第二十一幕 思わぬ協力
豪華な料理が人々を囲み、酒と肉が振る舞われ、まだ報せを聞いていない兵たちは明るい未来を語り合っている。
――だが、晴翔の心はそこになかった。
(帝国が……苦戦している)
先ほど届いた報せが、何度も頭をよぎる。
このまま帝国へ戻るべきだ。
考える暇もなく、身体がそう決め、会場を抜け出し、夜風の中を歩こうとした…その時だった。
「どこへ行くつもり?」
低く、凛とした声。
振り返ると、そこに立っていたのはカリナだった。
パーティ用の軽装のまま、銃を肩にかけている。
「……カリナ団長」
「帝国に戻ろうとしてる顔ね」
図星を突かれ、晴翔は言葉に詰まる。
「気持ちは分かるわ。私もその報告を受けて今すぐでも加勢してやりたいわよ。」
カリナは一歩近づき、真剣な目で晴翔を見た。
「でもね。同盟を結んだ直後に、代表が抜け出すのは最悪よ。獣王国から見れば、“都合が悪くなったら自分達を優先する帝国”になる……つまり、信頼に欠ける」
晴翔は唇を噛みしめた。
正論だった。
「……分かっています。でも…でも、何もしないわけには――」
その先に待つ戦況を、まだ誰も正確には知らなかった。その時、別の声が割って入る。
「なら、俺たちが動けばいい」
近くの物陰から現れたのは、カイエルだった。
獣王国最後の戦士にして、王の信を受ける男。
「カイエルさん……」
「帝国が苦戦しているんだろう?」
晴翔は小さく頷いた。
「ならば俺たちも行こう。聖魔王国は、獣王国にとっても敵だ」
カイエルはそう言って、獣王国の旗がはためく方向を見た。
カリナが眉を上げる。
「王には?」
「すでに話は通してある」
その言葉に、晴翔は目を見開いた。
「ですが……獣王国は、まだ立て直しの最中です。無理をさせるわけには――」
カイエルは静かに首を振る。
「無理じゃない。選択だ」
その言葉には、先程の「戦場に立つ兵に選べるのは――自国のために剣を振るうかどうか」
ただ、覚悟だけがあった。
晴翔は深く息を吸い、頭を下げる。
「……ありがとうございます」
「必ず、無駄にはしません」
カイエルは軽く笑った。
「その言葉が聞けただけで十分だ」
こうして、帝国と獣王国の混成軍は動き出す。
夜明け前、馬の列が森を抜け、帝国領へと続く道を駆けていった。
その先に待つ戦況を、まだ誰も正確には知らなかった。




