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第八幕 森の罠と刃の激突

雷牙の槍が地を裂く。

 「おらっ!」

 鋭い突きが馬上のエリナを襲う。彼女は手綱を捌き、馬の動きを合わせて身を翻した。刃先は衣をかすめただけで空を切る。


 「ほう……帝都で会った時とは違うな。やはり森の中での戦闘は得意か」

 エリナの声は冷静だった。雷牙の突きは嵐のように続く。左から、右から、そして足元を狙う低い一撃――。


 だが彼女の剣はまるで風そのものだった。野原を駆け抜けるそよ風のように、軽やかに槍を受け流していく。


 「面白い!」

 雷牙の口角が吊り上がる。獣の瞳が燃え盛る炎のように光を帯びた。


 雷牙は槍を連続で突き出し、刹那の隙をつく攻撃を繰り返す。馬上のエリナはわずかに角度を変え、槍をかすめるように受け流す。


 「ちっ……流石は帝国最強だな……」


 戦場は轟音に包まれる。槍と剣が打ち合うたびに火花が散り、森の木々が震える。


 雷牙の胸に焦りがわずかに芽生える。しかし、こうしているうちにも彼の部下たちは森の奥で、帝国軍を包囲する作戦は進んでいた。



 一方その頃――。

 丘の上で物資の搬入を手伝っていた晴翔は、森の奥を見て青ざめた。

 「……あれは……!」

 木陰に潜む影、弓を構える獣人の姿。さらに別の茂みにも、矢を番えた者たちがいる。帝国軍を囲むようにして潜伏していた。


 「このままじゃ……エリナ団長が!」

 喉の奥が焼けるように熱くなる。いてもたってもいられず、森へと駆け出した。


 ――その時。

 「おい、何をそんなに焦ってるんだ?」

 不意に木の上から声が降ってきた。


 見上げれば、銀髪に長い耳。枝の上に横たわる青年がこちらを見下ろしている。弓を背負いながら、あくびを噛み殺していた。


 「き、君は……?」

 「ライオ。帝国騎士団の一応は弓兵。まあ、普段はこうしてサボってるがな」

 彼は枝から軽々と飛び降りる。


 晴翔は息を荒げ、必死に言葉をつないだ。

 「森に獣人が潜んでます! このままじゃ、帝国は四方から攻撃を喰らって負けるかもしれないんです!」

 ライオは目を細め、面白そうに口笛を吹いた。

 「へぇ…そりゃ厄介だな。まあ、退屈だったし俺も混ぜてもらうか」


 その無気力そうな態度とは裏腹に、矢筒を背負い直す動きは鮮やかだった。



 二人は馬に乗り、森の中を駆け巡る。

 「茂みの左側! 二人いる!」

 晴翔が叫ぶと、ライオは即座に矢を放った。矢は枝をすり抜け、獣人の肩を射抜いた。

 「やるじゃないか、人間。……次はどこだ?」

 「岩の陰! それと、斜面のくぼみ!」

 弓弦の音が連続して響き、潜んでいた獣人が次々と倒れていく。


 木々の間を馬で駆け抜ける晴翔は、矢をかわしながら位置を指示する。

 「右上の木の枝! 高所から狙ってます!」

 「はいよ」

 ライオの放った矢は一直線に枝上の影を射抜き、獣人が無様に落下した。


 息を切らせながらも、晴翔の目は決して逸らさなかった。

 「……これで、いける!」



 その間も戦場では雷牙とエリナが刃を交えていた。

 「しぶといな、帝国の女騎士!」

 雷牙が吠える。牙の槍が斬り込むたび、馬上のエリナは身をかわし、鋭い蹴りや剣の払いで反撃する。槍と剣の衝撃が空気を裂き、森全体に響いた。

 「貴様こそ、どこまで持つか試してやろう」

 エリナは剣を掲げ、雷牙の猛攻をいなす。徐々に帝国軍の隊列が立て直されていく。



 泥にまみれ、息を切らしてエリナのもとへ駆けつける晴翔。

 「は、はぁ……敵の罠を潰してきました…」

 エリナは刹那、振り返り、微笑した。

 「はぁ、よくやった。あとは私に任せておけ」


 その言葉に、晴翔の胸に熱が灯る。

 森の奥で、雷牙の獣じみた瞳が一瞬だけ苛立ちに揺れた――。


 決戦の刻は、近づいていた。


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