(7)
すごい争奪戦が起きそうというマイカの予想はばっちり当たっていた。一回生全員が集まった大会堂は、授業前からすでに異様な熱気があふれていた。
両親の在学中はダンスの練習はもう少し後から始まっていたが、教官の代替わりが増えるにつれ、他専攻ともっと親睦を深めたいという生徒側の要望を取り入れる流れになったという。
基本的な動きは、先に担当教官の授業をつぶして習っている。今日は実際に組んでの初練習だ。
今の時点では各専攻ごとにかたまっているが、誰と練習しようかと早くも視線が複雑に交差している。リリーも露骨に突き刺さる幾多のまなざしに気後れしながら、風の法専攻生同士で輪になっていた。
「キル、お前と踊りたいって言ってた奴がいるぞ」
風の法専攻生の一人がにやにやしながら、剣専攻の男子を指さす。風の法専攻生がいっせいにふり返ると、彼はへらっと笑って大きく手を振った。さすがキルクルスに狙いを定めるだけあって、人目は気にしないようだ。
「えー、どうしようかな。僕はどっちの役でもいいけど、リリーと踊るなら男装しないといけないし」
ああでも、女装して一緒に踊っても別にいいかと破顔するキルクルスに、リリーは苦笑した。似合うのでかまわないが、キルクルスのこのノリだけはいまだに慣れない。
「とりあえず、リリーの最初の練習相手は僕がするからね」
こういうときは同じ専攻だとすぐ確保できるからいいよねと、キルクルスがにんまりする。リリーも知らない人といきなり踊るよりはと承知した。
予鈴が鳴り、各専攻の教官たちが大会堂に入ってくる。本鈴まで待てないとばかりに生徒がそわそわするのは毎年のことらしく、ピュール・ドムス教官から合図を受けたトルノス・カルタ教官が一歩前へ出た。
「あー、みんなずいぶん楽しみにしているようなので、少し早いが始――」
「よっしゃあっっ!」と叫んで走りだした男子生徒たちに、ドムス教官が一喝した。
「まだ話は終わってないぞ! 馬鹿者!!」
大会堂の窓ガラスを震わせるほどの怒鳴り声に、空気が緊迫した。
「今動いた奴は参加しなくていい! 外に出ろ!」
注意された生徒が悲痛な面持ちで立ちつくしている。特に、普段大声で叱られることがほとんどない教養学科生は蒼白し、涙目になっていた。
「時間の無駄だ、早くしろ!」
周りからそそがれる冷ややかな目とドムス教官のさらなる追い打ちに、生徒数人がうなだれて大会堂を出る。グラノたち剣専攻生はいたが、槍専攻生は一人もいなかったのはさすがというべきか。
浮足立っていた雰囲気が霧散し静まり返る中、カルタ教官が咳ばらいをして言葉を続けた。まずは近くの者で組み、一曲踊るごとに相手を変えること。基本的に誘われれば断らず、複数人に申し込まれたときのみ選んでよいこと。
「いくら早い者勝ちでも、終わったとたんに意中の相手に飛びつくなよ。あくまでもさりげなく、そばで踊りながら順番を待つんだ。さっきの奴らみたいにガツガツすると、怖い先生に妨害されるぞ」
武闘学科生を中心に笑いが漏れ、ようやく少し場がなごんだ。
「先生、予約は有りですか?」
一人が挙手して質問する。
「人によるな。申し込みは自由だが、忘れられても文句を言うなよ」
手帳に名前を書いていた時代もあったが、人気のある生徒はすぐ記入欄がいっぱいになってしまい、本人が踊りたい相手と踊れなくなるという悲しい事態も起きたため、裁量に任せる形になったとカルタ教官は説明した。
「手を取ってもらいたいなら、それ相応に努力しろ」
カルタ教官の助言に、生徒たちの顔にやる気がみなぎる。各専攻の代表は授業の終わりにダンスの組み合わせを決めるという話を最後に、いよいよ練習となった。
まずは近場でとカルタ教官は指示したが、もともと女生徒が少ない武闘学科生は相手を求めて移動せざるを得ない。比較的女生徒が多い教養学科と武闘学科が混ざりあう中、動かなくても女生徒が群がっているオルトやソールを横目に、リリーはキルクルスと向き合った。次は自分と踊ってほしいとどんどん声がかかったが、覚えきれないので予約はなしでとあやまると、順番待ちの男子がそのまま周囲に残り、密集状態になった。
「そこ、邪魔だぞ。もう少しあけないと二人が踊れないだろう」
毎年のことなのか、いくつかのかたまりを散らすために教官が注意して回っている。リリーのところにもカルタ教官がやってきた。
「お前ら、気持ちはわかるけどな。そんなギラギラした目で狙ってたら、印象が悪くなるだけだぞ」
「ほら、さっさと相手を見つけろ」と生徒たちを追い払ってから、カルタ教官がふり向いた。
「この後の希望はあるか?」
「今日は知っている人と踊ります」
「僕は来る者拒まずです。男子でも女子でも」
リリーとキルクルスの返事に周囲がざわつく。カルタ教官は微妙な表情でキルクルスを見て、離れていった。
音楽はない。教官たちの手拍子で始まったダンスだが、生徒の技量はさまざまで、足を踏まれたりよろめいたり隣の人とぶつかったりと、いたるところで悲鳴が上がった。やはり一人で踊るのと相手がいるのでは勝手が違うのだ。そんな中、リリーとキルクルスは大きな問題もなく、むしろ初めてにしては非常になめらかに踊った。
「キル、上手だね」
「リリーもね。僕たち、すごく相性がいいと思わない?」
みんな見とれてるよと、キルクルスが微笑する。自分には周りを観察するほどの余裕はないので、リリーは感心した。
「一番手が僕じゃ、続く男子がちょっと気の毒だね」
冗談なのだろうが、実際そうかもしれないとリリーも考えた。どうしても最初の相手が基準になるので、次に踊る人とうまくいかないと変にがっかりしてしまいそうだ。
ソールはどうしているのだろう。きっと誰かと踊っているのだろうが、この状況では探せないし、見たくないという気持ちもある。
そうこうしているうちに一曲終わった。互いに一礼し、相手を替える時間になったところで、再びわっと囲まれる。知り合いを希望したのに、完全に無視されている。
「うわ……これじゃ、どっちを誘いたいのかわからないな。リリー、また後で踊ろうね」
キルクルスがそばを去ると、少なくない数の生徒がついていき、欠けた輪が閉じる前にレオンが現れた。
「リリー、救出に来たよ」
「ありがとう、レオン」
レオンも背後に女生徒の集団を引き連れていたが、二人が組むと、皆残念そうにしながら別の相手を選びにいった。
「先にチュリブと踊ったの?」
「そうだよ。連続はだめだって言われてるから……僕も慣れてる人のほうがよくてさ」
フォルマはキルクルスと同じで男女両方から誘われているみたいだねと、レオンが双子の姉を一瞥する。見ると確かにそうだった。むしろ女生徒のほうが多い気がする。いや、女子の勢いに押されて男子が近づけない状態なのだ。ただキルクルスと違い、フォルマは男性役だと足の動きが逆になって間違えそうだからと遠慮している。それでもかまわないと詰め寄る女の子たちに負け、結局今日だけという条件でフォルマは承知した。舞踏会最初のダンスの相手が決まれば、次回から女性役で練習したいと。
一方キルクルスは、例の剣専攻生の相手を務めるらしい。誰に対しても愛想よくできるのは美点だなとリリーは感嘆した。
何事もそつなくこなすレオンは、ダンスも安定していた。これならチュリブも踊りやすかっただろう。
二人目もうまいとますます期待値が高くなって逆に困る。三人目はどうしようと悩んでいると、レオンがささやいた。
「次はルテウスが来るからね」
えっ、とリリーは驚いた。
「ルテウスも踊るの?」
「まあ、代表だから強制参加だし、仕方なくって感じだけど」
レオンが視線を流した先では、ルテウスがむっつりとした容相で立っていた。踊る人数は必要最小限にとどめたいという意思が明らかににじみ出ている。
一曲目よりは慣れたのか、周囲で妙なうめき声が響くことも減り、終了する。最初のカルタ教官の忠告はどこへやらで、またもや大勢の生徒に迫られる中、「はい、どいてどいて」とレオンが人混みをかき分け、リリーをルテウスに引き渡した。
「なんでルテウスなんだよ」
「お前ら、結託してるのか?」
「仲間内だけでリリーを独占するなんてずるいぞ!」
囂々たる非難を浴び、ルテウスが舌打ちした。
「うるせえな。今日は知ってる奴と踊りたいってリリーも言ってただろうが」
本当に面倒臭いとぶつぶつ文句を垂れながら、ルテウスがリリーの手を取る。学年で一番賢いと言われているルテウスだが、ダンスはそうもいかないだろうという嫉妬と嘲りのまなざしを隣にいたリリーも痛いほど感じ、たまらず縮こまると、「心配するな。お前に恥はかかせない」とルテウスから不機嫌そうに言葉を投げられた。
ルテウスがたくみに女の子を誘導するなど失礼ながら想像できなかったリリーは、踊りはじめて目をみはった。
キルクルスやレオンに劣らない優雅な動きに、傍観者たちも唖然としている。驚きすぎてうっかり足がもつれかけたリリーを自然に導いて修正までするルテウスを女の子たちが見逃すはずもなく、「ルテウス、素敵」とざわめきが広がっていく。
敗北感に消沈している男子の目の前で踊り終えたとき、休憩に入るとカルタ教官が声を張り上げた。
そのままルテウスと一緒に水筒を取りにいったリリーのもとに、レオンとセピアもやってきた。
「ルテウスがあんなに上手だと思わなかった」
「でしょ。私も最初に組んだとき、すごく踊りやすくてびっくりしたわ」
「別に……学ぶことは何であれ、すべてきちんと吸収したいだけだ」
リリーとセピアのほめ言葉に、ルテウスが視線をそらしながら茶を飲む。どうやら照れているらしい。
「女の子たちの関心度が急上昇してるよ。後半、ルテウスに殺到するかもね」
からかうレオンに、「勘弁してくれ」とルテウスは心底嫌そうに顔をゆがめた。
水分補給が完了したと判断したのか、カルタ教官が再び集合をかける。水筒を置いたリリーを一番に捕まえたのは、風の法専攻代表のエラルドだった。オルトとソールは休憩時間も関係なくまだ女生徒の集団から抜け出せていない。冒険仲間の囲い込みから初めてリリーを奪取したエラルドに続けと奮起した男子生徒たちにもみくちゃにされかけたリリーは、ひらひらと振られる右手を見つけた。
「リリー、俺と踊らないか?」
誘ってきたのはカルパだった。即座に承諾したリリーに人波が割れ、カルパがにこにこと寄ってくる。
「カルパ、お前……!」
「悪いな。俺はソールの親友だから、みんなよりはリリーと仲がいいんだ」
得意げにふんぞり返るカルパに、悔しさ満載の歯ぎしりが鳴る。うらやましそうな視線を一身に集めながら、カルパはリリーの手を引いた。
「ごめんな。ソールの代わりにはなれないけど」
あいつ、ずっとあの状態だからと、いまだに女生徒をさばききれていないソールをカルパが見やる。
「ううん、カルパなら安心して踊れるわ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「今まで誰と踊ったの?」
「まあ、いろいろ……マイカとも踊ったぞ」
一人だけ具体的に名前が出たことに、リリーが期待を込めて話の先をうながすと、カルパは視線を泳がせた。
「マイカって、可愛いよな」
悪いことは悪いってちゃんと気づいて反省できるし、とぼそぼそ語る。
「リリーが仲直りしたのなら、これから四人で出かけるのもいいなって思ってるんだけど……マイカは好きな奴いるのか?」
「それはマイカ本人に確認してね。カルパが声をかけたらきっと喜ぶよ」
「えっ、もしかして脈あり?」
「内緒」
リリーはふふっと小さく笑った。カルパが満面に喜色を浮かべ、どこかで踊っているはずのマイカを探す。
四人ということは、あと一人はソールだ。
冒険から離れて遊びに行くのも楽しそうだと、リリーも想像して胸を高鳴らせた。
カルパと別れた後は、風の法専攻の同期生たちと順に踊った。そしてこれで最後だとカルタ教官が叫んだとき、つきまとっていた女生徒たちを振り切り、オルトが駆けてきた。
「リリー、踊ろう!」
「あ、えっと……」
オルトに置き去りにされた女の子の目が尖っている。先日リリーに嫌味を言った教養学科生からもにらまれ、リリーは返答に詰まった。
「でも、あの人たち、オルトと踊るのをずっと待ってたんでしょ?」
「俺だって最後くらい相手を選びたい」
まだダンスの練習は始まったばかりだし、これから機会はいくらでもあるとリリーは言いかけたが、なかば強引に手を取られた。ダンスの体勢になる二人に、周りが少し下がって場をあける。
「やっとお前と踊れる」
ほっと息をつくオルトに、リリーは眉尻を下げた。
「疲れた? 最初からたくさんの人に申し込まれてたもんね」
「お前だってそうだろ」
「私はレオンたちが来てくれたから」
おかげで初回にしてはあまり緊張せず練習できたのだ。
「踊りたい奴と踊れたのか?」
「え……あ、うん、みんな上手だったよ」
赤い瞳に刺すような光が走る。自分の気持ちを見透かされるのが嫌で、リリーははぐらかした。
「オルト、顔が怖いよ」
じっと見据えられることに耐えられず、リリーが冗談めかして指摘すると、オルトの双眸がふっと揺らいだ。
「悪い。余裕がなくて……せっかくだから楽しまないとな」
ようやくいつもの柔らかい微笑が戻ったことにリリーも安堵した。
オルトのダンスはやや力強かった。雄々しいのに不快に感じないのは、独りよがりではなく目の前の相手にきちんと意識を向けているのが伝わってくるからだ。引っ張ってもらえる頼もしさとでも言おうか。
みんなそれぞれ性格が出ているなとリリーは思った。ルテウスは意外だったけれど、どんな学びもおろそかにしないという意味では彼らしい。
やはりソールとも踊りたかった。今後、どこかで機会が巡ってくるだろうか。ただ、あの希望者の多さを考えると、自分から積極的に行かないと難しいかもしれない。
「……黄玉じゃなかったら、お前を選んだのに」
「え?」
拍手が大きすぎて、オルトのつぶやきがよく聞こえなかった。自分たちのダンスを同期生たちが見学していたことに、リリーは踊り終えて初めて気づいた。
「いいダンスだった」「やっぱりお似合いだね」とほめそやされる中、少し離れた場所にいたソールと目があう。ずっと二人のダンスを眺めていたのか、ソールははっとしたさまで顔をそらした。
「よーし、じゃあこれから代表の組み合わせを決めるぞ。オルトは黄玉だから外すとして――まずは希望を取るか」
代表と副代表を招集したカルタ教官の言葉に、しかし行動に移す者はいなかった。互いの動向を探り合う生徒たちに、「選べないならこっちで決めるぞ」とカルタ教官が手持ちの名簿に視線を落としたとき、セピアが動いた。
「ルテウス!」
少し声を上ずらせながら、セピアがルテウスの腕をつかむ。
「あの、よかったら、く、組まない?」
「お、おう……」
いつもは軽口や注意をする間柄なのに、双方どことなく恥ずかしそうにしている。レオンはもとからチュリブと約束しているのか二人で並んで立っていて、エラルドがフォルマのほうへ爪先を向けたとき、先にソールが声をかけた。
「フォルマ、相手を頼めるか?」
「かまわないけど、いいの? もう少し待てば副代表から選べるのに」
フォルマがちらりとリリーを見やる。しかしソールは「ああ、いい」と目を伏せた。
代表から女生徒がいなくなったことで、レオンがすぐにチュリブを誘う。教養学科代表の男子生徒がリリーを目指して来ようとしたが、フォルマをソールに取られたエラルドがリリーに声をかけたため、男子生徒は教養学科副代表の女子と組んだ。
代表たちの相手が決まったので、次回の練習日を告げられ、解散となる。立ち話をしているソールとフォルマをうらやましく思いながら、リリーは浮かれた様子のセピアとともに大会堂を出た。
放課後、キルクルスは一人で正門を抜けた。リリーたちは学院祭の開式でおこなう演舞について話し合いをしている。今日中に細かいところまで決め、次からは神法学科一回生全員で練習に入るらしい。
今日のダンス練習でたくさんの生徒と触れ合いながらそれとなく探ったが、これという反応はなかった。
学年が違うのか、あるいは――生徒ではないのか。
オルトを『見た』ときに映る光景は以前と変わらない。つまり、ブレイはオルトの未来に影響を及ぼしていなかったということだ。
まだどこかに潜んでいるのは確かなのに、相手は巧妙に自分との接触を避けているらしい。
もし今回の試練が二人同時なら、最悪かつ壮絶な展開を覚悟しておかなければならない。
主が与えたのであれば、彼らは乗り越える力をもっているに違いないが……一つ道をあやまれば、玉は手に入らない。
自分たちの計画も頓挫してしまうのだ。
本音を言えば、争うならリリーを巻き込まず、二人だけでしてほしい。
だが、おそらくその願いはかなわない。
「はあ……まいったな」
空に向かってため息を吐き出す。
単に見目がいいだけなら、惹かれることはなかった。結婚相手の候補になるなあと面白半分に考える程度で終わったはずだ。
呪われた絆が絡んでいるのに、それ以上に魂がまぶしい。ちょっとだけ人見知りで、感情が豊かで、澄んでいながらあたたかい女の子は、あっという間に自分を魅了した。
肩入れすれば苦しくなるだけなのに。これでは、この先誰と出会っても満足できないだろう。
できることならずっとそばにいたい。もし計画が失敗しても、彼女だけを手元に残せないだろうか。
不可能だとわかっているから、よけいに執着してしまう。
「オルトのことを言えないな……」
彼の気持ちがわかるだけに、近頃は嫌悪より同情のほうが強くなってきていた。
「お帰りなさい、クルス」
一足先にキュグニー家に戻ると、シータがいつも通りの笑顔で迎えた。夫のファイ・キュグニーは三日前から新薬の開発研究のため、神法学院に泊まり込んでいる。意思疎通のできる人間がいないのは少々不便だが、あと四、五日で帰ってくる予定のようだし、ブレイとモスカが去ってからは飛行中に狙われることもなくなった。
シータの肩に乗り、料理の味見をさせてもらいながら過ごすうちに、玄関の扉が開く音がした。リリーが帰ってきたようだ。
シータが手をとめて台所を出る。「ただいま」の声が聞こえないことに違和感を覚えて飛んでいくと、玄関扉にもたれてうつむいているリリーの姿が視界に入った。
「リリー……?」
シータも首をかしげ、リリーに近づく。法衣をにぎりしめていたリリーは、母親の顔を見るなり抱き着いた。
帰宅するまで我慢していたかのように激しくしゃくりあげて泣くリリーを、シータが抱擁し、背中をなでる。
何があったか、リリーが途切れ途切れに語れるようになるまで、かなりの時間を要した。