第十六幕 軽き王、重き言葉
黄金の柱が並ぶ謁見の間に、重厚な扉の開く音が響いた。晴翔とエリナは赤い絨毯を進み、玉座の前で膝をつく。
その玉座に座る男――帝国皇帝エルゼナートは、晴翔が思っていた“威厳ある支配者”とはまるで違っていた。
豪華な衣装を身にまといながらも、片足を組み、退屈そうにあくびを噛み殺している。
隣には、きっちりとしたスーツ姿の補佐官セインが控えていた。
「……陛下、晴翔をお連れしました」
厳粛な声で告げるエリナに、皇帝は気の抜けた笑みを返す。
「おー、彼が噂の“異界の戦士”か。なるほど……思ってたより普通だね」
「え、あ……初めまして。帝国のために微力ながら尽力させていただきます」
緊張気味に少し早口になりながら、急いでお辞儀をする。
「うんうん、真面目だねぇ。いやぁ、そういう若者は好きだよ。でもさ、戦場で大活躍!って聞いたけど?」
「えっ、いや、それは結果的に、です」
ようやく皇帝のテンポにも慣れてきたのかいつの間にか手汗も出なくなっていた。
「結果的に、ね。まぁ勝てばなんでもいいか」
軽い笑いを浮かべる皇帝に、セインが鋭く口を挟む。
「陛下、軽口はお控えください。彼の働きがなければ、雷牙との戦いでかなり帝国は消耗していたのです」
「うわ、出たよ真面目モード。セイン、怖いんだよなぁほんと」
皇帝は苦笑しながら、こそこそと「あ、睨まないで」とつぶやいた。
エリナは深呼吸をして、話を本題に戻す。
「陛下、今回は晴翔の功績を報告するとともに、今後の戦についてご意見を伺いたく……」
「戦ねぇ……ぶっちゃけ、そろそろ面倒なんだよ」
その一言に、場の空気が一瞬だけ固まる。
「いやいや、聞いてよ?俺だって平和を望んでるんだ。ただ、獣王国もいろいろ考えてるみたいだし、ここらで停戦も悪くないと思ってる」
「……停戦をお考えなのですか?」とエリナが問うと、
エルゼナートは面倒くさそうに髪をかき上げた。
「“考えてない”とは言わないね。けど向こうの出方次第だ。だから――君たち騎士団で話してきてよ」
エルゼナートは晴翔を指差す。
「特に君。異界の人間って、向こうの興味を引くかもしれないじゃん。平和の使者ってやつ? なんかカッコいいでしょ」
「……は、はぁ」
「陛下、軽率な発言はお控えください」とセインが睨む。
「軽率じゃなくて直感!俺の直感、だいたい当たるし」
呆れたようにため息をつくエリナの隣で、晴翔は苦笑をこぼした。
謁見の間を離れる際も軽すぎる皇帝は「また来てね〜。」という感じで手を振っていた
廊下を歩きながらエリナに話しかける。
「すごい人がトップなんですね……」
「慣れれば頼れる王だ。あれでいて、決断は誰よりも早い。」
そう言うエリナの横顔は、ほんの少し誇らしげだった。
――こうして晴翔は、“獣王国との和平交渉”という新たな使命を受けることになる。
おまけ____「皇帝陛下の残務」
エルゼナートは机の上で今回の晴翔たちの報告書をセインと協力して読んでいた。
「はい、これお願いします。」
セインから新しい書類を渡されるが机の上に溜まった資料の山にもう乗せる場所が無い。
「セイン、お前さ、書類読むの速すぎ」
すると、彼女は軽くため息を吐いた。
「読むのではなく、“陛下が放置された結果”を処理しているだけです」
「ほら、やっぱり言い方が怖い!」




