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第十七幕 分かれた戦場

「……本当に、助けるつもりなのか?」

 エリオの低い声が作戦室に響いた。

 地図の上には、獣王国と帝国のこれまでの大戦について書かれている。


「今の獣王国は疲弊している。戦う意思も、もう残っていないはずだ」

 エリナは静かに言った。その瞳には確かな決意が宿っている。


 晴翔は腕を組んだまま、地図を見つめていた。かつて敵として剣を交えた国。それでも――。

「……これ以上、血を流す意味なんてありません。互いに滅びるだけです」


 その言葉に、エリオは黙り込む。エリナがわずかに微笑んだ。

「わかった。君の言葉を信じるよ、晴翔。私たちで獣王国を助けに行きましょう」


その瞬間、扉が勢いよく開かれた。

「報告! 北方より聖魔王国の軍勢が迫っています!」

 報告兵の叫びに、空気が一変する。


「……来たわね。」エリナは鋭く息を吸い込み、すぐに指示を出した。

「グラディス、オルフェン。私と共に北へ迎撃に向かう。晴翔、あなたは――」


「俺は獣王国に行きます。話を止められるのは今しかない」

 晴翔の即答に、エリナは少しだけ目を見開いたが、すぐに頷いた。


「わかった。なら、カリナ、ライサンダー、ヴァリス。貴方たちは晴翔について行きなさい。」


「は〜い」「おうよ!」「了解した」


その時、背後から静かな声がした。

「エリナ団長。私も晴翔殿と同行してよろしいかな?獣王国の様子をこの目で見ておきたいのだが」

 

 セドリックが開いていた本を閉じて一歩踏み出す。

 おそらく、前に酒場で話した俺をもっと知りたいと思ったのだろう。

 

 だが、エリナがその前に立ちはだかった。

「あなたはここに残りなさい、セドリック。帝都の守りは必要よ」


 しばしの沈黙の後、セドリックは小さく笑って「分かりました」とだけ答えた。


 出発の支度が整う頃には、空はすでに赤く染まり始めていた。


 門の前で、晴翔とエリナは向かい合う。風が二人のマントを揺らす。


「……必ず戻ってきます」

「晴翔、無茶だけはするなよ」


 互いに短く笑い合うと、道は二つに分かれた。

一つは北へ――迫る聖魔王国の軍勢を迎え撃つために。

もう一つは南へ――滅びかけた獣王国を救うために。


 その分かたれた道が、後に帝国の命運を大きく変えることになるとは、まだ誰も知らなかった。


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