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風の少女と呪いの絆7  作者: たき
2/12

(2)

 町の中央広場の鐘が六つ鳴る時分、リリーたち七人はカーフの谷へ向けて出発した。まだまだ暑い時期なので昼に近づくにつれて気温は上昇してくるだろうが、目の覚めるような青空は見上げるだけで気分をさわやかにしてくれる。

 今日は鳥の確保が目的のため、クルスはついてこない。いくらクルスが生肉を食べないといっても、他の鳥たちからすれば肉食のハヤブサには変わりないはずだから、怖がって逃げてしまっては困るという理由で、置いていくことにしたのだ。

「家を出る直前まで騒がしかったんだよ。ソールのご飯が食べたくて仕方ないみたい」

 セピアの操る荷馬車に揺られながらリリーが笑う。今日は食材をカラザーンの町で買って行く予定なので、味見役がいなくてソールも少し残念に思った。

「それでね、ソールがよければなんだけど、今度クルスを連れて遊びに行ってもいいかな?」

「ああ、じゃあ父さんに聞いておくから、みんな来るか?」

 ソールは他の五人に視線を振った。

「僕たちも行っていいの?」

「かまわない。リリーの家ほど十分なもてなしはできないし、妹が割り込んでくるかもしれないが」

「私は大歓迎だよ。久しぶりにペイアに会いたいし」と御者台にいたセピアがふり返る。以前ペイアとかわした約束をリリーは流さず、きちんと実行してくれた。リリーとセピアがペイアを連れて買い物に出かけたのだ。その日ペイアは本当に楽しかったようで、帰宅後おしゃべりがとまらなかった。 


“なあ、ソール。妹を連れてくるのやめてほしいんだが”

“遊びにくいんだよな”

“別に無理して俺たちに付き合わなくていいぜ。そのほうがお互い楽だろ”

“お前が最初から妹と家にいれば、俺たちも待ちぼうけをくうこともないし”


 まだ耳に残っている不満の声を、リリーの言葉がかき消した。

「ペイアの誕生日に呼んでもらったでしょ? だから私の誕生日にペイアを呼ぼうと思ってるの」

 一人では来られないだろうから、セピアに迎えに行ってもらおうかなって話してるんだけど、と言うリリーの笑顔にソールはつられた。

「連れていくなら俺が――」

 提案しかけ、はっと口を閉じる。

「本当? ソールも来てくれるなら嬉しいな」

「あ、いや、しかし……」

 ますます顔をほころばせるリリーにソールがためらっていると、セピアが加勢した。

「送っていくだけなんてつまらないでしょ。ソールも参加すればいいよ。まあ、私の誕生日の祝いじゃないんだけど」 

「私たちも行っていい?」

 フォルマが手を挙げる。

「もちろんだよ。ありがとう、今年はすごく賑やかになりそう」

「ルテウス、主役はリリーだからね。贈り物を用意する相手はキュグニー先生じゃないよ」

 念を押すレオンに「わかってる」と無愛想に答えつつ、抜け目のないルテウスはキュグニー教官の誕生日をしっかりリリーに聞いていた。

 リリーの誕生日に自分から行きたいと言ってしまったようであせったが、みんなが混ざって話が進んだおかげか、オルトから露骨にとめられることはなかった。フォルマたちも行くならと黙認したのかもしれない。

 もっと慎重に応じなければと、ソールは内心で息をついた。誘われるとつい嬉しさがまさって動いてしまうが、いつもいつも見逃してもらえるとは限らない。

 きっと今まではセピアとオルトの二人だけでリリーを祝っていたはずだ。本当のところはどう思っているのだろうと、御者台でセピアの隣に座るオルトの背中をソールは見つめた。



 トレノ市の中心地だけあり、カラザーンの町は人の往来が激しかった。七人は預かり所で馬車をとめ、まずは早めの昼食をとった。食べながら今日の夕食と明日の朝食の希望を聞き、その場でソールが食材を決めて紙に書いていく。基本的に六人は嫌いなものが少ないので助かるが、あまり買い込んでも時期的に傷みやすいので、作れるものは案外多くなかった。

 そして料亭を出てから、ソールは買い物の紙を裏返して六人に差し出した。あえてくじ引きの形にすると六人は楽しそうに選び、フォルマとレオン、セピアとルテウス、ソールとリリーとオルトの目指す店がかぶった。

 待ち合わせは馬車を預けた場所にして、先に四人が去る。自分がやったとはいえなぜこの組み合わせになってしまったのかと緊張しながら、ソールはリリーとオルトを連れて野菜の店に入った。

 二人に野菜の選び方を教えていると店主が話しかけてきたので、雑談に応じる。その間、リリーとオルトは二人であれこれ相談しながら野菜を決めていた。

 やはり長い年数をともに過ごしているからか、互いになじんでいるように見える。自分と対戦するときとはまるで違うオルトの穏やかなまなざしを自然に受けるリリーに、ソールは瞳をすがめた。

「兄ちゃん、これも持っていきな」

「ありがとうございます」

 店主と話し込んだおかげで果物もおまけでつけてもらい、店を出る。少しばかり遅くなってしまったため急いだが、まだ誰も来ていなかった。

「荷馬車を引き出してくる」

 ソールに自分の割り当て分を預けたオルトが手続きに向かう。荷馬車の扱いはオルトのほうが慣れているので、ソールも素直に任せた。

「重くないか?」

「二人とも一番軽いものをくれたから、片手でも余裕だよ。ソールこそ大丈夫?」

 リリーが聞き返したところで、「あれえ? ソールじゃないか」と声をかけられた。

「久しぶりだなあ」と手を挙げて近づいてきた集団にソールはこわばった。警戒と気まずさが顔に出たらしく、ディックが目を細めた。

「何? 女の子連れ? うわ、すげえかわいい子だな」

 リリーに注目するディックたちに胸がざわつく。荷馬車はまだかと、ソールは預かり所を見やった。

「まさかお前の恋人か?」

「……冒険仲間だ」

「冒険? お前が?」

 よほど驚いたのか、ディックたちは唖然としたさまで顔を見合わせた。

「君、名前は?」

 ディックの質問に、リリーがソールを一瞥して「リリー・キュグニーです」と名乗る。

「本当にかわいいな。もしかして今年の黄玉?」

 否定するリリーに、ディックはさらに一歩近づいた。

「俺の名はディック・バラン。俺たちはソールと同じ鍛錬所に通っていたんだ。今はスクルプトーリスの生徒だ。よろしく、リリー」

 ディックが右手を差し出す。片手でも余裕で持てると言っていたのに両手で荷物を抱え直し、リリーはぎこちない愛想笑いでペコリとお辞儀をした。

 初対面の相手に必ず親しみやすさを演出するディックにつられなかったことに、ソールは安堵した。しかしディックのほうはリリーのよそよそしさが気に入らなかったのか、かすかに眉をはね上げた。

「リリー、ソールから俺たちのことを聞いてる?」

「え、ううん、何も……」

 首を横に振るリリーに、ディックが刺すような疑いのまなざしを一瞬ソールに投げる。

「ソールが冒険仲間って本当なのか?」

「うん、そうだけど、それが何か?」

「だってこいつ、嘘つきだぜ」

 えっ、とリリーが驚いた容相でソールをふり返った。

「いつも約束破ってばかりでさ」

「こんな奴が一緒に冒険できるとは思えないんだけど」

「絶対、やめたほうがいいぞ」

 立て続けに悪口を言いだしたディックたちに、ソールはうつむいた。

「やれ妹が熱を出しただの、買い忘れたものがあっただの、今日中に洗濯しないといけないものがあるだの、そのたびに俺たち待たされてさ」

「すっぽかされるこっちの身にもなれっての」

 ソールは荷物を持つ手に力を込めた。反論できないだけに黙るしかなかったが、できればリリーには聞かせたくなかった。

「予定がすぐ変わるから連絡取り合うのだって面倒だし、リリーも本当は迷惑してるんじゃないか?」

 ディックのとどめの一言に、ソールはびくりと体を揺らした。顔を上げると、眼前のディックは薄笑いを浮かべていた。

「ソールの奴が無理やり参加したんだろ? 俺たちと疎遠になって寂しかっただろうし、リリーはかわいいから」

 違う、と初めて言い返そうとしたソールより先に、リリーが口を開いた。

「ソールを誘ったのは私たちだけど」

 いつものほがらかな調子ではない。珍しくむっとした様子で、リリーはディックを見据えた。

「ソールは家のことをいろいろしないといけないから急用もあるだろうし、都合がつかないときは仕方ないじゃない。でもソールはいつも私たちを助けてくれるよ。強いし、料理はおいしいし、みんなに気配りができるすごい人なの」

「だから私は、ソールが仲間になってくれてよかったって思ってる」とはっきり答えたリリーに、場が静まった。

「あなたたちといた頃は、きっとお母さんを失くして、家事とかやることがいっぱいなのに段取りよくできなくて、一番大変だった時期じゃないの? 落ち着けばまた遊びに行こうって、つらかったら話だけでも聞くよって、誰も言ってあげなかったの?」

 カルパからはソールの文句なんて一度も聞いたことがないのにとリリーに非難され、今度はディックの後ろにいた少年たちが決まり悪そうに下を向いた。

「……リリーの言うとおりだな。ソール、悪かった。お前の置かれている状況をもっと配慮してやらないといけなかったのに、俺たちは自分のことばかり考えてしまっていた」

 ディックが頭を下げ、微笑んだ。

「ソールはゲミノールムでは一回生代表なんだろう? 俺も一応代表なんだけど、たぶん今でもお前には歯がたたないだろうな」

 よかったら仲直りを兼ねて今度鍛錬所で会わないかと提案されたが、ソールは返事をしなかった。すると、隣で気づかわしげにしているリリーへとディックは視線を流した。

「ソールは昔から強くて、俺たち誰もソールに勝ったことがないんだ。それだけじゃなく、槍を持つ姿が本当に格好よくてさ」

 急にほめはじめたディックにリリーが困惑顔になる。リリーを懐柔するつもりだと察し、ソールはとっさにリリーを背にかばおうとした。

「うん、そうだね。ソールは格好いいと思う」

 聞こえた言葉にはっとして、リリーをかえりみる。ばちっとまともに目があい、気恥ずかしさに視線を泳がせたとき、「お待たせー!」とレオンたち四人が現れた。

「必要なものは買ったんだけど、つい他のものに目移りしちゃって」

「あれ、ソール、その果物どうしたの?」

 予定にはなかったものだよねと尋ねるセピアに、リリーがすかさず答えた。

「ソールが野菜屋のおじさんと話してて、おまけでもらったの」

 これってセピアの大好物だよねと笑うリリーに、セピアがうなずいた。

「そうよ。やったね、ソールに感謝だわ」

「――で、こいつらは何だ?」とルテウスがディックたちをあごで示す。いきなり増えた仲間に気圧されたのかディックは沈黙し、ソールも口ごもったところで、オルトがようやく荷馬車を引いてきた。

「そろったな。出発するぞ」

 買い物袋を荷馬車の後部に積んだ者から乗り込んでいく。ソールも二人分の荷物をそっと荷台に下ろした。

「またな、ソール」

 ソールの肩に触れたディックは非常ににこやかで、事情を知らない人間にはさわやかで感じのいい少年に映ったはずだ。しかしソールはつかまれた肩の痛みに顔をしかめた。瞬間的に力を込めたディックが小さく嗤い、昔からつるんでいた数人とともに去る。それに続く連中には初めて見る顔もあったが、最後尾のアンデュレたちは名残惜しそうに何度もソールをふり返っていた。

 彼らを見送り、ソールも荷馬車に乗る。動きだしてしばらくしてから、レオンが声をかけてきた。

「さっきの人たちって、ソールの知り合い?」

「……ああ、入学前まで同じ鍛錬所に通ってた」

「たちの悪い相手だったみたいだね」

 驚くソールのそばでリリーも目をみはった。

「レオン、いつから話を聞いてたの?」

「別に何も聞いてないけど、ソールの表情がかたかったから、嫌な目にあったんだろうなって思っただけだよ」

「そうそう、愛想のいい人って時々すごく怖い裏の顔があったりするし、ソールがあんなに警戒するなら危険人物なんじゃないかなって」とセピアも続く。

 やり取りを見ていなくてもわかるくらい自分は顔に出していたのかと反省すると同時に、皆が自分の側に立っていることに胸が熱くなった。

 何より、あの場でリリーが味方してくれたのは大きい。これまでディックの誘導に引きずられる者ばかりで、面と向かって批判する者はいなかった。昔はやんわり意見していた自分も、輪から外れて以降は言い返さなくなったから。それがディックをさらに増長させてしまったのかもしれないが。

“ソールは格好いいと思う”

 ただ単に、ディックに話をあわせただけかもしれない。それでも耳に、脳裏に染みついて離れない。

「リリー、悪い。俺の水筒を取ってくれ」

 オルトに頼まれたリリーが脇に置いていた袋から大きな水筒を出す。膝立ちで御者台へ近づいたところで、馬車が道の小さなくぼみにはまりかけてガクンと揺れた。

 そのまま倒れそうになったリリーにオルトが身を乗り出す。片手で抱き支えられたリリーは「ありがとう」とオルトに笑顔を向け、オルトもやわらかい笑みを返した。

 たったそれだけでオルトの気持ちが伝わってきて、ソールは唇を引き結んだ。

 今朝さんざん躊躇して持ってきた紙を、ズボンのポケットの中でくしゃりとにぎりつぶす。

 ディックの表面的な愛想に引きずられることなく自分を信頼してくれる仲間ができたのは、きっと身に余る幸運だ。

 だから――やはり壊してはならないと、ソールは己を戒めた。



 カーフの谷に到着したのはまだ明るい時分だったが、鳥を探すのは明日と決めていたので、七人は荷馬車をとめた空き地で野営の準備にとりかかった。

 先に近くの川で水を汲んできたソールは、野菜を切っているリリーの手元をのぞき込んだ。

「手際がよくなってきたな」

「実は、時間のあるときにお母さんと一緒に作ってるの」

 以前ルテウスに馬鹿にされたのがこたえたから、できるだけ手伝いをするよう意識しているという。ついでにリリーは父親に教えてもらったといって、最近出回っている調味料について有益な情報をもたらしてくれた。

 自分の父も料理はよくするが、キュグニー教官ほど味付けをあれこれ試すことはない。リリーから仕入れた話をもとに作ってみるとほぼ失敗しないので、献立に悩んだときは本当に助かる。

「もう、リリーに任せても大丈夫じゃないか?」

「全然だよ。まだ不安しかないから、ソールについていてもらわないと」

 そういえば、昔お父さんがいろんな調味料を使うからたまに変な味のものができて、オルトのお母さんに何度か怒られたんだってと、リリーは笑った。リリーの父親は本当に好奇心のかたまりらしい。

 キュグニー教官に弟子入りしてはどうかとレオンに冗談で言われたことがあったが、もし許されるならと最近考えることがある。もっとも、そのときは先にオルトに相談する必要があるし、ルテウスも連れていかなければならないが。

「……昼間は出しゃばっちゃってごめんね。なんかすごく腹が立って」

 水を張った鍋を火にかけていたソールに、リリーがぽつりとこぼす。ソールの昔馴染みなのに言い過ぎたとあやまるリリーに、ソールは「いや、いい」とかぶりを振った。

「俺は、あいつらに文句を言われても仕方のないことをしたから」

 リリーが想像したとおり、母が亡くなり、家事全般を引き受けるようになってから、約束をしていても行けないことが多かったのだとソールは説明した。邪魔になるとわかっていながら何度もペイアを連れていったし、ペイアが急に体調を崩したときは家に残していくわけにもいかず、都合が悪くなったとカルパに伝言を託していた。

 ある日、今日だけは絶対に来いと言われたことがあった。朝からペイアがぐずって機嫌が悪かったが、カルパは留守だったので、隣家に頭を下げてペイアを預け、待ち合わせ場所に行った。しかし三時間経っても誰も来ず、帰ろうか迷ったとき、ディックたちがやってきた。

「待たされる俺たちの気持ちがわかったかと責められて、何も言い返せなかった。俺も大変なんだからとどこかで甘えていたのだと、思い知らされたんだ」

 そのとき彼らに謝罪し、以来二度と一緒に出かけることはなかった。入学するまでケントウムの町の槍鍛錬所には通い続けたが、ディックたちと槍を交えるどころか話すことすらしないまま別々の道に進んだのだ。

「だからこの集団に誘われたとき、また迷惑をかけることになるかもしれないと正直不安だったんだ」

「迷惑だなんて、むしろ私たちのほうがソールのお世話になってるのに」

 こんなおいしいものを食べられるなんて幸せだよねと言ってから、リリーは「あ、もちろんそれだけじゃないよ」と訂正した。その必死さにソールはくすりと笑った。

「ああ、わかってる。お前がディックたちに反論してくれて……ペイアのこともかわいがってくれて、この集団に入ってよかったと思ったんだ」

 これからも俺にできることはやりたいと告げると、リリーはうなずいた。

「私も、ソールと一緒に冒険できて嬉しい」

 鍋に野菜を投入していくその横顔は照れ臭そうで――可愛らしかった。

 そこへ、フォルマとレオンがたきぎの追加を運んできた。

「まだ鍋で野菜を煮てるだけなのにおいしそうに見えるのはなんでだろうね」

 ぐつぐつといくつもの泡を噴き上げている鍋を見てレオンが言う。

「味が保証されているとわかってるからじゃない?」

 フォルマの言葉に納得顔でうなずいたレオンは、リリーに対しにんまりした。

「リリーも花嫁修業は順調みたいだね」

「花……!? そ、そんなんじゃないよ」

「でも野菜の大きさ、かなりそろってるよね。だいぶ練習してるでしょ」

 本当によく観察しているなとソールは感心した。しかしリリーは『花嫁修業』に動揺しているらしく、恥ずかしさを隠すようにむうっと口の端を曲げて灰汁取りを始めた。

「おーい、レオン! フォルマ! 手があいたらこっちを手伝ってくれ!」

「了解ーっ」

 天幕を張っていたオルトの要請に手を振って応じ、レオンとフォルマが離れていく。

 この状態で二人だけにされ、どうしたものかとソールが困っていると、リリーが話題を変えた。先日の風の法の演習中、一回生の発動させた『砦の法』が偶然法塔に入ってきた教養学科の教官のかつらを吹き飛ばしてしまったのだという。ロードン教官に用があったらしいが、いつも横柄な態度の教官が実はかつらだったことがばれ、非常に気まずい空気が流れたのだと話すリリーに、ソールも吹き出した。

 ぼつぼつと雑談を交わしているうちに鍋が完成する。その頃にはあたりにいい匂いが立ち込め、天幕の設営を終えた仲間が集まってきた。

「うまそうだな」

「よく動いたからお腹ぺこぺこだよ」

「この匂いだけで鳥が寄ってこないかな」

 みんなでわいわい言いながら食器などの準備をしていく。汁椀によそったリリーが隣のソールに声をかけた。

「明日、人の言葉を話す鳥がうまく見つかるといいね」

 ちゃんとなついてくれるかなと期待に輝く薄緑色の瞳から、ソールは目をそらした。

「……そうだな」

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