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第十幕 星空の誓い

 街の酒場は、戦勝を祝う兵士たちの笑い声であふれていた。

 樽から注がれる酒、焼き上げられた肉の香り、飛び交う歌声――。場の熱気は夜の外まで溢れているようだった。


「おい、ハルト!もっと飲め!」

「い、いや、だからもう十分だって!」


 晴翔は周囲の兵士たちに杯を押し付けられ、顔を真っ赤にしながら苦笑していた。

 酒場の喧騒が夜の空気を揺らしていた。帝国兵や市民たちの笑い声、杯を合わせる音が混ざり合い、暖かな明かりの中で人々は宴を楽しんでいる。


 皆が別の場所に行き、晴翔は木の香りが漂うテーブルに腰を下ろし、疲れた体を休めていた。戦いの余韻はまだ残っているが、仲間たちの笑顔が少しだけ心を軽くしてくれた。


「……こんなに賑やかなの、久しぶりだな」


 一方で、カウンターに腰掛けているライオは頬杖をつき、退屈そうに足をぶらぶらさせていた。

「酒より寝てた方がマシだなぁ……でもまあ、タダ酒が飲めるならいいんだけど」


 兵士たちの歌声と笑い声が響く中、晴翔の背後から静かな声がかかった。


「……晴翔、少し時間をくれ」


振り返ると、エリナがそこに立っていた。酒場の喧騒を背にしたその姿は、何かを伝えようとしているようだ。


「団長……?」

「ここでは話しづらい。外へ出よう」


 晴翔は頷き、エリナに従って酒場の外へ出た。夜風が顔を撫で、少しだけ戦いの緊張を和らげる。


 暗がりの中、エリナは言葉を選ぶように静かに話し始めた。

「私が幼い頃、よく遊んでくれた人のことを前に話したのを覚えているか?」

 

 晴翔は一瞬戸惑った。余りにも唐突に切り出された話なので何か深い意味があるのではないかと思ったからだ。

「まぁ、覚えてますけど……」


「その人は、君に似ている」

 エリナの声は柔らかくも、どこか不思議な響きを帯びていた。


「よく私の相手をしてくれた。私もその人も自分のしたいことが見つからなくていつもお互い相談し合っていたんだ」


 晴翔の胸に微かな感覚が走る。何か、妙な親近感なあった。何処かでそんな話を聞いたような……

しかし、その確信を得る前に、背後から陽気な声が割り込む。

「話が盛り上がっているようじゃねぇか!」

 

 振り返ると、エリオが酔い潰れた様子で自分にもたれかかってきた。この状況を台無しにするかのように、笑みを浮かべながら。

 

 結局、会話はそこで途切れてしまい、決定的な答えを得ることはできなかった。


 エリナさんは、俺に気を遣ってくれたのか、エリオを酒場の中にズルズルと引きずっていった。


 静けさが戻った夜空の下、俺はこれまでのことを思い返していた。誰も知っている人がいない世界での孤独。戦いで助けてくれた恩人の存在。敗北したときの悔しさ。戦場の恐怖。そして、誰かの役に立てたという小さな喜び。


 かつては元の世界に戻りたいと懇願していたのに、今ではこの世界にも少しずつ馴染んでいる自分に気づく。次の新月は、数年後のいつか。この世界で何とか生き延び、恩人に報いることを誓った。


 満天の星空を見上げ、決意を胸に抱く。小さな光の一つ一つが、未来への道標のように思えた。


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