3話 実は結構軽い頭
「成功したのか!?」
興奮したような男の声、頬に感じる固い感触、周りに漂う白い煙
気づくと、またもや見知らぬ場所で倒れていた
えっ?ここどこ? さっきまで光る人の目の前にいたはず…
頭に疑問が浮かび、必死で最後の記憶をたどる
だが、最後に覚えているのは力を選ぼうと光る板を見ようとした場面だけ
『おそらく覚えていないだろうがな』
あの光る人…主神サマの言葉が頭をよぎり、おそらく自分が送られる瞬間までの間を忘れただけだと思い至る
頭の中で結論を出したことで幾分か冷静になれた
うつ伏せで倒れている状態のためとりあえず顔を上げる
さて、ここはどうやら儀式場のようだ
石造りの四角い部屋。壁には金のロウソク立てが規則正しく立てかけられている
僕の真後ろ――この部屋唯一の扉があることから、おそらく正面――には豪華でキラキラした祭壇と思われる机があり、そこに豪華な装飾品を着飾った初老の男がいた。先ほどの興奮したような声を発していたのは多分この人だろう
そして、その男の横には鎧を着て剣を脇に差した兵士のような人々が並んでいた
壁際には黒いローブを深くかぶり奇妙な形をした杖を持った集団とさっきの兵士。そして、僕の周辺には既に起き上がっているクラスメイト達数人
神からの話を思い出す。僕らを召喚したというのはこの人たちだろう。
とりあえず何か危害を加えられるような雰囲気ではないようだ
握っていた手がまだほどけていない事に安心しながらとりあえず心里を起こそうと――
耳が生えていた
え!?何そのケモミミ!?アイエエェ!?尻尾!?
僕の真横で倒れていた心里の頭の上に立派な灰色のケモミミが生えていた。そして尾てい骨――お尻の少し上の骨――の所らへんから、こちらも灰色の尻尾が生えていた
ついでにスカートの後ろに尻尾用の穴が開いているというおまけ付き
ま、まさか…
ゆっくりと自分の尻を確認する
予想通り、こちらも尻尾が生えていた
うわぁぁぉ…まじかよ… なんか違和感あるとは思ってたけど…
推定自分の尻尾は根本がふんわり大きく先端は細長い。色は根本から先端近くまでは茶色っぽい黒で、先端らへんは灰色。触ると言語化ができない謎の感触が返ってくる
全体的に狐のような尻尾だ
もはや確かめるまでもないが、一応自分の頭を軽く触ってみる。すると少し前まで存在すらしなかった感触が返ってくる
ケモミミが生えていると確信する
おそらく、あの主神サマが選ばせてくれた力とやらの中に種族を変える選択があったのだろう
もう一度自分の周辺のクラスメイト達を見る
すると先ほどまでは気づかなかったが、明らかに人間ではありえない器官を宿したクラスメイトをちょこちょこ見つける
と、とにかく心里を起こすことにする
「起きて心里」
「…んぅ……また寝てた?」
「イエス」
「……?! 修!耳!耳生えてる!」
「そうなんだよねぇ。……ちなみに心里もだよ」
「!?尻尾…!」
「多分だけど、さっきの主神サマがくれた力の選択肢の中にあったのかな?」
「…な、なるほど」
自分の尻尾や耳を触り、返ってくる体験したことのない感触を不思議そうに味わう心里
全体的に犬っぽい見た目になったんだな。いや、狼か?
「…ん?……またか。みんな起きてくれ!」
「んへぇ!?ど、どこだここ!?」
「えー…デジャブ感満載だな」
「な、なんだよ!またかよォォ!」
「お、お前耳が!?」
「いってぇ!し、尻尾!?」
「背縮んだ?あっ!元からか」
「うっさい!」
先ほどの空間では物理的に騒ぐことができなかったからか喧騒が広がっていく
だが、目の前にいる沈黙を貫く人々を前に騒がしさは次第に失せていく
「ようこそ勇者様方。私はここコズミット王国の王です」
こちらが静まった頃合いを見計らい、先ほどの初老の男 コズミット王が話してきた。
その声は威厳に満ち溢れ、丁寧な言葉なのに嫌に威圧感を与えてくる。こちらの「なんだ?あのヨボヨボのじいさん?」といった舐めた気持ちを軽く流してきた
「まずは落ち着いて話せる場所へ案内します」
そう言い周りの兵士とともに廊下に続くであろう扉をこちらを案内してくれる
「こちらです勇者様」
とりあえずこの兵士さんについていくか
* * *
案内されたのは広い応接間のような場所
壁には絵画、壁際にはすごそうな壺、なんの為にあるのかは、わからない彫琢品の品々
部屋の中央に置いてあるお香らしきものから漂う香りは馴染みが無いが、安心感を与えてくれる
「それでは勇者様、話を始めましょう」
そんな静かで豪華な空間で、王様は話を始めた。
「何はともあれまずは自己紹介を。私はここコズミック王国の王 ラーザス・ウェント・コズミットと言います。単刀直入に言います。この世界は未曽有の大厄災に襲われています」
王様の話をまとめるとこうだ
・邪神が復活しそう
・神代の時代――大昔のこと――に突然邪神が現れた
・邪神はまさに神の如き力を持っており人類では歯が立たない存在
・神々はほとんど邪神に殺され、主神と副神は邪神の力で世界が壊れないようにするだけで手一杯
・苦肉の策として主神が地球から勇者を召喚。後の初代勇者である
・初代勇者とその仲間たちが死力を尽くし邪神はなんとか封印された
・だが今の時代に邪神の封印が解けそうになっている
・主神によると、なぜか邪神は封印前より強力になっており世界の負担も大きなっているとのこと
・邪神の欠片が実際に復活し、さらに邪神を崇める邪教も誕生した。クソみたいにみんな強い
・世界の治安維持で手一杯。「星見台」の予知でも世界崩壊が確実と言われている
・そこで神代の勇者召喚をもう一度行い、今に至る
「どうか、我々に手を貸してはくれませんか?」
悲痛な顔を浮かべ、手を握りしめながら語る王
一泊置いて王は続けた
「もちろん、協力してくださるのでしたら最大限の支援、報酬をお約束します。邪神討伐に協力してください」
王様は深く、深く礼をした
一国の王を務める者が頭を下げる。それは、日本での感謝や謝罪などに用いられる礼などでは到底比較できないほどの重みがあるのだろう
それに、言葉遣いもそうだ
いくら僕らが伝説の勇者であろうと一介の高校生に丁寧な言葉を、へりくだった言葉を使う。威厳もあったもんじゃない
場がしんと静まり返った。張り詰めた空気が辺りに漂う
誰もが息を飲み、言葉を探している
「わかりました。ぜひご協力させてください」
だが彼は違った
声の主は内のクラスの学級委員長 勇崎 正純くんだった
「俺たちは交通事故で死ぬ運命を無くしてもらうために、神様の依頼を受けました。ここで依頼を断る訳にはいきません。それに、この世界で困っている人がいるなら見過ごすわけにはいきません!」
正純くんは、勇ましくそう宣言した
確かにさっきの神…主神の依頼を受けたから僕らはここにいる。ここで「やっぱなし」は筋が通らない
それに、どうせその邪神とやらを討伐しないと地球に帰れないだろうから支援を受けるためにもここは受けるべきだな
「教師である俺が話すべきなのに情けねぇ… 陛下、私もその依頼お受けします。ですが私はこのクラスの命を預かっている者です。こいつらの命を守れるようサポートをお願いします」
内田先生も依頼を受けることには肯定的らしい
「私もやります!」
「お、俺だってやりますよ!」
「チィ、やるしかねぇだろこんなもん…」
「正純くんがやるんだったら…」
「折角の異世界…楽しむべきだ!」
「受ける以外の選択肢無いだろ」
「やるしかない…か」
他のクラスメイトたちも正純くんが啖呵を切ってくれたおかげで受ける雰囲気になっている
「やるしかないかぁ…」
「やるしかない…!」
”賽は投げられた”ってやつだな。今更待ったはできない。腹くくってやるしかねぇ
「僕らも受けます!」
「ん!」
こうして僕らは勇者として邪神を討伐することになった
「では、こちらの契約書にサインをお願いします」
あっそこら辺キッチリしてるんだ…。大山、修一っと
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TIPS 邪神
すべての生物に溢れんばかりの殺意を持っている神。現在は魂を固形化し粉砕、厳重に封印されている
だが、その封印も薄れ、一部はもう復活している。もはや完全復活は秒読み段階であろう
邪神が完全復活すれば、あまりの力に世界は崩壊する。神代からの生き残りである神々も、世界を維持するだけで精一杯である
邪神は狡猾にも人類に味方――ユスティア教団を創り出した。ユスティア教団の者たちは邪神から世界のリソースを気にせず力を与えまくられているため、残念な事に下っ端でもクソ強い
そんな阿鼻叫喚の世界に年端もいかない人族を送ってどうするつもりなのか
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TIPS 従属のお香
このお香を嗅いだ者は、あらかじめ決められた対象からの話を断ることができなくなる
それどころか、勝手に自分で理由をつけて自ら話に乗っかろうとする
現在このお香は低レベルの者への使用を禁じられている
どう取り繕っても誘拐は誘拐である。もっと気を張るべきであったな
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TIPS コズミック王国
中央大陸の中央に位置する人類有数の王国
星の力を歴史上はじめて制御下に置いた マリー・ウェント・コズミックが興した国である
特産品は スターストーン 星の一滴 彗星の涙 などの星関連高級品である
マリーの血統…王族のみが星を”読み””受け取り””落とす”ことができる
なにがそんなにすごいのかって?
そもそも「星見台」以外が星を”見れる”ことが自体異常なのだ
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