第一幕 流れ着いた世界
「おい!写真撮るぞ!」
グループで一番仲のいい友達が声をかけた。
ここは海の断崖絶壁を売りにしている観光地だ。今日の天気はあまり良くないが、海を背景に写真を撮る。
パシャッ。
グループのメンバーが写真を見せ合う間、自分は荒れた海の水平線をぼんやりと見つめていた。
その時、微かに焦げ臭い香りがした。
誰かがタバコでも吸っているのだろうか。
ただでさえ気分は良くないので、少しむっとした。
「なんか、面白いことねぇかな……」
ボソッと呟くと、後ろから声がした。
「陽翔!早くしないと置いて行くぞ!」
修学旅行が楽しくないわけではない。 ただ、もっとこう、スリルを味わいたいみたいな感覚だ。
「おう、今行く……」
その時、突然暴風が吹き荒れた。
身体のバランスを崩し、柵の外へと投げ出される。
「え?」
一瞬ふわっとした感覚ののち、ものすごい速度で落ちていった。
「馬鹿!お前っ!」
慌てて友達が駆け寄るのが見えた。
少しだけ友達の顔が見えた後、冷たい海が視界を遮った。
荒れ狂う海の中、自力で上がることは不可能で、どんどんと沈んでいく。
ああ……つまんない人生だったなぁ……
死を悟り、目を閉じると段々と意識が薄れていった。
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気づくと、見知らぬ浜辺に横たわっていた。
頬を撫でるのは冷たい潮風。目の前には綺麗な星空と、遠く水平線が広がっている。
「…ん……ここは、一体……?」
意識が戻ったと思い立ちあがろうとしたが、再び酷く酔った感覚に陥りまた気を失ってしまった。
空の上には蒼色をした新月が静かに佇んでいた。