くと、ミオがいつもの仏頂面で立っていた。長い黒髪を後ろで束ね、作業着の袖をまくってる。彼女の手には帳簿。芋の在庫をチェックしてるらしい。

「カイト、遅い! 市場の連中が芋を待ってるよ!」

ミオの声は鋭いけど、目はどこか優しい。俺は麻袋を下ろし、肩をすくめる。

「悪ぃ、市場でネズミ串のおっちゃんと話してたらさ。ほら、芋持ってきたよ!」

俺が麻袋を差し出すと、ミオはため息をついて受け取る。

「ったく、いつも何かしら寄り道してるよね。探索者の話でも聞いてたんでしょ?」

ミオの言葉に、俺はちょっとドキッとする。さすが幼馴染、俺の心を見透かしてる。

「ま、まあな! でもよ、探索者ってすげえよな。地上の遺跡から、魔法の道具とか持ち帰ってくるんだぜ!」

俺が目を輝かせると、ミオは呆れたように首を振る。

「カイト、地上は極寒だよ。死ぬかもしれないんだから。配達屋で十分じゃない?」

「十分じゃねえよ! 俺、地上の花をもう一度見たいんだ!」

思わず声が大きくなった。ミオは一瞬驚いた顔をして、すぐに目を逸らす。

「……まあ、夢は大事だけど、死なないでよね。カイトの分まで芋食うの、私じゃ無理だから。」

ミオの言葉に、俺は笑ってしまう。彼女なりの応援だ。


その日の午後、配達の最中に市場がざわついた。見ると、回廊の奥から三人の人影が現れる。革の防寒着に身を包み、背には大きな荷袋。顔には霜焼けの痕。探索者だ。市場の連中が一斉に注目する。

「シルバーフロストだ!」「また何かすごいもん持ち帰ったのか!?」

ざわめきが広がる。シルバーフロスト――ルミエールで知らない者はいない、伝説的な探索者パーティだ。リーダーのガルドは魔法剣士、斥候のリナは弓の名手、魔法使いのエルムは地熱魔法の使い手。俺は荷物を抱えたまま、思わず見とれる。

「カイト、仕事!」

ミオの声でハッとするが、目が離せない。ガルドが市場の中央で荷袋を開けると、中から金属の欠片や、凍りついた布みたいなものが現れる。魔法大戦の遺物だ。群衆がどよめく。

「おい、配達屋!」

突然、ガルドの声が響く。俺はビクッとして振り向く。でかい体に、鋭い目。間違いなく俺を呼んでる。

「は、はいっ!?」

「この荷物、鍛冶屋に届けてくれ。急ぎだ。」

ガルドが差し出したのは、小さな革袋。ずっしりと重い。中に何が入ってるのか、気になって仕方ない。

「了解しました! 任せてください!」

俺は勢いよく答える。心臓がバクバクしてる。シルバーフロストの荷物だぜ! これ、探索者への第一歩じゃん!

「ふん、元気な奴だな。名前は?」

ガルドがニヤリと笑う。俺は胸を張る。

「カイトです! いつか俺も探索者になります!」

市場が一瞬静まり、すぐに笑い声が響く。リナがクスクス笑い、エルムが静かに微笑む。ガルドは一瞬俺をじっと見て、こう言った。

「なら、まずはその荷物を無事に届けろ。それが最初の試練だ。」

試練。俺の夢への第一歩。俺は革袋を握りしめ、走り出した。ルミエールの回廊を、魔法の灯りが照らす中、俺の心は燃えていた。


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