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殺し屋は魔法少女を殺せない

 俺は殺し屋だ。殺し屋業界では一流の殺し屋だ。しかし、上には上がおり超一流の殺し屋には及ばない。そんな殺し屋な俺は大学生でもある。サークルと勉強の両立ではなく、殺しと勉強の両立というぶっ飛んだことをしている。できれば俺もサークルに入りたかったが、そんな余裕はない。年が少し離れた妹が病気だったからだ。妹の病気を治すため多額の金を両親がやばいところから借金したのだ。


 結果的に病気は治ったが借金が億単位に膨らんだ。両親はそれを隠していたのだが、何かがおかしいと気づいた俺が問い詰めると渋々白状した。食費が下がっていたし、両親が急に酒を飲まなくなったからな。


 そして両親から話を聞いた俺は妹には絶対にばれないようにしようと決意した。父と母は元から共働きでなんかやばい仕事をやる時間はない。それでもまともなほうの仕事を辞めて、やばい仕事をやるという手段もあった。


 だが両親の生活が普段と違うと妹に怪しまれる可能性がある。大学に入ったばかりの俺はサークルに入ったことにすればごまかせる。そこまで考えた俺は両親に俺がやばい仕事をやると言い張った。


 両親が俺にはやばい仕事をしてほしくないと言ってくれたが、俺自身は絶対にやばい仕事をすると主張した。両親は俺の頑固さになんとか折れた。





 

 俺が選んだやばい仕事は殺し屋だった。

 




 日本に新型コロナウイルスが入ってきてからおよそ十年がたった。新型コロナウイルスは国のなんか方向のおかしい政策と次第に警戒心の薄くなっていく国民によって何とか抑え込まれた。しかしそれでも多くの問題が残り続けていた。


 新型コロナウイルスにより元々良くない景気は悪くなったし、新型コロナウイルスの後遺症に苦しむ人を養うことすらできない。もはや国力がかつてないほどに落ちた日本では治安も悪くなった。


 だから殺し屋が人をぶっ殺しても非常に警察につかまりにくくなっていた。しかも仕事はたくさんある。娘が素行の悪い彼氏のせいで自殺してしまったとか、友達を薬漬けにして搾取したやつがいるとか。


 そういうどうしようもない奴らをぶっ殺す仕事をした。奴らだって環境がまともならちゃんと心優しい人間に育ったのかもしれない。でも育たなかったものはしょうがない。そう割り切る俺はクズだと言われるだろう。


 そいつらだってかわいそうな人生を歩んできたやつらだ。でも実際会ってみると、性根はおぞましい程にゆがんでいて哀れむこともできない。そんな奴らを俺は殺すことしかできない。死んで当然なんて人間はいるはずがないというのに。


 最初のうちは殺すのも大変だった。一回目に殺したときはビニール袋吐いがいっぱいになるまで吐いた。人を殺すとそうなることもあると聞いたから、あらかじめ用意していたものだ。吐瀉物の一つも証拠になる。その場に残すなど以ての外である。


 そこから俺が見る夢には楽しく暮らしている人が大勢出てくるようになった。みんな俺が殺した奴らだ。加害者の分際で厚かましいが、せめて死んだあとくらいはあいつらにも楽しく暮らしてほしいと思う。


 それは全て俺が被害者じゃないから言えることだ。殺した奴らにひどい目にあわされてなかったからだ。俺は自分勝手だ。被害者になったら怒り狂うくせに、被害者じゃないから楽しく暮らして欲しいなんてほざく。


 人殺しはいいことじゃない。でもいつの時代もなくならなかった。殺し合う。それはきっと人間の性質だ。


 なぜ戦争反対とか言ってる日本人は多いのに、バトル漫画やアクション映画が大量に売れる?結局のところ人間は動物の一種に過ぎない。だから闘争本能が備わっている。人殺しは無くならない。人間がそういう生き物だから。


 そうしてやたら悩み続けながらも俺は人を殺した。そして、ようやく先月に借金を全額返済することができた。ここまで来るのに約一年かかった。俺は借金返済のため、それだけのために一年で人を九十人近く殺めた。


 やっと解放される。そう思った。しかしそれはただの夢物語だった。俺の殺しは終わらなかった。裏社会でそこそこ名が売れたせいで魔界という最近話題の別世界の民間軍事会社に殺しを依頼されてしまった。これもこの手で殺した奴らからの呪いなのだろうか。俺は呪いなんて信じない奴だがそう思ってしまった。


 最近時空の歪みとともに怪物たちがやってくるようになった。そいつらは魔界から来ているのだという。目的は人間の魂。知的生命体の魂はあらゆる工作分野に使用できる素晴らしい素材になるのだとか。売れば高い値になるから、「そういう事をする会社」も増えていった。


 そんな人を素材とみなしている恐ろしい怪物たちにも天敵がいる。魔法少女だ。彼女たちは可愛い格好をしながら圧倒的な力をもって怪物どもを撃滅する。彼女たち魔法少女はなぜか美少女と相場が決まっているらしい。


 俺に言わせてもらえば、なんであんなひらひらした格好で戦うのかよくわからん。あれ戦ってるときは引っかかったり、視界が遮られたり、単純に重かったりととんでもなく邪魔じゃないか?


 怪物達によると魔法少女は精霊がスポンサー的な何かであり、その精霊たちが好む格好をしなければいけないのだという。


 美少女にしか力を与えない原因も精霊たちが美少女大好きなロリコンどもだからだそうだ。しかも精霊たちは性格のいい優しい子にしか力を与えないという。


 これも精霊の好みらしい。優しい美少女に可愛い恰好を強制させて戦わせるのが好みとは精霊はずいぶんと変態なのだろう。少し共感したのは胸の内に南京錠でもつけて封印しておくとしよう。


 そして俺の任務は変態に力を与えられた美少女の殺害。つまり魔法少女をぶっ殺すことだ。魔法少女は怪物達にとっては邪魔者で、さらに普通の魂と比べ物にならないくらい質がいいとか。怪物達のほうが俺なんかより強そうなのになんで自分たちでやらないんだろう。


 このままでは俺の頭が疑問を解消したくて、それしか考えられなくなってしまうで、見るだけで鳥肌モノの怪物に嫌々聞いてみた。


 その理由は単純に人手不足だかららしい。民間軍事会社は危険な仕事だからやる怪物がそこまでいないのだとか。だから最近は超一流から一流までの殺し屋に殺害を依頼しているとのことだ。俺が思案した約一時間半を返して貰いたい。


 俺はそんな心が痛みそうな任務は丁重にお断りしたかった。しかし、やらなければ家族を【自主規制】とか【自主規制】な方法で【自主規制】すると脅されたので断れなかった。


 殺しの計画はこうだ。怪物達は時空の歪みを作り出してこっちに入ってくる。その歪みを察知する力が魔法少女にはある。そこで人気のない場所に故意に時空の歪みを作り出し、それを囮に近くに隠れていた俺が不意を突いて殺すというものだ。


 殺害場所は俺の家の近くにある原っぱで魔法少女をぶっ殺して連絡をしたら証拠隠滅のため死体を引き取ってくれるらしい。死体処理はなかなか骨の折れる作業なので正直ありがたい。脅したのは末代まで祟ってやるがな。いや、あいつらで末代かもしれないな。あのドブネズミにも劣る奴らが結婚出来るというのなら、この世に悲しい奴らは存在しない。


 いや待てよ。あいつらはあいつらの種族の中ではイケメンかもしれない。そう深く考え始めたところで、怪物の美醜なんてどうでもよくねと感じ始めた。


 そして作戦当日。俺は時空の歪みの近くの木陰に潜んでいた。おっと、誰か歩いてきた。後ろで一本にまとめた桃色の髪。髪と同じ色の大きな瞳と長いまつげ。可愛らしい顔をして最近中学生になりました、みたいな華奢な少女がおそるおそると言った様子でやってきた。


 服装はフリルがあしらわれたニーハイソックスにリボンがつけられたブーツ。レースで飾り立てられた丈の短いスカート。腰を縛る大きなリボン。桃色と白色を基調とした肩が出た服、そしてハートを模した売り払えば七百万は軽いであろうクリスタルがついた杖。


 あれは確実に魔法少女だ。非常に心苦しいが死んでもらおう。許してくれ。そういう仕事なんだ。信じてもいないどっかの神に懺悔して俺は引き金を引こうとした。


 その時、俺の潜んでいる木にとまっていたカラスが大声で鳴き始めた。魔法少女はハッとした様子で俺の方に振り向いた。すると、なんということでしょう。そこには目出し帽を被り、アウターからズボンまで真っ黒、中二病が真っ青になるほどの不審者がいた。オマケに拳銃付きである。


 そう、その正体は他ならぬ俺。そう。俺、おれ、オレ、O☆R☆Eである。不審者を見た魔法少女は容姿に合う、小鳥の死に際のような悲鳴を上げた。


 「きゃあああああああ!」


 俺は焦り散らかして拳銃の引き金を二度引いた。銃声が草原に響く。しかし魔法少女の体を銃弾が突き抜けることはなかった。数メートルも後方に魔法少女は大きく跳んでいたからだ。一度の跳躍でこれほど距離をとれるのか。凄まじい身体能力、あの怪物どもが苦戦するのも納得である。


 さすが魔法少女。その驚異的身体能力は称えてやってもいい。しかしもっと低く飛べば無傷で済んだのに。俺は魔法少女の着地するであろう場所を狙い銃の引き金を四度引いていった。

 

 魔法少女は空中で大きく杖を振るった。そして数瞬もすれば何事もなかったように直立していた。俺は一瞬何が起きたのかわからなかった。


 次の瞬間俺は身震いした。魔法少女がやったことがおおよそ同じ人間とは思えなかったからだ。おそらく魔法少女はその杖で弾丸を叩き落としたのだ。


 俺はそのことに驚いたが悠長に突っ立っている暇はなかった。俺はこのまま止まっていると危険な気がして横に跳んだ。完全なる直感。もしこの直感を思い違いだと誤解していれば、間違いなく俺の体には大きな風穴が空いていただろう。桃色の光線がさっきまで俺が立っていたところを通り抜けた。


「っ?!」


 俺はどうやら危うく死ぬところだったようだ。前にヤーさんのボスと蛆のように沸く取り巻きと戦った時より大きい恐怖が襲い掛かる。あの時は数時間は銃声が絶えなかった。


 次の瞬間には桃色の光線が絶えず放たれる。そう予測して俺は勢いよく地面を蹴った。桃色の光線が俺の真横ギリギリをかすめた。俺のそこまで多くないもみあげと目出し帽の一部が犠牲となってしまった。


 走る勢いを急激に緩めれば俺の前をもはやおなじみの光線が突き抜けていく。そこからの急加速。俺のすぐ後ろを光線が素通りする。


 不規則に走って相手に狙いをつけさせない。避けられないなら当たらないように動くしかない。俺はいったん止まって拳銃の引き金を一度だけ引く。あまり今立っている場所に長居はできない。それが銃弾一発分であったとしてもだ。引いたらすぐに走る。


 こちらも攻撃しなければ相手を攻撃に専念させてしまう。相手を一つのことに集中させてはいけない。相手がどれだけあの光線を打てるかは知らないが、持久戦は圧倒的に不利だからだ。魔法少女は跳んで移動した。弾丸を避けるためだろう。


 俺はまた着地地点に弾丸を連続で撃ち込んでいく。撃ち込めた弾丸は六発。魔法少女はまた杖を振るう。弾丸を化け物じみた身体能力で叩き落としているのだろう。


 魔法少女は足を手で押さえた。間違いない。俺が撃った弾丸は足に当たった。追加で四発撃ちこむ。魔法少女はなんとか倒れこむようにして避けた。人を超える運動神経の魔法少女も流石に銃弾をはじく鋼鉄の筋肉は持ち合わせていないようだ。仕留めようと思ったが、もう弾がない。


 それでも俺は諦めない。真っ直ぐに走り出す。魔法少女が隙を見せた今がチャンスだ。この機会を逃すわけにはいかない。俺は四十センチ以上あるでかい剣鉈を振り上げる。


 魔法少女は苦悶しながらも立ち上がって杖を掲げた。杖、正確に言えば杖のクリスタルが光り輝く。あたり一帯を満たす桃色。シュルシュルと俺の足元に巨大な魔法陣が描かれていくる。俺は必死で前方に跳躍した。


 その直後に巨大な爆発音が俺の耳に飛び込んだ。あともう少しで俺は跡形もなく地面の微生物とともに消し飛んでいただろう。大技を回避したとて安心してはいられない。


 魔法少女が俺に向かって杖を構える。このまま更に光線を打たせるわけにはいかない。俺は魔法少女の杖に向かって拳銃を思いっきりぶん投げる。


 俺が美しいと言えなくもない老眼のやつが見たらイ○ローに見えるかもしれないフォームでぶん投げた拳銃は魔法少女の杖にぶつかり、魔法の発動を未然に防いだ。そして俺は鉈を構えて一気に距離を詰める。そして魔法少女の杖を持ってる手に蹴りを食らわし、ひるんだところで杖を奪い取る。そして杖を小人だったら地平線の彼方であろう距離へ放り投げる。


 魔法少女は武器を奪われ絶望しきっている。顔面は青を通り越して真白だ。俺は剣鉈を魔法少女の首に勢いよく振るった。自らの勝ちを確認したにも関わらず、平原に赤い花が咲き乱れることはなかった。


 なぜだろう。涙が溢れ出てきた。もう何十人と殺してきたはずなのに、涙が止まることはない。魔法少女は涙にぬれた顔で俺を見つめる。そして蚊の鳴くような、か細いで言った。


 「私を……殺さないの?」


 そうだ。俺はこの少女を殺さなきゃいけない。そうどれだけ意志を固めても剣鉈を持っている手が動かない。自分でも気づけないほどに自然に、俺の口からは言葉が出てきていた。


 「殺さなきゃいけないんだ。でも殺せない。君と同じくらいの年の妹がいるんだ。最近中学生になってさ。見た目も髪の色と目を除けばそっくりでさ。……あれ?」


 なんかこの魔法少女、妹に似てない?声も似てたし、体型も妹と同じくらい華奢だ。まさか。いやそんなまさかな。まあ一応聞いてみよう。


 「美代香って名前の女の子を知らないかい?」


 魔法少女はいきなり敵に問われて、戸惑いながらも返答した。


 「美代香?私と同じ名前だけど。」


 冗談だろ?いや、まだ名前と見た目がたまたま一致しているだけかもしれない。俺は目出し帽を勢いよく剥ぎとった。


 「この顔に見覚えはあるかい?」


 魔法少女は大きな声で叫んだ。先ほどの蚊の鳴くような声はなんだったのか、チンパンジーよりも甲高い声だ。


 「お兄ちゃん!え?噓でしょ?いつの間に暗殺者なんてやってたの?」


 そのあと俺と美代香はお互いにすべての事情を話すことになった。美代香は俺の話を一通り聞いた後に泣き出しながら言った。


 「お兄ちゃん。私たちのためにそこまでしてくれたの?でもお兄ちゃんは罪を償わなきゃいけない。私のせいで償わなきゃいけないんだ。」


 美代香は人間が怪物に殺されるのが嫌で、精霊の勧誘を受けて魔法少女になったそうだ。怖いほどに優しい最高の妹だ。俺はそう思った。あの変態精霊の方が俺より頼られているのかもしれないと最悪の可能性が桃色の光線のごとく脳裏を掠めたが、俺は至って冷静。もし俺にも触れることができるなら、あの精霊をぼろ雑巾にしてくれよう。

 

 俺は美代香のために何をするか考えた。美代香を一人で戦わせたくない。妹を悲しませないために罪を償いたい。しばらくして自分なりの答えは出た。


 「美代香。俺は怪物と戦うのを手伝う。怪物から人を救おう。死んだ人は戻らない。でもこれから死ぬ人を救えるんだとしたら罪を償ったことになるかもしれない。そう思ったんだ。都合がいい理論だけど、それを受け入れてくれるか?」


 美代香は顔を青くして身体を震わせながら言った。


 「死んじゃうかもしれないんだよ。お兄ちゃんは普通の人。すぐ死んじゃうんだよ。」


 俺は妹に心配されたことをうれしく思いながら、少しだけ得意げに言った。


 「いや死なないよ。俺は美代香に勝ったんだから。そう簡単には死なない。俺を仲間に入れてくれ美代香。」


 俺はそう言った後、美代香に向かってゆっくり手を差し出した。少しの間ためらってその手を取った。これが俺たちの戦いの始まりだった。

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