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第九幕 速さを超えるもの

 戦場の空気は、熱を帯びながらも張り詰めていた。

 雷牙の槍が閃光のように突き出されるたび、空気が震え、兵たちの喉を詰まらせる。『本能解放(バーサークル)』をした彼の身体から溢れ出す気はまるで獣そのもの。怒涛の突きが連続し、見る者の目を奪う。


「はっ!」

 雷牙の咆哮とともに高く飛び上がり、落雷のような鋭い突きを叩きつける。

 しかし、エリナの足運びは軽やかに、剣の軌道は正確に。雷牙の奥の手である技をいとも簡単に相殺した。


「これが……帝国最強か!」

 雷牙は笑う。己より速い相手を求めて戦い続けてきた彼にとって、エリナは速さ以上の壁だった。

「速さだけじゃない。力だけでもない。お前の剣は……揺るぎないものだ!」


「全力で来なさい。帝国騎士団長の名にかけて全ての攻撃を受けるわ」

 雷牙はより一層荒々しい槍を四方八方から突き出すが、エリナは柔らかく受け流し、反撃の一閃を繰り出す。

 火花が散るたび、両者の気迫がぶつかり合い、兵士たちでさえ息を呑んで一歩も動けなかった。



 一方その様子を見つめる晴翔は、帝国兵に守られる形で丘の傍らにいた。

 全身は泥だらけ。肩で息をしながらも、目だけは戦場に釘付けだった。


「すげぇ……」

 喉から漏れた声は震えていた。自分も先ほど、ライオと共に潜む獣人を射抜いて駆け回った。その時は必死だったが、今目の前で繰り広げられる戦いは桁が違う。

 人の域を超えた技と力。その衝突を、ただ見ているしかない。


「やれやれ……オレたちの出番はここまでだな」

 隣で木に凭れかかるように立つライオが、肩をすくめて呟いた。

「でも、お前もこの戦いの一部として活躍出来たじゃないか。ただの『馬鹿な』人間では無いってことだな」


 晴翔は苦笑いし、手の泥をぬぐった。

「……そうだな。俺でも……少しは役に立てたんだよな」



 戦場では、雷牙の気迫がさらに高まっていた。

「まだだ! まだ終わらん!」

 渾身の気を槍に集め、一気に突き放つ。

 だが、エリナは動じない。むしろ瞳は凛として輝きを増していた。


「雷牙、貴様は誇るべき獣人の戦士だ。」

 その言葉とともに剣が舞う。疾風のようにしなやかに、そして鋼のように鋭く。

 彼は悔しさを交えながら、少し笑みを浮かべた。

 雷牙の槍は大地に逸れ、彼の足元に深々と突き刺さった。


 静寂。

 戦場全体を包み込むような、圧倒的な静けさが訪れる。


 晴翔はその光景を、目に焼き付けながら小さく呟いた。

「これが……帝国最強……」


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