第五幕 再起の誓い
訓練施設の病棟のベットで晴翔は横たわっていた。
入団試験の敗北、戦場で目にした地獄の光景――その全てが心に深く突き刺さり、まだ抜けない棘となって残っていた。
「……見つけた」
背後から静かな声が響く。入り口の方へ目をやるとエリナが腕を組み、険しい表情で立っていた。
「勝手な行動をしたこと、許すつもりはない」
その言葉に晴翔は小さくうつむき、何も言えなかった。
「……すみません」
彼の声はかすれ、返す言葉も見つからない。
だが、エリナはしばらく彼の表情を見つめ、ふっと視線を和らげた。
「……だが、その顔を見ていると、怒る気力も失せる」
静寂が訪れた後、エリナはゆっくりと口を開く。
「昔、私がまだ幼い頃――異世界から来た人間に出会ったことがある」
晴翔は驚きに目を見開いた。
「……誰ですか、それ」
「さぁな。 名前も名乗らず消えてしまった」
異世界の知識を伝え、言葉を教え、そしてある日――「帰る」と言い残し、この世界を去った。
「帰る方法を知っていたんですか……?」
晴翔は喉の奥で声を震わせた。
エリナは頷く。
「彼が消えた日は『新月の夜』だった。 それ以上は、私にも分からない」
晴翔はその僅かな情報に胸が熱くなるのを感じた。
「自分だけじゃない……ここにいたんだ、同じ境遇の人が」
胸の奥に灯がともる。帰れる――そんな道があると知ったことで、心の中に沈殿していた暗い靄が、少しずつ薄れていく。
「……俺、強くなります。いつか――」
その先は口にしなかったが、エリナには伝わっていた。
「ならば立て。 鍛錬は待ってくれんぞ」
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森深く、湿った空気が漂う獣王国の会議場。
粗削りな岩で作られた円卓の周りに、三人の戦士が座していた。
「……雷牙様、最近我らが送り込む兵が次々と討たれております」
片目に傷を持つ狼戦士が低い声で報告する。
「なんでも、帝国軍の騎士団長であるエリナという女騎士が異常に強く……兵たちが近づく前に斬り伏せられているとか」
その言葉を聞くや、椅子に座っていた雷牙がゆっくりと立ち上がった。
銀灰色の体毛が光を反射し、黄色い瞳が鋭く光る。
「そんな女……俺が首を叩き落としてやる」
肩に愛用の長槍をぐるりと回し、床を踏み鳴らす音が会議場に響く。
「帝国の奴らに地獄を見せるのは、この俺だ」
雷牙は口角をわずかに吊り上げると、部屋の外に控えていた兵を呼び寄せた。
「精鋭を十名、今すぐ集めろ。夜明けとともに動く」
その背後で、残る二人の戦士が無言で視線を交わす。
帝国と獣王国の戦火は、再び大きく燃え上がろうとしていた――。




