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目覚めの聖堂 - 三人の大聖女

こんにちは、作者の仁王陀痴におうだちです。

第1話を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます!第2話目です!

冷房が効いたような、ひんやりとした風の感触が僕を起こした。

 薄く開けた瞼に映ったのは、赤いカーペットと、金の縁取りが施された天井。


(ん……?ここ、どこだ……?)


 意識がぼんやりとしたまま、いつものクセで二度寝に入ろうとしたが、そこでようやく違和感に気づく。


 そうだ──あの“光”は、なんだった?

 教室が突然まぶしくなって、クラス全体が……。


「……っ!」


 僕は反射的に身体を起こした。心臓が一気に跳ねる。視界がブレながらも周囲を見回すと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 ──なんだこの場所は。宮殿?神殿?


「お、一人起きたな!召喚成功だな!」


 聞き慣れない声に、驚いて顔を向けると、そこには三人の女性がいた。

 黒髪で褐色の肌を持つ長身の女性、赤い髪を短くまとめた騎士のような装備の女性、そして──金髪で透き通るような白い肌の、小柄な女性。


 三人とも、信じられないくらい美しい。まるで画面の向こうの女神が現実になったみたいだった。


「私はてっきり、あの金髪の子が一番に目を覚ますと思ったのだけれど」


「確かに、魔力が他の子より濃い気がする。それにあの子だけ私と同じ金髪だ。」


「アタシとしては赤髪の子がいないのが、ちょっと残念だけどね」


 女神のような彼女たちは、軽く談笑していた。目が合うと、三人ともにっこりと微笑む。

 その瞬間、全身の警戒心が一瞬だけ緩んでしまった。


「……あの、ここはどこですか?僕たちは、どうなったんですか?」


「まぁまぁ、驚くのも無理ないわ。いきなりこんな場所に来てしまったんだもの」


「でも、その様子だと頭はハッキリしてるようだな。ちょっと安心した」


「うん、なかなか落ち着いてるね。……もしかして、あんた勇者向きかも?」


「……じ、ジロジロ見て。もしかしてエロガキかぁ?」


「やめなさい、リマイル。からかっても仕方ないわ。彼はまだ状況を飲み込めていないのよ」


「すみません……なんか、すごい空気に呑まれてます……」


「ふふ、無理もないわ。ねぇ、お願いしてもいい?皆さんを、起こしていただけるかしら」


「あ、はいっ」


 彼女の声はどこまでも柔らかく、深く胸に染み入ってくるようだった。

 なぜか逆らえない。というか、逆らおうという発想が浮かばない。

 そんな不思議な感覚に包まれたまま、僕は周囲に目をやった。


 ──クラスメイトが、何人も床に倒れている。


 皆、眠っているようだった。あれだけの光を浴びて、無事だったのか? そう思うと胸がざわつく。


「……おい、相沢、起きてくれ」


 最も近くにいた相沢綾姫の肩をそっと揺さぶった。

 彼女は普段から物静かで、誰とでも優しく接する、いわゆる“良い子”だった。


「んぁ……なにぃ……? あと五分……」


 寝ぼけた声が、逆に安心させてくれる。

 良かった、無事みたいだ。


「相沢?」


「……うん……あれ? 昭くん? 昭くん!? えっ、なんで!?!?!」


 ハッと目を見開き、飛び起きた相沢は、僕の顔を見るなりテンパり出した。

 その声が、静かな空間に響く。


 すると──赤髪の女性がサッと警戒態勢に入った。腰の剣に手を伸ばし、鋭い視線をこちらに向けている。


「あっ、すみません!びっくりさせて!でも、起きてくれてよかったよ」


「え? う、うん……え、えっと、その……そ、そこにいる人たち……すごい綺麗な人たち……!」


「うん、見た目だけじゃなくて実際なんかすごいみたい。……女性陣をお願いしてもいい? 僕が起こすと誤解されそうだから」


「え? ……えっと、うん……わ、わかった……。あ、あの、ちなみに私は嫌じゃないって思ったってこと、で……」


「なんか言った?」


「い、いや! なんでもないっ!」


 突然、そっぽを向かれてしまった。

 ……なんか地雷踏んだ?


 

 その後、僕と相沢で手分けして、クラスメイトたちを順に起こしていく。


「んん〜……え、なに、ここ……?」


「わっ!? え、何!? 天井高っ!? 壁白っ!?」


 次々と起きていく仲間たちの混乱が、部屋中に広がっていく。


 その中、教師の万坂仍美がゆっくりと目を開けた。


「……生徒、全員いる?誰か怪我してないか……って、ここ、どこだ?」


「先生、大丈夫ですか?」


「あぁ、昭くんか……とりあえず皆無事そうだな。……しかし、状況が読めないな。」


「まぁ、落ち着いてください。」

 

 目を細めながらも、冷静に情報を集めようとするあたり、さすが万坂先生だった。


 その横で、皇 嶺菜が腕を組んで立ち上がる。


「この香り、建材も空気も日本じゃない。空気が軽い……それに──」


 ポケットからスマホを出し、電源を入れようとして──


「……圏外。GPSも反応なし。」


「うわっ、私のスマホも電源つかない!」


 嶺菜さんと相沢はそういって電源のつかないスマホをいじっている。


「あの!昭くん!この感じ私たち勇者召喚的な!?これ、私の好きなラノベそのまんまじゃん!これ現実!?いやでもワクワクしてる自分がいるのやばくない!?」


(橘さんラノベとか読むんだぁ、っていうかキャラが…)


 興奮しすぎて酸欠になりそうな清華を横目に、僕はエリスに目をやる。


 ───彼女はまだ黙り込んだままだ。


 そんな感じで混乱する皆の声、焦り、騒ぎ。

 でも、何度も説明していくうちに、少しずつ状況を受け入れ始めるクラスの空気ができていった。


 そして──全員が起きた頃。


 三人の女性は、座っていた椅子から静かに立ち上がった。


「……ほら、ここはあなたの信仰圏でしょう?」


「ええ。では皆様、ようこそいらっしゃいました」


 金髪の女性が前に出て、ふわりと微笑む。


「私の名はセラフィーナ・ルミエール。この神聖教会において慈愛の女神ヴィーナの象徴である、“慈癒の大聖女”と呼ばれる者です」


 次に、赤髪の騎士が一歩前へ出る。


「リマイル・シルネール。戦争の女神ザシャーノの象徴、“武戦の大聖女”だ。よろしくな」


 そして、褐色の女性が最後に口を開く。


「ラミャノ・ナイリール。私は智慧の女神エリゼーノの象徴、“知恵の大聖女”よ。」


 彼女たちの自己紹介を聞いたクラスの皆が、一瞬、言葉を失う。

 この世界が異世界であること、そしてここが“聖なる場所”であることを、否が応でも理解させられる迫力があった。


 ──そして、セラフィーナが話を続ける。


「皆様が今いる世界は、あなたたちの世界とは異なる、“異世界”でございます」


「異世界……!」


「200年周期で訪れる“厄災”の封印のために、この世界では古来より異界の勇者を召喚してきました」


 ラミャノが冷静に補足を入れる。


「あなた方は、“第十の厄災”に対抗するための“選ばれし勇者の卵”──つまり、勇者候補なのです」


「勇者……って、ゲームの中の話かよ……」


「じゃあ、この世界って……まさか、俺たちが“勇者パーティー”ってやつになるのか?」


「封印って、何を封じるんだ?」


「魔帝──かつてこの世界を滅ぼしかけた存在。その力の一部が、周期的に目覚めようとしているのです」


 話はどんどん現実味を帯び、クラスの皆の顔が真剣になっていく。

 しかし、誰かが疑問を口にした。


「じゃあ、その“封印”が終わったら、俺たちはどうなるの?」


 沈黙。


「……それについては、記録がありません」


「え?」


「厄災を封じた勇者たちが、その後どうなったかは、書物にも残されていないの」


 静かな空気が流れる。何かを隠されているような、不安が心に刺さる。


 その時──


「うーん! わっかんねぇ〜!! 大橋〜! 要約たのむ!」


 鬼山が頭をかきむしりながら叫び、大橋がため息をつきながら答える。


「簡単に言うと、“ちょっと魔王が弱体化して復活するから、また倒してくれ”ってことかな」


「おぉ、それ分かりやすい! ゲルダの伝承のバノンドドロみたいな感じか!」


「ちょっと! 命がかかってるのに軽く扱いすぎ!」


「……でも、確かに“異世界勇者”って響き、ちょっとワクワクするよな」


 みんなの反応はさまざまだ。戸惑い、不安、期待、興奮──

 でも確実に、事態は“日常”から遠く離れていた。


 僕はふと、右手に違和感を覚えた。

 淡い光が、手の甲に浮かんでいる。まるで──何かが起動しようとしているような。


「あら、丁度ステータスの読み込みが終わったようね。」


 ラミャノさんがそう言うと


「勇者様の能力が表示される術式だ!“ステータスオープン”と唱えると出てくるぞ!」


 と、リマイルさんが教えてくれた


「は、はい。す、ステータス、オープン!」

 

 そう呟いた瞬間、手の甲の光がわずかに強まった。


 そして、僕の“能力”が、開示されようとしていた。

 

第2話でした。

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