表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

第十五幕 玉座への招待

 酒場の中に、鈍いノック音が響いた。


――ドンドン、ドンドン。


 まだ朝も早い。昨日は勝利の宴で皆、酔い潰れてこの場に寝転がっていた。

 晴翔は重いまぶたをこすりながら、よろよろと扉を開けた。


 するとそこにはいつも通り綺麗で爽やかなエリナが立っていた。


「……エリナさん!?ど、どうしたんですか!?」


 寝ぐせで髪はボサボサ、鎧の下のシャツも皺だらけ。昨夜の酒と汗の匂いがまだ抜けきっていない。

 

 エリナは一歩下がり、眉をしかめた。

「……晴翔、少しは臭いを気にしろ。」


「あ、あぁ……やっぱり……」

 肩を落とす晴翔に、エリナはため息をつきつつ咳払いした。


「まあいい。――それより、大事な話がある。」


 外の木製の椅子に二人で腰掛ける。朝の冷たい風が、酒場の残り香をさらっていった。


「まずは、昨日の勝利だ。本当に良くやってくれた。……ただ、無茶な指示を受けていたと聞いたんだが、誰に言われた?」


 ヴァリス団長の顔が一瞬、脳裏をよぎる。だが、晴翔は視線を落とした。

「いえ、僕の独断です。申し訳ありませんでした。」


 エリナはじっと彼を見つめ、ふっと笑う。

「そうか……なら、いい。」


 その穏やかな声に少し安堵したのも束の間、エリナの表情が真剣になる。

「――本題だ。昨日の戦いを見て、皇帝陛下が君に会いたいと申されている。」


「……えっ!? こ、皇帝陛下が!? な、なんで俺なんかが……!」

 晴翔は思わず椅子から立ち上がる。


「お前のことを少し話したら、興味を持たれてな。昼頃、正式に陛下から呼び出しがかかる。準備をしておけ。」


 そう言い残し、エリナは馬車へと乗り込む。

 残された晴翔は、放心したように空を見上げた。


「お、俺……これから、国のトップと会うのか……?

下手すりゃ首飛ぶじゃねえか……。」


 青ざめながらも、どこか胸の奥が熱くなるのを感じていた。


――その頃。


 獣王国の王城では、重い沈黙が広がっていた。

 玉座の前に控える将軍たちは誰一人声を発せず、ただ床にひざまずいている。


「……雷牙に続き、ブルガロスも敗れたか。」

 獣王――獣王国を統べる王、レオグラント・オルビスは、低く唸るような声を漏らした。


「陛下、兵の損失は深刻です。このままでは次の戦にも……」

 最後の三戦士の一人の虎の獣人、カイエルが身を屈めて話す。


「少し黙れ。」


 王の声が、雷のように広間に響く。

 だが、その目には確かに焦りの色があった。


「分かっておる……だが、帝国も我らとの戦で傷を負っておるはずだ。だが、今退けば“獣王国は牙を抜かれた”と笑われるだけだ。」


 傍らの老臣が静かに口を開く。

「陛下……帝国側にも、停戦を望む動きがあると聞き及んでおります。いまこそ、戦を終える好機ではないでしょうか。」


 レオグラントは目を閉じ、重く息を吐いた。

「……我らが牙を引けば、民はどう思う。だが――このまま戦を続ければ、民そのものが消える。」


 しばしの沈黙の後、王は立ち上がった。

「……よかろう。帝国の出方を見よう。だが、少しでも敵意を見せた場合は最後の兵を送る。よいな?」


 玉座の間を満たす重圧が、少しだけ和らいだ。

だが、王の拳はまだ震えていた。

 それが怒りなのか、恐れなのかは誰にもわからなかった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ