第十四幕 祝福の杯
帝国都市の中心部にある、最も大きな酒場。
その夜は、外まで響くほどの笑い声と歓声に包まれていた。
戦いを終えるたび、帝国騎士団は必ず宴を開く。
それは勝利を祝うためでもあり、仲間の生還を確かめ合うためでもあった。
中では、酒の入ったグラスが何度も打ち鳴らされ、香ばしい肉の匂いが立ち込めている。
各所で団員たちが抱き合い、語り合い、笑い合っていた。
その賑わいの中には、あの団長たちの姿も見える。
老練なグラディスは隅の席で腕を組み、ウトウトと舟を漕いでいた。
飲まない性格かと思いきや、足元には空になった酒瓶が山のように積まれている。どうやら、すでに戦い抜いているらしい。
カリナは椅子の上に立ち、部下が頭の上で掲げた瓶を銃で撃ち抜いていく。
「敵の眉間にも、これをぶち込んであげるわ!」
破裂音が響き、破片が舞う。部下たちは歓声を上げ、拍手を送った。
オルフェンはというと、ライサンダーに無理やり肩を組まれながら、ちびちびと酒を飲んでいた。
「ワハハッ、貴様らもっと食わんか!」
ライサンダーは豪快に笑い、肉の骨を掴んでかぶりつく。その周囲では、部下たちが酒樽を抱えながらどんちゃん騒ぎをしていた。
晴翔は少し離れた席で、セドリックと共にその様子を眺めていた。
「彼らを見ていて、楽しいですか?」
穏やかな声で問うセドリックに、晴翔は微笑んで答えた。
「はい。なんだか、小さい頃に友達の家でパーティをした時を思い出します。でも……今はこっちのほうがずっといいです。」
セドリックは静かに頷いた。
その後も二人は、戦略やこれまでの帝国の戦いについて語り合った。
そこへ、奥の方から騒がしい声が近づいてきた。
「晴翔っ……助けてくれ……槍男が……」
酒臭い息を吐きながらエリオが転がり込んできた。その後ろにはヴァリスの姿。
「おい! 今回の大将がこんな地味な場所にいるんじゃねぇ!」
ヴァリスは晴翔の襟首を掴み、そのままズルズルと引き摺っていく。
セドリックは苦笑いを浮かべ、手を振った。
席に着いた後、すぐに彼の方へ向き直った。
「ヴァリスさん……ありがとうございました。助けていただいたおかげで、今もこうして生きてます。」
晴翔がそう言うと、ヴァリスは無言で酒を差し出し、晴翔の背中をバンッと叩いた。
「水臭ぇこと言ってんじゃねぇ。俺は借りを返しただけだ。」
「借り……ですか?」
「あぁ。エリナ団長から聞いたぞ。お前が騎士団入ろうとした時、散々命令無視したり迷惑かけたってな。だから俺は、無理難題を押しつけてやったんだ。だがな──」
ヴァリスはニッと笑い、酒を一気にあおる。
「お前の“弱くても前に立とうとする姿”、あれを見て感動した。帝国の面子を守ったのは、間違いなくお前だ。」
晴翔が言葉を失っていると、ヴァリスは不意に彼を肩に担ぎ上げた。
「えっ!? ちょっ……!」
「お前ら! この小さい騎士に祝福をくれてやれ!」
「おおおおーっ!!!」
部下たちが一斉に歓声を上げ、晴翔を胴上げし始めた。天井近くまで舞い上がるたびに、酒場はさらに熱を帯びる。
戦場では指示に従うだけの青年が、今は仲間たちの中心にいた。
その温かさに、晴翔は思わず目頭が熱くなり、泣き笑いを浮かべた。
「……やっと、やっと報われたんだ」
歓声、拍手、笑い声、そして杯の音。
夜が更けても宴は終わらず、酒場には帝国の未来を照らすような光が揺れていた。




