第七幕 森を包む影
朝靄の残る東の森に、重い気配が満ちていた。
雷牙の率いる獣王国の精鋭部隊が、音もなく木々の間を進む。鎧は最小限、体はしなやかで獣のように静か。森こそが彼らの庭だった。
「……帝国の奴ら、森に踏み込めばただの獲物だ」
雷牙は低く呟く。黄金の瞳が光を帯び、口元に鋭い笑みを浮かべる。
一方その頃、帝国軍。
エリナは丘を越え、前線に立っていた。彼女の白銀の鎧が朝日に反射し、兵士たちの士気を引き上げる。
「怯むな! 我ら帝国は、どんな敵をも打ち破る不屈の精神がある!」
馬上から鋭く声を響かせ、部下たちを鼓舞する。兵士たちが一斉に「おおっ!」と鬨の声を上げた。
野営地では――。
晴翔は物資搬入の手伝いに汗を流していた。麻袋を担ぎながら、遠くの喧噪に耳を澄ます。
「……やっぱり、戦ってるんだな」
兵士でもなく、ただ巻き込まれただけの自分。だが胸の奥に小さな焦燥が広がる。
中盤、場面は雷牙に戻る。
木々の陰から戦場を見下ろし、彼は仲間に短く命じる。
「散れ。帝国の周囲を崩せ。俺は正面から行く」
獣王国の戦士たちは、音もなく森に消えた。まるで獲物を囲い込む狼の群れのように。
「この森では俺たちが狩人だ。奴らに牙を思い知らせてやる」
雷牙は槍を握り直し、鋭い笑みを浮かべる。
戦場は次第に帝国軍が押し返し、優勢に見えていた。だが――。
その裏で、偵察に出た兵士がひとり、またひとりと森に吸い込まれるように姿を消していく。
「……なにか、おかしい」
戦場を見ておこうと野営地から少し離れた崖に登った晴翔は、森全体を見渡して息を呑んだ。
木々の影の中で、点々と血の赤が広がっている。
「これは……まるで狩りだ」
テレビ番組で見た狩猟民族の狩り方の記憶がよみがえる。
動物を分散させ、群れを囲い込み、逃げ場を奪って追い込む狩猟法。
「あいつら、まさか……」
晴翔の額に冷や汗が伝う。帝国軍は勝っているように見えて、すでに罠にかかりつつある。
「知らせなきゃ……!」
崖を駆け下りる。急な坂に足を取られそうになりながらも、ただ野営地を目指す。
「早く伝えないと……このままじゃ……!」
森に響く剣戟と咆哮。
そして、その奥で牙を研ぐ雷牙の笑み。
晴翔はただ走った。まだ、間に合うと信じて――。




