第二十二幕 地獄の戦況
帝国領と聖魔王国領を隔てる険しい山脈に、晴翔たちが辿り着いたのは、すでに日が傾き始めた頃だった。
山麓に広がる光景を目にした瞬間、誰もが言葉を失った。
焦げた地面。折れた武器。動かぬまま横たわる兵たち。
獣王国で見た戦場とは違う。ここには、逃げ場のないまま正面からぶつかり合った痕跡が、あまりにも濃く残っていた。
「……マジか」
思わず漏れた晴翔の声は、風にかき消されるように小さかった。
胸の奥が、じわりと冷えていく。
少し遅かったのかもしれない――そんな考えが、否応なく頭をよぎる。
カイエルも、獣王国の戦士たちも、険しい表情で周囲を見渡していた。
先程まで会話にあった冗談も、軽口もない。ただ、重苦しい沈黙だけがそこにあった。
やがて一行は、国境の要衝である帝国の砦へと急いだ。
砦の外壁には無数の傷が刻まれ、明らかに激しい戦闘があったことを物語っている。
門をくぐろうとした時、伝令役の兵が駆け寄ってきた。
「報告します! 第五部隊団長セドリック様が、敵の大将に包囲され、現在この砦で籠城中です!」
その言葉に、空気がさらに張り詰めた。
「エリナさんたちは?」
晴翔が問いかける。
「……それが、本隊が奇襲を受け、部隊は分断されました。詳細な情報は不明です」
あり得ない。
本来、指揮を執る立場の者、つまりセドリックが敵に直接狙われるなど、戦では最悪の状況だ。
カリナが唇を噛みしめる。
「前線が、もう崩れてるわね……」
ライサンダーも「これは、ちとマズイのお…」と陽気な声ではなく、低い声で呟いた。
晴翔は拳を握りしめた。
迷っている暇はない。だが、ただ突っ込めばいい状況でもない。
「……まずは、セドリック団長を助けないと」
「そうだな。ここが踏ん張りどころだ」
カイエルの低い声が重なる。
砦の外、山麓のさらに向こうには、戦火に巻き込まれたままの土地が広がっている。その一角に、わずかながら人の手が入った場所、牧場があることを、晴翔はふと視界の端で捉えた。
(使えるものは、全部使う……)
絶望の只中で、晴翔の思考は静かに、しかし確実に動き始めていた。
エリナさんには沢山助けてもらった。今度は僕が全力で助ける番だ。




