5.異世界で生きて行くには<後編>
「うわーん、うわーん、うわーん!」
そう泣き出したのは俺ではなかった。
それは、前にいる赤ん坊。俺とは別の赤ん坊だった。
母は今は安堵した様子で目を閉じていた。
仮面の男は赤ん坊を抱き上げるとそのまま母の目の前に持って行った。
「第二子。元気な女の子だ」
母はそれを見ると喜びのあまりなのか未だに痛みが残ってなのかは分からない...、いや多分前者だろう。涙を顔に浮かばせていた。
父は俺を脇で持ったままそんな母に近づいた。
「頑張ったな、グレイス」
こちらも見たら涙目だ。
「えぇ、あなた。...今回は名前はあなたが付けてちょうだい」
「いや、やっぱり一番頑張ったお前がつけるべきだ」
「そういう約束だったじゃない。それに私は第一子のカインの名前を付けたんだから。本当はそれはこの家の当主であるあなたがすべき事なのよ」
「あぁ、そうだな。分かった。...ミ、ミラ。ミラなんかはどうだ?」
「良い名前だわ」
「カインちゃんほらあなたの妹よ」
妹。そう妹なのだ。
俺は、いやそれに限定してはいけない気がする。
オタクにとって妹とは夢に見るぐらい尊い存在だ。
勿論実際いる友達に聞くとウザいだけ〜とかと言うがそれでも「お兄ちゃん」とはいつかは呼ばれたいもの。
俺には勿論いなかった。口をあまり聞かない兄貴は一人いたが、俺がこっちにくる数年前にはもう家を出ていた。
それはさておいて。
妹だ。この赤ん坊、いやミラは俺の妹なのだ!
この時俺は異世界での希望を見出せた気がした。
俺は神に誓うと、自分のこの命。前世のはどうなったか分からないがこれは二度目の人生と読んで良いだろう。
この与えられた命で俺はできる限りこの妹を守る!
(ぎゅ)
そうこう考えているとミラは泣き止んでいた目を閉じたまま俺の手を握っていた。
「あらあら、ミラはお兄ちゃんが好きなのね」
「ミ...ラ」
「いもうと。ミラ。」
俺はそう口に出していた。
俺のこの世界における最初の言葉。そうそれは妹の名前となるのであった。
それて、それ以来俺は妹と一度も会っていない。
「父ぅえ、ミラ。どこ?」
食事中俺は父にそう聞いた。
あの日から俺は話せるようになった。まだ文を話すほどの力もなければ息も続かないがこの間話せるよなったばかりにしてはかなり上手く話せているだろう。
ちなみに、最初に話し出した時は父は妹の誕生日に加えて俺の最初の言葉ということもあって驚きと歓喜が混じりなんとも表現しにくい表情になっていた。
喜んでいたのは確かだが。
母はと言うと小さく「カインちゃん...」と満点の笑みを任せていてそのまま寝てしまった。
体力を使いすぎたのだろう。
それよりも妹だ。
あの後妹が俺の手を離すと俺と父は部屋を出た。
食事は途中ではあったもののほぼ食べ終わっていたため戻らなかった。
俺はそのまま部屋に戻され寝た。母は数日して食卓に戻った。
話題にミラはちょこちょこ出たが肝心の本人は見当たらなかった。
そして、今それを聞いてみたのだ。
父はその質問を受け少し困った表情を浮かべた。
「ミラはだな、今は。いや、今後当分は一緒には暮らせない。お前は第一子で、彼女は第二子だからな」
どう言うことだ?生まれた順番とか関係ないだろ?
もしかして、第一子が家督を奪われるのが怖くて第二子を殺すとかを警戒しているのか?
いや、俺はまだ一歳にも満たないガキだぞ?
「あなた、カインちゃんはまだ喋り始めたばかりよそんな難しい話わからないわよ」
「あ、あぁそうだな。いや、つい普通に会話できるほど上達していたからな...」
「そうよね!カインちゃんすごいわ!さすがうちの子ぉ!」
俺は弟とか年下の兄妹もいないからな...
一歳の子供が普通どのぐらいの速度で上達するのか分からない、イメージとしては喋り初めてそのあと三文字でなんか文を作る感じなのだが、多分早過ぎた。
感覚的には少し発音が変になるが、普通の小学生レベルには会話出来ると思っている。
でも、この反応から見るに少し自重した方が良いのだろう。
にしても、妹の件についてはこの世界ならではのルールか何かがあるのだろう。
一旦そこは割り切って再会を楽しみに待つとしますか。